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コーポレートアイデンティティ戦略とは?事例も交えて解説

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コーポレートアイデンティティ戦略とは?事例も交えて解説

ビジネスパーソンなら、一度は「コーポレートアイデンティティ(CI)」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。しかし本来の目的や意味について理解ができている人は、あまり多くないのではないでしょうか。コーポレートアイデンティティとは、企業理念やビジョンを構築し、その組織が「何者であるか」を明確にした表現であり、企業経営を投影したものです。今回はコーポレートアイデンティティの基本と、企業経営への活かし方について検証していきます。

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「マーケットイン」時代におけるコーポレートアイデンティの重要性

コーポレートアイデンティティ(CI)とは

コーポレート・アイデンティティとは「企業戦略」そのものを差し、「その方針のためにどのような商品やサービスを展開して向かうベクトルはどこか」という普遍的な企業姿勢を、ロゴやプロモーション・サービス、製品などを通してマーケットに認知させ、市場優位性を獲得するための企業武器のことです。

【コーポレートアイデンティティの要素】

  • 企業ミッション
  • 企業ビジョン
  • 企業文化
  • 社員の行動
  • 顧客とのコミュニケーション
  • 上記を言語化・ビジュアル化したデザインやロゴ

そもそもアイデンティティとは、精神学や心理学における「個人」についての概念であり、コーポレート・アイデンティティとはそれを企業組織に当てはめたものです。他と差別化・競争優位性をもたらす重要な資産ととらえられていますが、ロゴマークの変更がコーポレートアイデンティティ(CI)と誤解されているケースも少なくありません。

コーポレートアイデンティティという概念はもともと1950年代のアメリカで発祥したもので、日本においては5年の歳月をかけ、1975年の現マツダ(旧社名東洋工業)が導入したのが最初と言われています。

コーポレートアイデンティティ(CI)・VI・BI・MIの違い

コーポレートアイデンティティ(CI)は、上記のように「理念」「行動」「視覚」という3つの要素で成り立っています。この要素をさらにわかりやすくまとめたものが「MI(理念)=マインド・アイデンティティ」「BI(行動)=ビヘイビア・アイデンティティ」、「VI(視覚)=ビジュアル・アイデンティティ」です。これらを統一することで市場に認知されやすい企業イメージが醸成され、市場競争力をあげるブランド力が生まれるのです。

それぞれの要素を掘り下げていきましょう。

MI(マインド・アイデンティティ)とは

心や精神を意味するマインドです。企業が目指すべき理想的なあり方、社会に対する存在理由など、社員の精神的なベースとなる経営哲学であり、企業理念のことを差します。例えばこのMIが「平和的」なのか「革新的」なのかで、社員の行動や表現するビジュアル・言語も変わってくるはずです。MIはCIを構成する要素の中でも、ほかの2つを考えるベースとなる要素です。

BI(ビヘイビア・アイデンティティ)とは

ビヘイビアは直訳すると「態度」です。企業や社員の行動やコミュニケーション指針のことを指します。MIを達成するための組織改革・活性化、販売促進、社員の行動指針、SNSのコミュニケーション方針、顧客とのコミュニケーションの取り方、品質方針などの具体的な計画立案や行動が該当し、特に近年ではこれらが重視される傾向にあります。

VI(ビジュアル・アイデンティティ)とは

VIは、CIの構成要素のなかでも目に見える視覚的なもの=ビジュアルを指しています。わかりやすいロゴやスローガン、シンボルマークなどMI・BIなどをベースに形や色で表現します。CIの中でも一番外部に伝えやすい要素で、一目見ることで企業名を想像できる効果があります。

