新規事業開発におけるIoT活用ポイント ~IoTの基礎と活用事例から学ぶ~
テクノロジーの進化は目覚ましく、ビジネスの未来を見通すうえでIoTをはじめとしたテクノロジーの活用は極めて重要なテーマになっています。テクノロジーを携えた「IT企業」が「非IT企業」に進出してイノベーションを起こしていますが、「非IT企業」自身からもテクノロジーを活用してイノベーションを起こしていく必要があるのではないでしょうか。「リアル」にいかにテクノロジーを活用していくか。いかにIoTを推進していくか。「非IT企業」の経営者は、今変革に迫られているのではないでしょうか。
しかし、そもそもIoTで何ができるのか正直よくわからないという声も多く聞きます。IoTとは何でしょうか。そしてIoTでどのようなことが実現できるのでしょうか。
本記事ではサーキュレーションで行われた、プロ人材によるセミナーの内容をもとに経営者が今知っておくべきIoTについて解説します。なお、本記事はサーキュレーションで行われた経営者のためのパネルディスカッションイベントの内容をもとに構成しています。
登壇者:山田勝俊氏
株式会社コルノバム代表取締役 兼 LIBERTY POOL PTE. LTD. 取締役CSO
ディーキン大学経営大学院(MBA)卒業後、IT業界での勤務経験を経て2社起業。その後、多国籍AIスタートアップ、コージェントラボでセールスディレクターとして、200社以上の大企業、中小企業向けにAIで手書きをデータ化するサービス「Tegaki」をはじめ、その他AIの導入コンサルティングを実施。2018年度から再度大企業、中小企業向けにAI導入コンサルティング及び新規事業開発支援を行う。
登壇者:堺 礼氏
株式会社 Logical Fabrics代表取締役
中学時代からソフトウェア開発を始め、日経・アスキー等の雑誌に掲載される。16才よりエンジニアとして活動を開始。シアトルセントラル大学を経て、外資系マーケティング企業2社の日本支社ITマネージャを務める。その後独立し、同時に IoT関連企業TenTenのアーキテクト、AI関連企業Cogent Lab の DevOpsディレクターとして活動。Google の人工知能関連部門と共同でプロダクト開発等を行う。現在は AI, RPA 等を含む、先進技術コンサルタントとして活動している。
登壇者:ポチエ真悟氏
株式会社HUB Tokyo 取締役/合同会社w00rk代表
イノベーションプロ人材・事業プロデューサー
HUB Tokyoが運営するコミュニティ、Impact HUB Tokyo共同設立者。Impact HUBは世界約100カ所で展開する世界最大規模のアントレプレナーのコミュニティネットワーク。英国インペリアル大学機械工学修士課程修了。ロンドンで金融機関に勤務後、スタートアップやそのエコシステムづくりに関わる。2012年来日。イノベーションの起爆剤としての空間、人、ネットワーク、システムの設計やシミュレーション、コンセプト作りを専門とする。イノベーションの過程は一部の企業や都市が独占するのではなく、全ての市民が関わることでより豊かになると考える「イノベーションの民主化」を掲げる。
モデレータ:高橋崚真
株式会社サーキュレーション サービスインダストリー コンサルタント。
横浜国立大学卒業後、株式会社サーキュレーションに新卒一期生として入社。人材・物流・介護・旅行・出版・教育などのサービスインダストリーを担当しながら、地方創生のプロジェクトにも従事。
Contents
テクノロジーを活用した事業開発とは
サーキュレーションには最近「既存事業にテクノロジーを活用して新たな価値を生みたい」「IoTを活用して新規事業を開発したい」というご相談が多く寄せられます。IoTを活用した事業開発は、経営者の方にとって関心の高いテーマと言えるでしょう。しかし、サーキュレーション高橋によると「何から手をつけていいのかわからない」という悩みを抱えている経営者の方も多いと言います。
経営者である以上IoTやテクノロジーに関するプロ人材である必要はありませんが、IoTに関する基礎に関しては把握をしておく必要があるとプロ人材は口を揃えます。
そもそもIoT とは何か
そもそもIoTとは何でしょうか。Logical Fabrics代表取締役の堺礼氏はよく「IoTって何がすごいのですか?」と聞かれるそうです。それだけでは答えようがないのですが、あえて言うならば「今まで予算の都合で難しかったことができる可能性がある」のがIoTです。
実は、IoT自体は新しい概念ではありません。昔からあった監視カメラや無人駐車場なども広い意味で言えばIoTです。それでは何が新しいのでしょうか。
それは通信とハードウェアが極めて安価になったというブレイクスルーにあります。
一昔前までは、ハードウェアの開発には億単位のコストと数年の開発期間がかかっていました。それが今では安価で短期間で実装できるようになったのです。また、通信環境が整備されたり、省電力化が進んだりしたことも大きな変化です。
