ビジネスコンテストとは 事業化に成功するためのノウハウ
現在、学生ビジコン、社会人ビジコン、社内ビジコンなど様々なビジネスコンテストが開催されています。しかし、予算や時間をかけ、審査を行っているにも関わらず入賞案件がその後しっかりビジネスとして回っている成功事例は多いとは言えないのが現状です。その要因を探り、成功するビジネスを生むための要素を考察します。
Contents
ビジネスコンテストとは?
まず、ビジネスコンテストとはどういったものであるか、簡単に概要を説明します。
そもそもビジネスコンテストとは
ビジネスコンテストは、個人やチームの参加者が用意したビジネスプランを審査するコンテストです。企画する側の主体としては、学生団体、企業から、官公庁などがあります。
主催者が企業である場合、社員を中心とした参加者からのビジネスプランを、新規事業の担当者が選考するような形が主流です。選考が進むにつれて、審査者が、担当者から責任者、最終審査では役員となることもあります。
最終選考において審査上位のプランの中から、事業化を検討するものを改めて精査し、出資を検討したり、人的リソースの支援といった対応が行われます。
ビジネスコンテストの参加者側のモチベーション
ビジネスコンテストには、起業を志していたり、解決したい社会問題があったりと、意識の高い人物が参加する傾向にあります。ビジネスコンテストへの参加は、一般に以下のようなメリットが挙げられます。
①賞金、協賛金による、直接的な金銭メリット
一般公募のビジネスコンテストにおいては、上位入賞者に対して企画により差がありますが10万円~100万円程度の賞金が付与されることもあります。
こうした資金を事業の資金に充てる目的で参加者も少なくありません。
②出資先として注目を受けることによる間接的な金銭メリット
仮に、コンテストとしては上位に選ばれなくとも、協賛各社や、観覧者の目に触れることにより、個別に繋がり、そこから出資の話に繋がるようなケースも存在します。
③メンターによるビジネスプランのブラッシュアップ
ビジネスコンテストでは選考の過程でメンターによるブラッシュアップを受けられるケースも多いです。実務経験、起業の実践経験のあるメンターからのフィードバックで、ビジネスプランを実践的な形にブラッシュアップできることも、プランの実現を目指す参加者にとっては大きなメリットです。
ビジネスコンテストの市場の変遷
国内で初めてビジネスコンテストを開催したとされているのは、1996年「学生のためのビジネスコンテストKING」(現:Business Contest KING)です。
その後、学生向けコンテスト、社会人向けコンテスト(社内、社外)など多くが2000年以降広がり始めました。2010年初頭には、一躍ブームとなりましたが、現在は起業のための手段が多様化したこともあってか、かつてほど盛んに各地で行われているわけではありません。
オープンイノベーションの手段としてのビジネスコンテスト
企業として、ビジネスコンテストを主催、もしくは他者の主催するビジネスコンテストに協賛することの最大のメリットは、ビジネスコンテストからオープンイノベーションが期待できる点です。
ビジネスコンテストで企業が得られるメリット
ビジネスコンテストを開催すること、もしくは開催団体のスポンサーとなることは、企業にとって、様々なメリットを打ち出せます。
たとえば、協賛企業としての広告効果は、社会全体から見た企業イメージの向上にとどまらず、ビジネスコンテストに参加する意識の高い参加者に向けた自社のPR活動になります。
ビジネスコンテストを社内で開催することは、起業意識の高い社員のモチベーション向上につながるのみならず、対社外向けのアピールとしても有効です。
しかし、主催にせよ、協賛にせよ、企業が最もビジネスコンテストを活用するメリットは、オープンイノベーションの一つの手段となりうる点にあります。
なぜ、オープンイノベーションが期待できるのか
ビジネスコンテストを開催、もしくは協賛することにより意欲の高い参加者や、粗削りながらも考え抜かれたビジネスプランとの接点を増やすことができます。
普段現場の最前線で活動している社員の視点や、社外の人材の視点から導き出される視点、問題意識、その解決策としてのビジネスプランは社内の新規事業担当者目線で見ても、大きなヒントになりえます。
自社の既存事業との親和性が高いと考えれば、本格的に事業化に向けて支援を行う形で、シナジー効果を発揮するのも難しいことではありません。