コーポレートアイデンティティに大切なインナーブランディング

コーポレートアイデンティティにより企業ブランディングの向上も期待できます。
そしてコーポレートアイデンティティを構成するMI・BIに大きく影響するのが社員一人ひとりの思考や行動です。いくら会社が経営理念を掲げていたところで、ただあるだけではよほど意識の高い社員以外経営理念をベースとした行動をとることは難しいでしょう。コーポレートアイデンティティを確立させるためには、会社の経営方針や目指しているベクトルをしっかり社員に理解させ、実際に行動させることが必要です。このような社内向けの啓蒙を「インナーブランディング」と呼びます。

インナーブランディングをおこなうためには社内報やイントラの活用、社員向けイベントなどさまざまな方法がありますが、「NUDA」のプロセスで構築していきます。

N(NOTICE:認知)

U(UNDERSTAND:理解

D(DESIRE:動機付け)

A(ACTION:行動)

インナーブランディングをおこなうことでコーポレートアイデンティティを確立するための要素が強化されるだけでなく、仕事に対する社員のやりがいやモチベーションが向上し、顧客満足度の向上・離職率低下などの効果も得られます。

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コーポレートアイデンティティ設定のプロセス

それではコーポレートアイデンティティを設定するプロセスについてみていきましょう。

理念やビジョンの見直し

まずは現在の企業理念やビジョンを再度見直してみましょう。これらには創業者の想いや創業精神など大切にする「不変」部分と、時代や環境の変化と共に見直すべき「可変」部分があります。また自分たちが目指している方向とステークホルダーや外部からの受け止められ方にギャップがないかどうかを確認していきます。

見直しや調査は経営企画から人事・広報まで、幅広い部門のメンバーでおこなうことが大切です。それぞれ別の立場や角度から、さまざまな意見を集約しましょう。

デザインワーク・シンボリズム設計

経営理念やビジョンが定まったら、シンボルやロゴデザイン、スローガンなどの表現を検討します。表現の検討にあたってはプロに委託するケースが多いと思いますが、その場合でもプロが検討するための材料(会社としての希望や想いなど)はしっかりと伝えるようにしましょう。またシンボルやロゴが決まれば、HPやパンフレットなど既存ツールのリニューアルし、コーポレートアイデンティティの策定を機に新たに作成するツール作成などをおこないます。

インナーブランディング(企業文化醸成)

理念やビジョン・シンボリズムなどが定まったら、社内へ浸透させるためのインナーブランディングをおこないます。インナーブランディングの手法は先にあげた社内報やイントラなどのほか、社内ポスターや各種研修、またクレドのような形が一般的です。コーポレートアイデンティティを確立させるためには実践する社員一人ひとりの行動が大切。社員一人ひとりがきちんと理解していれば、自然と社員の言動からコーポレート・アイデンティは発信・拡散されていきます。そういった意味でもインナーブランディングは重要。実施順序はロゴなどのビジュアル面が整ってからでも問題ありませんが、定期的・継続的におこなうことが大切です。

コミュニケーション展開

社内への啓蒙と同時に、社外向けのコミュニケーション展開を実施します。リリース発表・SNSの活用やCM展開などあらゆる手段を検討します。社内外に関わらずコミュニケーション展開には費用と人員、各部門との連携が必要です。計画段階でしっかり検討するようにしましょう。

評価・振り返り

コーポレートアイデンティティ策定のプロジェクトが終わったら、評価・振り返りを実施します。ステークホルダーとのギャップは埋まったか、社内外への浸透度はどうか、また予算・スケジュールは予定通りだったかなどを検証し、今後に活かすべき内容があれば資料を残しておくようにしましょう。

コーポレートアイデンティティに不可欠なマーケット認知

「コーポレートアイデンティティは時代の変化に合わせて考えるべき部分もある」ということについて先に述べましたが、その時代を考えるときに重要となるのが「リアルマーケット」の認知と理解です。では現代のマーケットはどのような状況なのでしょうか。