IoTはあくまで手段のひとつ
つまり、IoTはあくまで手段のひとつなのです。したがって、どんなことを実現したいのかという目的が重要です。とはいえ、IoTがどのようなものかを知っておく必要はあります。
IoT機器の役割は大きくわけて下記の2つがあります。
- ①データ収集
- ②遠隔操作
両方にまたがる部分もありますが、今回はデータ収集に絞ってご説明します。
データを集める目的が重要
繰り返しになりますが、目的もなしにデータを集めても意味がありません。データを使ってどうするかという目的を明確にすることが重要です。
データにはいくつか種類があります。ひとつは、無人コンビニのように無人化・自動化に関するもの。もうひとつは、人の能力を拡張したり非属人化したりするものです。例えば工場の部品にセンサーをつけて、いつ壊れそうかを予測するといったものが該当します。
つまり、IoTとは単なるデータ収集や遠隔操作機器なのです。とはいえ近年急激にコストが下がり、データが価値を生む可能性も大きくなっています。これらの特性を理解したうえで、事業開発に生かしていくことが重要です。
AIとは何か
IoTを理解する上で切り離すことができない概念としてはAIがあります。
AIを理解するために、普通のソフトウェアと比較してみるとわかりやすいでしょう。例えばエクセルの売上表を作成する場合「表のA1からA9までの値を足す」「A10のセルにその値を表示する」など、判断の基準がロジックとして明確です。それらのロジックは人間が記述し、機械はその通りに動くだけです。
しかし、下記の写真から「ロジックで目の位置を検出してください」と言われるとどうでしょうか。
実は、目の位置をロジックで検出するのは非常に難しいのです。しかし、まだ話せないような小さな子どもでも目の位置はわかります。
そこで人間の脳の仕組みをまねさせたのがAIです。例えば人間の性別を判断させたいなら、身長や体重などを大量にインプットして学ばせるのです。
したがって、AI関連サービスには大量のデータが必要です。ここでIoTデバイスが活用できるのです。
まとめると、ロジックで説明しづらい判断ができるのがAIです。必ずしもAIのプログラム自体をゼロから作る必要はありませんが、大量のデータが必要になり、データを活用できるようにクレンジングする必要があります。
IoTで加速されるイノベーション
それでは、IoTを活用して実際にどのようなイノベーションを起こすことができるのでしょうか。HUB Tokyo 取締役のポチエ真悟氏は、IoTを活用して空間、人、ネットワーク、システムにイノベーションを起こしてきました。
IoT家具でイノベーティブな空間を作る
例えば、2017年にはHUB Tokyoが運営するコミュニティ、Impact HUB Tokyoの家具をスマート化しました。その目的はイノベーティブな空間を作り出すためです。具体的には、デスクなどの家具にセンサーを埋め込み、リアルタイムで集められたデータをもとにイノベーションの妨げとなる状況を判断しています。
つまり、イノベーションを妨げる情報をIoTデバイスにより収集し、環境改善に生かしているのです。その情報は二酸化炭素の量や湿度、騒音レベルなど多岐に亘ります。また一人が話し続けているミーティングはイノベーティブではない、といったことも判断できます。
ポチエ氏によれば、IoTを活用した理由はニーズがあったからだと言います。しかし、ゼロからの開発はできないので、既存のサービスと組み合わせるしかありません。つまり、インターネットを介した各パーツ、データベース、プラットフォームの接続がIoTだったというわけです。
IoTを検討する前にビジョンを明確に
またポチエ氏は、IoTに限らずイノベーションを起こすには必ずビジョンが必要だと指摘しました。そして「そのビジョンを達成するためには、IoTしかないのか?」ということもしっかりと検討する必要があると言います。プロ人材によれば、アナログで実現できる場合も多々あるそうです。
コルノバム代表取締役の山田勝俊氏、堺氏も同様にビジョンを明確にする重要性を強調しました。また山田氏は、経営者だけではなく関連するメンバーでディスカッションし、アイデアを広げていくことを薦めます。その際には、プロ人材も交えるとより効果的でしょう。
まとめ:IoTでイノベーションを加速するために
ここまで、IoTとは何かというところからIoTを活用したイノベーションについて見てきました。プロ人材が繰り返し指摘するように、IoTを活用して何を成し遂げたいか、ビジョンを明確にすることが重要です。まずは、自社内でビジョンを明確にするところから始めてはいかがでしょうか。何から始めていいかわからないという方は、プロ人材に支援してもらうことでアイデアが広がるかもしれません。
なお、本記事はセミナーでお話しいただいた内容から一部を抜粋したものです。セミナーでは、ほかにもイノベーションを加速していくための社内体制などたくさんのトピックスについてお話しいただきました。もっと詳しく聞きたい方は、次回の開催をご期待ください。