社内ビジコンの開催や、外部の協賛でかかる費用は、たとえばM&Aや、CVCを行うことと比較しても、かなり抑えることができます。既に事業化しているベンチャー企業への支援と比べると、リソースが割かれることにはなりますが、期待できる出資先の「種」を見つけるという視点では、有効な手段のひとつと言えるでしょう。
意欲や、ビジョンはあれど資金が不足していたり、事業化のノウハウが浅いという企画 参加者にとっても、企業の支援を受けて事業をスタートできることは大きなメリットです。
企画者、応募者が相互にメリットを出しながら、オープンイノベーションに繋がる点が、企業から見たビジネスコンテストの最も大きな価値と言えるでしょう。
代表的なビジネスコンテスト事例
ビジネスコンテストについて、具体的にイメージを持っていただいたところで、実際に国内で開催されている有名なビジネスコンテストについてご紹介します。
一般公開の有名ビジネスコンテスト
まず、一般公募可能なビジネスコンテストについて、代表的なものをご紹介します。一般公募の場合は、応募資格を満たした参加者を広く募ります。
①TRRIGER
TRRIGERは学生団体により運営される、日本最大級のビジネスコンテストです。参加資格は15歳~30歳の学生に限定されています。
決勝プレゼンの会場に特別ゲストが招かれ、起業の最新トレンドが学べることから、観覧者が次回の参加を希望するようになるなど、より優秀な企画が集まる仕組みが作られています。(話題。)優勝者には賞金として起業資金100万円が贈呈されるほか、上位者にプランのブラッシュアップに向けたサポートが手厚いのも魅力です。
②40億人のためのビジネスアイデアコンテスト
アイ シー ネット株式会社が主催する、ソーシャルビジネス(社会課題解決型ビジネス)特化したビジネスコンテストです。優勝賞金が高額であるほか、高校生から参加可能(高校生部門が存在)、ファイナリストの事業化率の高さなどが特徴的です。
③NICeなビジネスプランコンテスト
日本政策金融公庫が主催する、ビジネスコンテストで、資格や年齢等の制限がなく、広く一般に参加することができます。賞金は10万円と比較的低額ですが、協賛企業のサポートが入賞特典として受け取れます。
企業で行われている有名ビジネスコンテスト
企業においても多数の社内ビジコンが開催されています。参加資格は社員のみ、もしくはチームとして一部社外メンバーのアサインを認めるといったクローズドな募集を行うのが一般的です。
①ソフトバンクのビジネスコンテスト
時価総額ベースでも国内最大の規模を誇るソフトバンクでは、小規模なものも含めれば随時社内向けのビジネスコンテストが行われています。
最大規模のビジネスコンテスト「ソフトバンクイノベンチャー」は年に1~2回開催されています。最終審査を執行役員が行うだけでなく、ビジネスコンテストの企画、立案から上位者への事業化サポートを専門的に担う子会社が存在するなど、全社を挙げた取り組みが行われています。
②サイバーエージェントのビジネスコンテスト
インターネット広告事業、およびネットメディア事業を行うメガベンチャーのサイバーエージェントでは、かつて半年に一度、全社的に現場の声を新規事業に反映すべく「ジギョつく」というビジネスコンテストを開催してきました。
同社はインターネット領域における新規事業をローリスク・ハイリターンと捉え、多産多死型で、社員や、内定者、インターン生からの企画ももとに新規ビジネスを多くリリースしました。
多い時では1000件の応募があるなど社員の取り組み意欲も高いものでしたが、結果的にグループ全体に貢献できるレベルでの収益性の高い新規事業は生まれませんでした。現在は役員が社員とチームをつくり、新規事業プランを競う「あした会議」に形に変えてビジネスコンテストが運営されています。
③DMMのビジネスコンテスト
成人向けコンテンツ配信事業からはじまり、英会話、金融と様々な事業展開をみせるDMMでも、年に1度、従業員から広く事業アイディアを募集するビジネスコンテストを開催しています。
近年、参加にあたりサービスのプロトタイプの作成といった高いハードルが設けられ、それでも運営の想定を上回る応募がある、全社的に熱意の高いビジネスコンテストです。
最終審査の結果、場合によっては全ての事業化検討を見送るなど、厳しい目線で行われる、本気度の高いコンテストとなっています。
ビジネスコンテストから成功事業を生み出すことは難しいのか?
