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アルムナイ制度とは?~退職者を戦力に変える仕組み

人事制度設計
アルムナイ制度とは?~退職者を戦力に変える仕組み

企業の人事制度に関連して「アルムナイ」という言葉を耳にすることが増えました。この記事では、英語で「卒業生」を意味するアルムナイとはどのような制度なのか?従来のOB・OG会とはどう違うのか?アルムナイ制度のメリット・デメリットや導入時に留意するべきことは何なのか?など、アルムナイ制度導入を検討する際のポイントについてご説明します。

「アルムナイ」とは?

2018年6月24日付の日本経済新聞は、「元社員つなぐ「同窓会」」という見出しで、日本でも「アルムナイ」という言葉が使われ始めたことを報じました。記事は、インターネット広告大手のセプティーニ・ホールディングスや、ヤフーがアルムナイ制度を導入したことを伝えています。この「アルムナイ制度」とはどのような制度なのでしょうか?

「アルムナイ」という言葉の意味は?

英語の辞書でアルムナイ(Alumni)という言葉を調べると、「学校の卒業生・同窓生」が元々の意味であることがわかります。そこから派生して、企業の元社員をアルムナイと呼ぶことが増えてきました。

人事分野で注目される「アルムナイ」制度とは何か?

企業の人事分野に関連してアルムナイ制度が語られる場合、退職した元社員を組織化する仕組みを指すことが多いようです。元社員を組織化して定期的にコンタクトを持ち、自社の現状などの情報を共有したり、アルムナイが集まるパーティーを開いたりしています。

「出戻り自由」制度を意味することもある

企業によってはアルムナイ制度という言葉を、元社員の復職制度(いわゆる「出戻り自由」制度)を指すものとして使っています。かつての日本企業では終身雇用が前提で、一度入社すれば定年まで(女性の場合は結婚や出産による退職まで)働き続けるのが一般的でした。しかし最近では転職が普通のこととなり、流動化する労働市場への対応策の一つとしてこのようなアルムナイ制度(出戻り自由制度)が使われています。

欧米の企業から発祥した文化

アルムナイという英語が使われていることからわかるように、こうした制度はもともと欧米の企業で行われていたものです。日本でも外資系企業では以前から行われていましたが、労働市場が欧米同様に流動化するにつれて日本企業での導入が増えてきました。

アルムナイ制度の意義

アルムナイ制度は日本企業に拡大しています。この制度の導入は企業にとってどんな意義を持つのでしょうか?

従来の「OB会」、「同窓会」との違い

元社員の集まりという意味では、これまで日本企業にもOB・OG会や同窓会がありました。社名の一文字をとった「〇友会」のような組織名を目にしたことのある読者もいらっしゃるでしょう。

これらの組織は、主に定年退職者や結婚・出産により退職した女子社員など、「ビジネスの第一線から一歩下がった人」を対象にし、組織の目的も懇親が中心です。一方、アルムナイ制度のメインターゲットは、キャリアの途中で転職のため退職した社員です。

出戻り自由制度は休職制度とは異なる

前にアルムナイ制度を出戻り自由制度と位置付けるケースもあると言いました。一度職場を離れた人が戻ってくるという点では、似たような制度として休職制度があります。しかし休職制度はあくまでも復帰を前提にしたもので、休職期間もその企業に籍を置く社員であることは変わりません。これに対して出戻り自由制度としてのアルムナイ制度は、戻ってくるという前提無しに企業を離れた人を受け入れる制度です。当然ながら離れている期間は、その企業の社員ではありません。

アルムナイ制度は社員の未来も含めて経営資源化する試み

アルムナイ制度が主な対象とするのは転職などのために退職し、他社・他分野で活躍する現役バリバリのビジネスパーソンです。これらの元社員を組織化することで、情報ソース、取引先、協業先、そして社員候補として元社員を活用します。いわば社員が在籍している期間だけでなく、退職した後の社員の未来も自社の経営資源として活用しようとするのがアルムナイ制度です。

アルムナイ制度が日本で拡大し始めた背景

アルムナイ制度を日本企業も採用し始めた背景には、前にも触れた労働市場の流動化があります。労働者のニーズは、「自分の興味やライフステージに合わせて仕事や働き方を変えたい」と変わり、転職が普通のことになりました。労働市場が変化すれば、企業がそれを前提にした人材戦略をとるのは必然です。

また、人口減少社会に突入した日本では今後、企業が優秀な労働力を確保することが難しくなっていきます。実力が未知数な新しい人材の見極めに多くのコストを割くより、自社在籍経験があり、ある程度実力のわかっているアルムナイ人材を採用候補として囲い込んでおく方が効率的です。