現代マーケットのカギを握る「ミレニアル世代」「ジェネレーションZ」

世界的なコンサルティング会社ATカーニーによれば、2027年の市場は下図の6つの消費世代にカテゴライズされます。このうち近い将来マーケットに特に強い影響力を持つと予測されるのは、働き盛りである「ミレニアル世代」(1981-1997年生まれ)と、生まれながらにしてデジタルネイティブである「ジェネレーションZ」(1998-2016年生まれ)の2つの世代と言え、2027年にはこの2世代で全人口の60%を占めると見込まれています。

時代と共に変化するマーケットと購買行動

この2世代について共通していることはいずれもデジタルを駆使しているという点ですが、その使い方には違いが見られます。現代のデジタル・プラットフォーム登場以前の世界を知っているミレニアル世代はSNSなどの広い範囲でのシェアを好むのに対し、真のデジタルネイティブ世代であるジェネレーションZ世代は、より閉鎖的なプライベートスペースを保てる空間でのコミュニケーションを好みます。

また所有することに興味が薄いミレニアル世代の台頭の影響で、「シェアリングエコノミー」という概念が生まれるなど新しい市場も生み出され、ジェネレーションZが成長し購買力を持った頃には、彼らの志向に合う新たな市場が生まれていくでしょう。

消費者の購買行動も、時代や世代と共に変化しています。従来の購買行動と言えば「AIDOMA=Attention(認知)・Interest(関心)・Desire(欲求)・Memory(記憶)・Action(行動)」が基本でしたが、ジェネレーションX世代あたりから「AISAS=Attention(認知)・Interest(関心)・Search(検索)・Action(行動)・Share(共有)」へと変化し、さらに「共感」が重要なミレニアル世代に牽引されている現代においては「SIPS=Sympathize(共感)・Identify(確認)・Participate(参加)・Share & Spread(共有・拡散)と、共感から始まり拡散に終わるという消費行動が見られます。

このようにコーポレートアイデンティティを浸透させるためには、ターゲットに基づく「マーケットトレンド」を意識したMIやBIが重要と言えるでしょう。

コーポレートアイデンティティを企業経営に活かすためには

コーポレートアイデンティティは「企業理念やビジョンを確立してマーケットに認知させ、市場優位性を得るたるための取り組み」であり、企業経営に活かして目指すべき方向を達成できなければ意味を成しません。コーポレートアイデンティティを企業経営に活かすためのポイントは、どのような点にあるのでしょうか。

マーケットはニーズに歩み寄る「マーケットイン」へ

コーポレートアイデンティティの効果を最大化し、企業経営に活かしていくためには、企業側がマーケットへ歩み寄る姿勢が大切です。つまり「うちはこういうもの提供しているから利用して欲しい・買って欲しい」はなく、「マーケットではこのようなものが求められているから、うちの商品やサービスをそれに合わせて変えよう」という思考が大切です。先述した通りコーポレートアイデンティティの構築にはマーケットへの認知と理解が大切ですが、認知・理解後にその事実に対してどのような行動をとっていくかにより、コーポレートアイデンティティの効果に影響します。

以前のビジネスは人々の生活を豊かにしていくことが中心であり、マーケットは「商品」「サービス」を開発してマーケットへと提供していく「マーケットアウト型」が主流でした。現代はデジタルの発達により、デジタルネイティブ世代はもちろん、誰もがかんたんに情報収集・調査をすることが可能です。また価値観や生活スタイルの変化によりニーズも多様化していることから、企業側がマーケットのニーズ汲み取りビジネスに活かす、「マーケットイン」へとシフトしてきているのです。

時代を見据えたコーポレートアイデンティティが経営に直結する

このマーケットインの考え方によって多様なサービス・商品が生まれた結果、市場全体の規模は大きく成長したものの商品やサービスが溢れかえり、優位性や個性がはっきりしない商品やサービスがあふれ、商品やサービスの購入・導入の選択肢が増え続けています。

