現地で活躍するプロ人材が中小企業の海外進出基盤をスピード構築 ~難易度の高いドバイでの化粧品の許認可を3ヶ月で取得し、ECサイト販売の活路を開いたプロセス~
2020年に創業60年を迎えた化粧品成分開発メーカーの三省製薬株式会社。同社は長期的な会社の成長のためにドバイ進出を目指しましたが、数年経過しても商品は販売に至らずプロジェクトは難航していました。そんな中、新たに参画したのがプロ人材の大谷慶仁氏(以下:大谷)です。三省製薬はその後わずか1年の間に許認可を取得し、販路も確保しました。海外進出の基礎を築けた理由は何だったのか。代表取締役社長の陣内宏行氏(以下:陣内社長)も交え道のりを伺いました。
Contents
3年かけても成果ゼロ。厳しい状況が続く海外進出の活路を見出すため、プロ人材を頼ることに
化粧品成分開発メーカーとして60年間女性の「美」に寄り添ってきた三省製薬
陣内社長:当社は1960年に福岡県大牟田市で創業しましたが、前身である「陣内三省堂薬局」が誕生したのはさかのぼること明治20年、1887年です。地域に貢献する薬局として歩み続け、製薬部門を独立させたのが三省製薬株式会社となりました。
以来、当社は美容成分の開発から化粧品の生産までを一貫して手掛けています。日本で初めての美白有効成分「コウジ酸」を開発し、オリジナル化粧品ブランド「デルメッド」も設立しました。女性の「いつまでも若々しく美しくありたい」という願いに応えるため、現在に至るまで日々研究開発に従事しております。
また、2017年には大池さんしょう保育園を開設するなど、仕事・子育て両立支援事業にも力を入れています。
当社の営業は担当領域が幅広いのが特徴で、営業先の選定をはじめ、見積もり、工場への発注、納期設定、コストやクオリティの調整に至るまでプロジェクト全体を統括します。このように大きな役割を一担当者に任せるというカルチャーがあるので、なるべくのびのびと、自由に働いてもらえるような社風を目指していますね。
中東進出を目指しコンサルタントの協力も仰いだものの、許認可の取得が大きなハードルとなり足踏み状態に
陣内社長:今後、日本の人口はどんどん減少します。その中ではどの企業も国内の厳しいシェア争いに巻き込まれていくことになるでしょう。それは自社も例外ではありませんから、国内の競争にはしっかり立ち向かっていく心構えでいます。一方、海外にも目を向けて販路を求めるのは自然なことです。
特に日本の化粧品という分野は意外と海外進出していません。
メイド・イン・ジャパンというクオリティのアドバンテージが保たれている間に、早めに海外に製品を発信すべきだと考えました。
戦略としては、インド・中東・アフリカを目指そうと決めました。人口が増えていることはもちろん、日本の競合他社が少なく、化粧品の中でもスキンケア商品の利用率はまだまだ低い状態だからです。その中で当社がまず注目したのはドバイです。国としてはさほど大きくはありませんが、中東、インドに加え、ロシアへのゲートウェイにもなる点が魅力でした。
当社が持つ金融機関とのネットワークを通じてドバイを見学し、コンサルタントも雇いいざ進出を図りました。しかし、化粧品は雑貨などとは違い許認可が必要で、なかなか販売体制を構築できませんでした。展示会にも出てみたのですが、やはり実績が無いと厳しかったですね。
第三者的な立ち位置のコンサルとは異なり、自社のメンバー同様に協働してもらえるプロシェアリングに望みを掛けた
陣内社長:ドバイ進出を目指して3年ほど経過しましたが、販路開拓はおろか許認可すら取れていない状況が続き、悩んでいました。そんなとき、西日本シティ銀行さんが発行している情報誌でたまたまサーキュレーションさんの紹介を見つけたんです。
詳しく話を聞いてみると、プロシェアリングは通常のコンサルタントとは立ち位置がはっきり違うということがわかりました。コンサルタントはどうしても第三者的な立ち位置からの提案になりがちで、自社の利益と提案内容が合致しない部分が少なからずあります。一方、プロシェアリングの場合は海外進出に精通した専門家が自社のメンバーの一員として動いてくれるスタンスのようでした。
サービスに興味を持ち、紹介していただいたのが大谷さんです。彼は語学が堪能な上、ビジネスセンスがあり経験も豊富でした。当社のような地方の中小企業では採用が難しい人材だったので、ぜひ一緒にプロジェクトを進めてほしいと思いました。
幅広い領域で企業の海外進出をサポートし、任された範囲をも超えてビジネスの成長を図る
プロ人材 大谷慶仁氏
大谷:私はシンプレクスでITコンサルタントとして働き、その後はパソナでインド人の人材派遣業務などを経て独立しました。現在はドバイをメインに企業の海外進出を幅広く支援しています。ITコンサルの経験を生かして、ECサイトの立ち上げや現状分析、保守運用などにも対応しています。
企業をご支援する際は、任される範囲を超えて案件に取り組む傾向があるかもしれません。生意気に思う方もいるかもしれませんが、どうすれば会社のビジネスがより良い方向に進むのか、いつも気にかけています。
