企業の新規事業開発における上手なコンサルタントの活用方法
新規事業開発は、戦略策定から実行に至るまで、数多くのプロセスから構成されます。まず、本記事の前半を読んで、新規事業開発の全体像を捉えましょう。その上で、どの部分をコンサルタントにお願いするのかを明確にしましょう。
記事の後半では、コンサルタントを導入した際の成功ノウハウについて解説します。
Contents
新規事業開発のプロセスと自社の状況を理解する
企業の経営を取り巻く環境は、常に変化し続けています。企業は事業構造の見直しを行い、環境対応への最適化を図り続ける必要があります。新規事業開発は、企業が存続するために経営環境変化へ対応するための戦略そのものなのです。
企業の成長マトリックスと自社理解、新規事業の方向性決定
製品やサービスには、必ずライフサイクルがあります。同じ製品・サービスを提供し続けていたのでは、企業は衰退してしまいます。
企業が継続的に成長するためには、四つの方向性があります。既存の製品やサービスを既存の市場内で強化していく「市場浸透」、既存の製品やサービスを新たな市場に供給する「市場開拓」、既存の市場に新たな製品やサービスを供給する「製品・サービス開発」、新たな製品やサービスを新たな市場に供給する「多角化」です。
新規事業開発は、「市場開拓」または「製品・サービス開発」が該当します。自社が成長期、成熟期、衰退期、どのフェーズにあるのかを客観的に認識し、新規事業開発の方向性を決定しましょう。
新規事業開発への取り組み方
一般的な新規事業開発のフローを解説します。自社でできそうな部分と、サポートが必要な部分を明確にしましょう。
事業内容を決定するまでの取り組み方
新規事業の計画は、以下の5つのプロセスを経て行われます。
- 事業環境の分析
- 事業アイデアの抽出
- 事業テーマの決定
- 事業コンセプトの決定
- 施策と社内体制の検討
事業環境の分析
事業を取り巻く環境の分析を行い、自社の特徴や世の中の潮流を客観的に認識することで、新規事業の方向性が明らかになります。事業環境の分析に関しては、「内部環境の強みと弱み」、「外部環境における機会と脅威」という視点で行うSWOT分析などの手法があります。
事業アイデアの抽出
新規事業の方向性を明らかにした後は、事業アイデアの抽出を行います。アイデアの抽出をうまく行うためには、「自由な発想」と「内部環境の強みや外部環境の機会を活かすこと」がポイントです。自社の強みや世の中の流れからくる機会を活かすことのできるテーマを選択して、参入後に勝ち続けられる状態を目指しましょう。
事業テーマの決定
抽出した事業アイデアの中から最終的な事業テーマを決定する場面においては、実現可能性を評価し、ビジネスリスクを評価します。実現可能性というのは、需要が見込めるのか、需要に対して自社が供給できるのかの判断です。ビジネスリスクというのは、失敗したときのダメージとその発生可能性のことです。リスクを評価して、許容するかどうかを判断します。
可能性とリスクを総合的に考慮し、事業テーマを決定します。
事業コンセプトの決定
事業テーマを決定した後は、ターゲットとする顧客が製品やサービスを手に入れるロジックを明らかにします。
具体的には、まず、誰に(Who)、何を(What)提供するのかを決定します。誰に(Who)はまさに事業のターゲットを指します。ターゲットに、何を(What)提供するのかを考えます。この二つ(誰に、何を)を軸として、他のポイントも決定します。想定ターゲットに対する製品・サービスが、どのような理由(Why)、タイミング(When)、場所(Where)、入手方法(How)、価格(How much)で入手されるのかを明らかにできれば、製品・サービスの設計からマーケティング、価格戦略までが構築できます。
施策と社内体制の検討
事業コンセプトを策定した後は、以下のような観点に基づいて、社内体制の検討を行います。
- 資源、ノウハウの活用方法
- 生産、仕入れ、物流体制
- 販促や営業手法
- 収益構造と資金計画
- 事業の管理方法
事業内容を決定した後の取り組み方
事業計画の策定
事業内容を決定した後は、以下のような観点から事業計画を策定し、取り組みを進めていきます。
- 事業立ち上げ〜拡大までの実行プロセス
- 施策のスケジュールと定量/定性目標
- 事業の評価手法
- 資金計画
事業計画の進捗管理
新規事業への取り組みに関して重要なことは、事業計画の進捗管理を徹底して行うことです。計画の修正や体制の見直しなど、環境への最適化を臨機応変に行い続けることで、新規事業を実現させることができます。
新規事業開発時のコンサルタント活用における4つのポイント
新規事業を成功させるにあたり、コンサルタントを雇う・雇わないに関わらず重要なことは、社内の熱量を保ち、時間とともに熱量を上げていくことです。事業立ち上げにおいて何よりも苦労するのは社員であり、社員の力無くしては事業が立ち上がらないことを理解する必要があります。
そのため、新規事業開発の経験やノウハウのない企業や、コンサルタント活用経験のない企業がコンサルタントを活用するときは、以下の四つのことに留意すると良いでしょう。