このような状況で市場から求められているのは、選択の指標となるコーポレートアイデンティティやブランド・アイデンティティが確立した商品やサービスです。つまりストーリーがあって、自分がどうしてこれを買いたいのか・選びたいのかと納得できる理由を探しているのです。

今後マーケットの主要層となるジェネレーションZやミレニアル世代の特徴のひとつに、「ユニーク性」を有していることが挙げられます。そのため、コーポレートアイデンティティによって「独自性」が確立されていることは非常に重要であると言えるでしょう。

時代の変化とともに経営戦略は見直す企業は多いと思います。同時にC企業姿勢や経営戦略そのものを内外に伝えるコーポレートアイデンティティを客観的に見直しすることで、いつの時代も「選ばれる」企業となっていくことが可能となるのです。

実例で見るコーポレートアイデンティティ戦略

それではコーポレートアイデンティティ戦略で成功を納めた実例をご紹介しましょう。

次の100年を見すえ、サスティナブルなプレミアムブランドへ進化したヤンマー

プロジェクトのきっかけ

【ヤンマー ブランドステートメント】

創立100年以上の歴史を有し、世界で初めてディーゼルエンジンの小型・実用化に成功した企業、ヤンマー。100年以上の間、創業者の想いである「農家の方たちを楽に」という理念のもと、田植機やトラクターなど、さまざまな稲作に特化した農業機械を開発し提供、現在は建設機械やマリンインダストリーからエネルギーまで、事業を順調に拡大してきました。「100周年を機に次の階段を上がりたい」そう考えていた同社では社長自らが「ヤンマーをプレミアムブランドにする」ことを決断、有名クリエイターに直接相談をしたところから、このプロジェクトはスタートしました。

私たちのパーパス/ヤンマー

ステークホルダーのギャップ

プロジェクトを遂行するなかで、ステークホルダーとのギャップがあることに気がつきます。日本でヤンマーと言えば農作業機械のメーカーですが、実はかなり昔からグローバル展開をしている企業。欧米などでは高級ヨットやクルーザーなど、船のエンジンメーカーとして高い評価博していました。つまり、海外では「高級」「ラグジュアリー」なイメージを持たれていたことになります。

必要な要素を埋め込んだコーポレートアイデンティティ

このようにステークホルダーイメージのギャップとヤンマー側からの「プレミアムブランドへ」という希望を合わせ、ヤンマーを高級感あるラグジュアリー企業へとイメージさせるためのコーポレートアイデンティティが構築されました。

掲げられたブランドステートメントは「A SUSTAINABLE FUTURE ─テクノロジーで、新しい豊かさへ。─」、次の100年に向けてサスティナブルな社会の実現を目指すというブランドの約束が盛り込まれています。

VIはヤンマーの原点である稲作の象徴、トンボの王様オニヤンマの羽がモチーフとなった「FLYING-Y」に統一し、革新とモノづくりへの情熱がコーポレートカラーの赤で表現されています。

さらに同社ではコーポレート・ブランディングを各商品のブランディングにまで落とし込み、農作業用のウエアデザインを有名メゾンデザイナーに依頼するなど、徹底的にこだわりました。

同社のコーポレートアイデンティティはテレビCMや新聞など、メインとなるターゲット層を意識した媒体をうまくセレクトしプロモーションを展開。幅広いターゲットに対応するため、SNSなども積極的に活用しています。国内外の顧客はもちろん、これまで同社と関わりがなかった層からも注目を集め、「イノベーションを起こしたヤンマー」として、新生ヤンマーの認知度アップに成功しました。

【ヤンマーFacebook】

参考:
なぜ今、「企業アイデンティティ」が必要とされているのか?,東洋大学学術情報リポジトリ,コーポレートアイデンティティ(CI)とは?差別化や長期的な利益拡大につながる戦略。,佐藤可士和が語る「次の100年に向けて踏み出した“はじめの一歩”」,次の100年を見越したブランディング戦略(ヤンマープレミアムブランドプロジェクト)

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