アルムナイ制度の事例~コンサルティングファームの場合~

実際のアルムナイ制度はどのようなものなのでしょうか?ここでは、筆者自身が経験した、外資系のコンサルティングファームの事例をご紹介します。コンサルティングファームには、退職を「卒業」、元社員を「アルムナイ」と呼ぶ文化があり、早くからアルムナイ制度を導入しています。

退職時にはアルムナイ制度の説明を実施

コンサルティングファームではアルムナイは身近な存在です。社内では「アルムナイの〇〇さんが…」といった会話がよくありますし、退職後に他社で成功したアルムナイを招いて現職のコンサルタント向けに経験を語ってもらう会なども開かれています。

そして、いよいよ卒業(退職)となった時には、人事担当との面談でアルムナイ制度の説明を受けます。その際に、次に紹介するアルムナイ用のウェブサイトにログインするための、IDやパスワードの登録も行います。

アルムナイ用のウェブサイトを用意

アルムナイ向けには専用のウェブサイトが用意されています。サイトには最近のファームに関するニュースが掲載され、アルムナイの連絡先検索機能も用意されています。

また、ファームが行うビジネス関連テーマについてのオンラインワークショップに参加する機能もあり、アルムナイに自己啓発の機会を提供しています。さらに、出戻りを希望するアルムナイ向けに、現在募集しているポジションを紹介するページもあります。

定期的にニュースレターを送付

アルムナイには定期的にeメールでニュースレターが届きます。内容は最近のファームの活動に関する情報や、アルムナイの近況(〇〇社のCEOに就任したなど)、ファームが発行したリサーチレポートの紹介などが中心です。アルムナイに帰属意識を維持してもらう効果があることに加え、メールアドレス変更などアルムナイの連絡先変更時にアップデートしてもらうきっかけにもなります。

アルムナイパーティーを開催

アルムナイに関する催しで最大のものが、年に一度のアルムナイパーティーです。歴史の長いファームだとアルムナイの数も多く、ホスト役の現役社員(一般企業の取締役兼株主に相当する”パートナー”ランクの社員が中心)を合わせると出席者は数百人になります。そのため、ホテルの宴会場を借りて盛大に行われます。グローバルに展開しているファームの場合、世界中でほぼ同時期に開催され、海外赴任中の人は滞在国のオフィスが主催するパーティーに参加できます。

アルムナイの在籍企業とのビジネス

コンサルティングファームのアルムナイの中には、独立して個人コンサルタントとなったり、起業したりする人も多くいます。こうした人とファームがビジネスを行うこともよくあります。例えば、アルムナイの個人コンサルタントが市場調査などを外部委託先として受注したり、アルムナイが起業した会社が資料作成や研修の一部を受託したりといったケースがあります。

アルムナイ制度のメリット・デメリット

日本の労働市場の変化に対応して拡大しているアルムナイ制度ですが、もちろんメリットもデメリットもあります。導入に際しては、それらを理解した上でうまく使いこなすことが必要です。

アルムナイ制度のメリット

アルムナイ制度の大きなメリットは、既に触れたように労働市場の変化の中で優秀な労働力を効率的に確保しやすいという点です。また一度外部に出て、「外の目」を身に着けた人の知恵を利用できるという点もメリットと言えます。

メリット①:人口減少社会での労働力の確保

日本は人口減少時代に突入しています。今後、企業が十分な労働力を確保することは難しくなっていくでしょう。自社の社風や仕事のやり方にマッチする優秀な労働力を確保するのは特に難しくなります。

一方、アルムナイは元社員ですから、自社について一定の理解をしていて、自分が勤めた会社に対する愛着を持っている人が多くいます。二度目、三度目の転職が普通になる中、タイミングや条件が合えば、戻ってきてくれる可能性が十分にあるのがアルムナイです。人口減少社会でも必要な人材を確保するための採用候補者のメンテナンス策として、アルムナイ制度は有効です。

メリット②:人材育成コスト削減

アルムナイを再雇用する場合、戦力化までの人材育成コストが小さくてすみます。なぜならアルムナイは自社の商品・サービスや仕事の進め方を、既にある程度理解しているからです。まったく知識の無い人を採用し、独り立ちするまで研修やOJTでトレーニングするコストと比べれば、アルムナイの再雇用による人材育成コストは小さく、企業にとってメリットが存在します。

メリット③:外部からの知見獲得

アルムナイは自社を退職して、様々な業界・企業で活躍している人です。これらの人々は外部に出ることで、自社に留まっていては得られなかった経験をしています。ですから、再雇用で社員になるにせよ、外部に留まって情報や意見を提供してもらうにせよ、アルムナイとのコミュニケーションは自社に「外の目」での、客観的な意見を提供してくれます。外部の力も利用して新しいものを生み出すオープンイノベーションが注目されていますが、アルムナイと意見やアイデアの交換を行うことは、まさにオープンイノベーションにつながります。