三省製薬さんは私が参画する何年も前からコンサルタントの方と海外で活動を続けていて、ドバイのことをかなり調べていました。展示会にも出展されていましたし、中東に対してかなりこだわりがあるのだという印象でしたね。にもかかわらず上手くプロジェクトが進んでいなかったのは、化粧品というカテゴリで貿易をする難しさが大きかったのだと思います。許認可の取得はもちろん、中東はハラルという宗教上の問題も絡みます。そのあたりが課題になるだろうと認識していました。
徹底した情報収集によって数多くの選択肢を提示し、着実にプロジェクトを前進
同じゴールを目指す会社の一員というスタンスでプロジェクトがスタート
陣内社長:大谷さんには隔週で打ち合わせに参加してもらう形で支援がスタートしました。当初は基本的に私が主導していましたが、ほかのメンバーも大谷さんと一緒に動いていましたね。当社くらいの規模感の会社ではなかなか海外事業を自分ごと化しづらい面があるのですが、大谷さんの存在もあって、支援から1年経つころには「自分たちでこの仕事を進める」という雰囲気がかなり出てきましたよ。現在は海外の案件を担当する事業開発部のメンバーが中心となり、プロジェクトを進めています。
大谷:隔週参加という契約でしたが、私自身のスタンスとして「この週のこの時間だけ働く」という感じではありませんでしたね。一緒に目指すゴールに向かって、自分ができることは最速で進める形でご支援させていただきました。
ただ、海外事業の特性としてもどかしいのは、自分にあるボールを即座にさばいても、相手側にボールが渡るとなかなか返ってこないケースが多々あることです。仮にこちらが顧客という立場で取引をしていても、「進捗はどうですか」と相手に尋ねて悪い印象を持たれると、その後の業務が進めづらくなります。お互いの人間関係を壊さないように注意を払いつつも、極力急いでもらう。このバランスを取るのは苦労した点です。
大谷さんの会社を代理店として、的確な指示のもとわずか3ヶ月で許認可の取得に成功
陣内社長:支援の第一歩として、まず許認可を取得することになりました。当初はパートナー会社を探し、そこを介して取得しようと思っていたのですが、大谷さんの会社でも取れるということだったのでお願いすることにしました。すると、数年かかっていた許認可がわずか3ヶ月で取れたんです。
大谷:許認可を得るにしてもいろいろな方法があります。例えば三省製薬さんが自分たちで現地法人を立てる、私の会社を代理店にする、あるいはもっと別の代理店を探すといったように、極力多くの選択肢を洗い出してご提案しました。その結果、私の会社で取るという決定をしていただいたわけです。
今回のプロジェクトでは、こうした陣内社長の決断力が成功のポイントになりましたね。プロである私自身にもどの選択が最適解なのかは不透明なので、とにかく情報を集めて選択肢を提示することになります。その中から良いものを決断してもらうというプロセスが非常に重要なのです。
選んでさえいただけたら、あとはゴールに向かって一生懸命取り組むだけです。許認可の場合は三省製薬さん側に資料などを大量に用意してもらうことになりますから、ルールや進め方をわかりやすくお伝えしました。
陣内社長:英語の資料作成はこれまでも経験はあったのですが、ドバイ向けということで本当に苦労しました。大谷さんに助けてもらった部分がたくさんあります。
ただ、こういった手順は一度こなしてしまえば会社に経験値が積み上がりますし、次の機会はもっとスマートにできそうだと確信しました。
大谷:最終的に6商品で許認可を取得できました。1商品は再検査が必要になったのでラボで実施することになったのですが、実はこのとき立ち会う方の90%がドバイ以外の外国人だったんです。これでは話が通じなさそうだと懸念し、現地人を呼んでもらいました。商品に使用禁止成分は含まれていないこと、美容に効果があることをしっかり伝えて乗り切りましたよ。
ドバイは商慣習や人間関係が独特なのですが、ネットに情報は落ちていません。人脈も駆使しながら決裁者やキーパーソンに立ち会ってもらうことがかなり重要なんです。
パートナー発掘の前段階として販売実績を作るためにAmazonへの出店を進め、物流の仕組みも構築
陣内社長:許認可取得後はいよいよ販売のパートナーを探そうとしたのですが、やはり実績が無いためすぐには良い相手が見つかりません。そこで、実績作りのためにECサイトでの販売をスタートすることになりました。
大谷:任意の通販サイトにアカウントをオープンして商品を掲載する流れは日本と同じです。ECプラットフォームには自社で倉庫を持っているところもあれば、配送は出店者が行うというパターンもあります。こうした条件によって違うサイトごとの販売の難易度を判断し、プライオリティをつけてどのプラットフォームが良いかをご提案しました。具体的にはSouq.comを買収した最大手のAmazonを最有力候補としてアプローチした感じですね。現在はAmazon以外のECサイトの利用も検討中です。
また、国際物流企業や倉庫を提供している企業とも契約を結びました。ECサイトから注文が入れば倉庫や物流会社に注文書を回し、商品をきちんとお客様に届けるための仕組みがすでに完成しています。日本から誰もドバイに訪問せずに入庫も完了しました。