参加者にとっても複数のメリットがあり、また、企業にとってはオープンイノベーションの種ともなりうるビジネスコンテスト。しかし、2019年現在、「ビジネスコンテスト発」の大きな成功事例というのはあまり目立たないのが現状です。
ビジネスコンテストで入賞したプランの成功事例
ビジネスコンテストが事業化した例として良く取りあげられるのが「ポケットドクター」です。これはジャパン ヘルスケアビジネスコンテストにて初回となる2016年度の優勝事例です。
このサービスでは、スマホやタブレットを通じて、医療機関に遠隔から診療を受けることができます。また、自宅で処方箋、医薬品も受け取ることが可能。身近に医療機関の少ない層にとってはとりわけニーズの高いサービスです。この企画の発案者は、マザーズ上場企業のMRT株式会社です。
現在は、「社内ビジコンで社員が発案したビジネス案での成功例」や「協賛企画で出資した、学生チームのビジネス案」など、企業がオープンイノベーションの事例として期待できるような事例は目立たないのが現状です。
審査上の評価が高いプランがスケールするとは限らない
一方で、ビジネスコンテストで高い評価を得て、事業化されたにも関わらず、撤退を余儀なくされたビジネスは数多く挙げられます。
たとえば、あるサービスはプラン自体のコンセプトは非常に魅力的で、決勝審査でも満場一致で高い評価を得て世の中にリリースされました。
しかし、当初のマーケティング手法では想定した会員数が集まらなかったにも関わらず、方向転換を行わなかったためサービスを提供するのに十分な会員獲得に至りませんでした。
ビジネスコンテストに限った話ではないですが、企画段階で予測と実際の市場の反応が異なるケースは、珍しくありませんそういった場合はマーケティング手法の変更などの柔軟な対応が求められます。
また、別のサービスはリリース当初は市場の反応もよく、一定の会員獲得に成功していました。
しかし、少し前にリリースされていた海外のサービスが、その後大きく伸長したことにより、多くのユーザーがそちらのサービスに移行。アクティブユーザーの維持ができず、十分な収益化が行えなくなり、撤退しました。
ビジネスコンテストにおいて、競合の市場調査や、それらとの差別化要素は大きな採点基準となることも多いですが、タイミング悪く同様のサービスが出てきたり、当初想定していなかったプレーヤーが思わぬ形で競合となるケースもあります。
ビジネスコンテストへの参加目的は起業とは限らない
近年のビジネスコンテストには本来の目的から逸れた動機でエントリーする参加者も少なくないようです。
つまり、起業を志していたり、解決したい社会問題があるといった原体験から始まるのではなく、ビジネスコンテストの賞金が目的であったり、もしくは学生の場合ビジネスコンテストでの成果を就職活動の話題とすることが目的の参加者も増えています。
審査する側の課題でもありますが、「何としても実現したいプラン」よりも、「審査基準を通過しやすいプラン」が高い評価を受け、「ビジコン荒らし」と言われるような参加者が出現するのも事実です。
このように、本来の目的から外れた参加者の企画が上位入賞したところで、賞金はプランの実現に利用されることはありません。
ビジネスコンテストから成功事例を生むためには?
ビジネスコンテストはオープンイノベーションの効果を期待できるものの、現状は成功事例を多くは輩出できているとは言い難いです。
今後、成功事例を生むためにはどのような視点が必要なのか考察していきます。
マニュアル的評価指標の排除
コンテストは選考式である以上、何らかの評価指標は求める必要があります。しかし、画一的な評価形式であると、いわば「攻略法」に沿って提出された企画がよい評価を受けてしまう可能性があります。。
審査する側の心構えとしては、特に、事業化の検討可否を判断する終盤のフェーズにおいてはできる限りそれぞれのプランを、仮に事業化する場合、どのような形で進めるかも含めて判断をすることが求められます。
「ビジコン荒らし」目的の参加者の排除
ビジネスコンテストをどのように位置づけ、活用するかは究極的には参加者自身の自由ではあります。しかし、企業から見てオープンイノベーションを求める視点でビジネスコンテストを捉えた場合、「ビジコン荒らし」は排除できることが望ましいです。
過去の実績や、発案に至った背景に主眼を置き、そもそも選考に通す参加者の選別を行う視点も大切です。また、利用用途を制限しない「賞金」や報奨旅行に近い位置づけの「海外研修」を前面に打ち出さないなど、分かりやすい目先のメリットを用意しないこともビジコン荒らしの排除に有効です。
方向性を定め、開催者、協賛者がリスクを負う
ビジネスコンテストにオープンイノベーションを期待するのであれば、単に審査して優劣を決め、賞金を出すといった姿勢では不十分です。実際の事業化に向けた出資や、ノウハウ・人的リソースも含めリスクを取ってコミットすることが求められます。
まとめ
ビジネスコンテストは企業にとって、意欲ある参加者や、有望な可能性のあるビジネスプランを見つけ、オープンイノベーションにつなげることができる場です。
しかし、審査や出資の有無を決定する企業の側が、画一的な視点でしかプランを検討できない場合、有望な事業の発見につながりにくくなります。それどころか、審査を「攻略」されてしまった場合、事業化の意志のない案件に賞金だけを持っていかれる可能性すらあります。
企業としてオープンイノベーションを求めてビジネスコンテストに関わるのであれば、ビジコン荒らしの参加者を除外した上で、プランを個別具体的に検討し、事業化の際にはある程度のリスクを負う姿勢で臨むことが求められます。
参考
- https://found-er.com/column/job/4795/
- https://inside.dmm.com/entry/2018/04/13-BuisinessContest
- https://relic.co.jp/battery/articles/8350
- https://found-er.com/column/job/4794/
- https://www.pocketdoctor.jp/
- https://www.projectdesign.jp/201905/cross-wall/006301.php
- https://v-tsushin.jp/interview/cyberagent-49/
- https://ameblo.jp/shibuya/entry-12037994877.html
- http://deaiapp.biz/comy
- https://medium.com/