メリット④:取引先(協業先・販売先)の拡大

アルムナイは自社のことを良く知り、愛着を持ってくれている人ですから、良好な関係を維持していればその所属企業を協業先や販売先とできる可能性は高くなります。そして外部委託先や提携先などの協業先となる場合、自社の文化や仕事の仕組を相手は良く分かっていますから、仕事はスムーズに進みやすくなります。販売先とする場合でも、こちらのことを良く知っている相手ですから、営業活動が進めやすくなります。

アルムナイ制度のデメリット

アルムナイ制度に過度に依存することには、「身内」の論理の横行や、情報漏洩といったリスクをもたらします。制度維持のために一定のコストがかかることは当然とはいえ、デメリットと言えばデメリットです。こうしたマイナス面を理解して制度を活用することが必要になります。

デメリット①:外部の客観的視点の欠如

自社を良く知るアルムナイを活用するメリットの裏返しになりますが、アルムナイとの関係に依存しすぎると、自社の社風や仕事のやり方に「染まった」人との関係が拡大することになります。アルムナイの再雇用にせよ、アルムナイとの協業・取引拡大にせよ、あまり依存すると外部の客観的な視点で自社を見ることが欠如し、斬新な発想が無くなって企業としての成長が止まってしまいます。

デメリット②:情報管理レベルへの注意の必要性

アルムナイを経営資源として活用するには、継続的にコンタクトして自社の最新情報を提供しておくことが必要です。とはいえ、アルムナイはあくまで社外の人ですから、当然ながら無制限にすべての情報を共有してよい訳ではありません。どこまでの情報を提供するのかコントロールする必要があります。アルムナイが身近になるほど、「身内」という安心感から内部情報を漏洩してしまうリスクが高まります。情報管理については普段からの社員教育が常識ですが、アルムナイと接する機会(パーティーなど)がある時は、再度周知徹底するくらいの用心深さが必要です。

デメリット③:アルムナイとの関係維持のためのコスト

アルムナイを自社の経営資源として活用するというメリットは、もちろん「ただ」では得られません。これまでに紹介してきたようなアルムナイ組織化活動を行い、情報管理などに目を配るには相応の投資が必要です。

アルムナイとの関係を担当する担当者と職務分掌を定め、業務の一定時間をその活動に割く必要があります。こうしたヒトの手配に加え、ウェブサイトの維持管理、ニュースレターの作成やアルムナイパーティーの開催などには相応の費用が発生します。

アルムナイ制度導入に際して整備すること

うまく使えば退職者を戦力化できるアルムナイ制度ですが、実際に導入する際にはどのような準備・対応をする必要があるのでしょうか?主な留意点をご紹介します。

制度の認知

アルムナイ制度を退職者に認知してもらうには、退職してからでは間に合いません。退職者は既に外部の人になっていて、自社に対する親近感は下がっています。退職してしばらくしてから制度の案内が届いても、在職時ほどの関心を持って受け止めてはくれないでしょう。

在職中から自社にはアルムナイ制度があることを周知し、アルムナイと接する機会を作っておくことが必要です。例えば他社で成功したアルムナイを招いて、若手社員向けに講演会を開くとか、アルムナイの活躍を社内報やイントラウェブに掲載するといった方法が考えられます。もちろん、退職時には退職に伴う諸手続の中にアルムナイ制度の説明やアルムナイ向けウェブサイトのログインID登録などを含め、最後の確認を行います。

組織と責任

既に説明したとおり、アルムナイ制度の維持には相応の体制整備が必要です。アルムナイの窓口となり、アルムナイ制度の運営を担う担当者とその業務分掌を明確に定義します。人事部の中に兼務または専任の担当を定めるのが一般的です。担当者が明確であることは、社内での制度運営をスムーズにするだけでなく、アルムナイ側から相談事がある時の窓口がわかりやすいというメリットにもなります。

制度と仕組み

特に復職(出戻り自由)制度を導入する場合、いったん外部に出た人材を受け入れる体制をきちんと定義しておく必要があります。外部に出て経験を積んだ人材が単純に退職前と同じ職種・ランク、処遇に戻るのでは、魅力的な制度になりません。外部で得た経験や能力の向上を評価した上で、戻ってくるアルムナイにとっても納得感のある形で復職してもらうことが求められます。そのためには、復職前の段階で対象者と面談を複数回行い、こちらの評価やそれに基づく処遇などについて対象者に確認し納得してもらいましょう。

まとめ:アルムナイ制度は拡大していく

労働市場が流動化し、転職が普通のこととなった今、日本企業も社員の「自社後」について考えるべき時に来ています。文中で触れたとおり、アルムナイ制度は日本の労働市場の環境変化に対応できる仕組みです。今後、日本企業においてアルムナイ制度は一般的なものになっていくでしょう。

参考URL

日本経済新聞記事

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