陣内社長:自社のECサイトでの販売もスタートしようとしているところで、とても期待しています。
ドバイで売上を伸ばす基盤が整い、海外シェア10億円を目指した次なる展開もスタート
陣内社長:今回のプロジェクトの大きな成果は、数年かけても取れなかった6商品の許認可を取得し、ECサイトでの販売をスタートできたことです。さらに現地の信用できるPR会社との提携にも成功して、着実に売上が出始めています。コロナの影響で中止になってしまいましたが、世界最大級の化粧品見本市である「ビューティーワールド ジャパン」への出展も決まっていました。
ドバイで大きな手応えを得たからこそ、社内では次はインドにも進出しよう、引いては日本でも何か新しいことをやってみようという話が出ています。当面の目標としては海外シェア1億を目指しますが、将来的には10億規模にまで広げたいですね。
大谷:中東進出の結果としては陣内社長がおっしゃったような成果が出ていますが、まだまだ投資フェーズだと思います。今後は例えばバルクやOEMの取引など、いかに利益を出してビジネスをよりスケールさせていくのかという視点で動いていきたいですね。
専門家の持つノウハウを間近で見られることが社員にとってもプラスになる
陣内社長:支援はまだまだ続きますから、今後もどうぞよろしくお願いします。しっかり成果を狙っていきましょう。
今回のプロジェクトをきっかけに海外事業が組織を挙げて取り組む分野に成長したこと自体も、会社としては大きな資産です。成果が着実に出ていることと、大谷さんが一緒に走ってくれたことが良い影響を与えてくれたのだと思います。
大谷さんはもちろん、サーキュレーションの担当者である久良木さんとお仕事をしていてやりやすいのは、ビジネスでどういう手を打ったら次にどう展開するのか、流れをよくわかっていらっしゃることです。話が非常にスムーズに進みます。そんなお二人とのやりとりは当然社内にもプラスに影響しています。
プロシェアリングのサービスを求めている中小企業は、ほかにもたくさんあると思いますよ。単純にアドバイスするだけではなく、専門家が熱意と責任感を持ってプロジェクトをリードしてくれるのは、一般のコンサルとは違う利点です。幅広い層の方々がプロ人材の活用というサービスに気づいて気軽に相談できるようになれば、日本企業の可能性が広がりそうですね。
大谷:私も引き続きがんばります。予期せぬ事態はつきものでこれからも色々壁は立ちはだかると思いますが、その都度できることを精一杯やってブーストをかけていきたいと思います。
サーキュレーションさんとも長くお付き合いしたいと思っています。担当の久良木さんは幅広い分野への知見をお持ちなので、今回も国際貿易や海外展開の戦略面でヒントをいただきました。今後も私にできることはもちろん、今できないことがあってもどんどんキャッチアップしていきます。お役に立てることがあればぜひよろしくお願いします。
大手企業であっても難易度が高い海外進出。ドバイへの夢を諦めずに新たな道を模索した結果、陣内社長さんが行き着いたのがプロシェアリングという手法でした。中東での成功は、三省製薬さんのさらなる飛躍につながることでしょう。
本日はお忙しい中、ありがとうございました!
中東への海外進出案件におけるまとめ
中央:三省製薬株式会社 陣内宏行代表取締役社長
右:サーキュレーションコンサルタント 久良木 太士
課題・概要
ドバイ進出を目指しコンサルタントとプロジェクトを進めたが許認可を取得できず、展示会に出ても実績が無いため販売にはつながらなかった。進捗が無いまま3年が経過したものの海外シェアの獲得を諦めずに方法を模索。そんな中でアサインされたのが現地で企業の海外進出を支援する大谷さんだった
支援内容
- 1年目は社長をカウンターパートとして隔週でミーティングに参加
- 許認可取得の方法をいくつか提示した上で、大谷さんの会社を代理店として取得を進めた
- 販売実績を作るためにECサイトの利用を決定。情報収集し最大手のAmazonへの出店計画を推進。現在は自社ECへの展開も検討中
- 国際物流企業や倉庫会社と契約を結び、物流の仕組みを構築。日本からの訪問無しに入庫まで完了
成果
- クラウドファンディングで100万円以上の支援の獲得に成功
- 自社ブランドを立ち上げ、新規事業部化に成功
- デザイナーは自分のデザインを表現するという視点から、プロダクトで会社全体に変革を起こすという視点にまで視座が上がった
- 新しいことに挑戦できる社風であることを社内に示すことができた
- 新規、既存顧客を問わず新たに企業からコラボ企画の依頼が来るようになった
支援のポイント
- 経営の方向性が変わることはつきもの。採用では残るリスクも、プロシェアリングであれば社長の想いを汲み取り臨機応変に状況変化に対応できる
- 個人的な知り合いに手伝ってもらうと当事者同士の狭い議論に陥る危険があるが、サーキュレーションが第三者目線で入ることで冷静に着実に話が進められる
企画編集:新井みゆ
取材協力:三省製薬株式会社
※ 本記事はサーキュレーションのプロシェアリングサービスにおけるプロジェクト成功事例です。