- 新規事業開発に関する自分たちの思いをコンサルタントと共有すること
- 企業側とコンサルタントとの役割分担を明確化すること
- コンサルタント抜きのミーティングを行う機会を設けること
- コンサルタントとの間で情報共有を図ること
経験やノウハウを有したコンサルタントを活用することは有望な選択肢ではありますが、コンサルタント任せにしていたのでは企業側が主体的に実行する状況とならず、社内の熱量をキープすることが難しくなり、良い結果につながりません。
新規事業開発に関する自分たちの思いをコンサルタントと共有すること
熱量を維持するためには、自分たちが作りたい事業を、自分たちに馴染む体制で実現していくことが重要です。
コンサルタントを活用したプロジェクトを開始する段階ではアイデアベースであり、内容について自信を持てない状態であることも多いでしょう。しかし、「自分たちは、このような思いで事業に取り組みたい」、「新規事業に取り組むことで、自分たちはこのようになりたい」といった意思を、コンサルタントに対して明確に伝えることで、主導権を握ることができます。
コンサルタントは、新規事業の経験やノウハウを有しており、新規事業開発を効率的かつ着実に進めていくための意見や提案を行います。結果として、新規事業の開発が成功する確度を上げることができます。
一方で、コンサルタントの持つ知見やノウハウは、経験に裏付けられたものであるがゆえに、強力すぎることがあります。コンサルタントには見えていないマーケットの機会や社内の状況について、理解せずに提案を行うことも多々あります。このような場合に提案をそのまま受け入れてしまうと、見当違いの製品・サービスを生み出したり、社内調整に工数が割かれすぎて、現場の熱量は下がっていくのです。
企業側の思いが理解されないままコンサルタントがプロジェクトの進行を主導したことで、最終的な結果に対して企業側に何らかの不満が生じてしまうことが少なくありません。
ある程度物事が進んだ後に「このようなつもりではなかったのだ」と言ったところで、既に進めてしまったことを元に戻すわけにはいかず、結果として遠回りをすることになってしまいます。
そうかといって、妥協をすることも許されません。
妥協をしてしまうと参加メンバーたちからの納得を得ることができなくなり、新規事業の立ち上げが実現された後の実行が上手くいかなくなるからです。
コンサルタントを活用するときは、プロジェクトを開始する時点で、企業としての意思を明確に伝えることが重要なのです。
企業側とコンサルタントとの役割分担を明確化すること
新規事業開発に関わらず、企業がコンサルタントに依頼を行う場合は、「コンサルタントに対して何を求めているのか」を明確に伝える必要があります。
新規事業開発の場合は、経験やノウハウの不足を解消するためにコンサルタントを活用することが多いでしょう。しかし、コンサルタントに丸投げするような座組みにしてしまうと、良い結果は生まれません。新規事業を実行するのは企業側であり、自分たちが中心とならなければ物事を前に進めることができないからです。
自分たちが中心となるためには、自分たちで企画し、自分たちでやれる範囲を明確にしたうえで、不確実な部分を補完するためにコンサルタントを活用するのだというスタンスで臨む必要があります。
例えば、営業面でのノウハウはあるのだが情報の収集や精査に自信が無いのであれば、営業的な活動に関することはコンサルタントからの意見を積極的には求めないが、情報の収集や精査に関してはコンサルタント主導で行ってもらう、といった形で役割分担を明確にしたうえでコンサルタントを活用すると効率的です。
役割分担がはっきりしていないために全体的にコンサルタントの存在感が増してしまい、プロジェクトに参加するメンバーたちが外から来た人間に仕切られてしまっているように感じることで、新規事業への情熱が失われていくことがあります。
コンサルタント抜きのミーティングを行う機会を設けること
コンサルタントを活用した場合、新規事業のミーティングにコンサルタントが参加し、意見や提案が行われることになります。
その内容を企業自身が精査し最終的な結論を導き出すわけなのですが、コンサルタントが同席している場で都度結論を出し続けるという進め方は望ましいとは言えません。理由は、コンサルタントが同席する限られた時間の中でメンバー全員がぶれることなく理解、納得することは難しいからです。
疑問を上手くその場で口にすることのできないメンバーもいますし、改めて見直してみることで疑問が湧いてくることもあります。それらをすべて解消したうえでの結論の積み重ねでないと、企業側が望む方向で新規事業を実現することはできません。
よって、意識的かつ計画的に、コンサルタントが同席しないミーティングを行う機会を設けることが効果的なのです。
そのような場でコンサルタントから提供された意見や提案を検証することで、自分たちはその内容を受け入れるべきなのかどうか、コンサルタントから提供された意見や提案をどのように生かしていくことが自分たちの望む方向で新規事業を実現していくことにつながるのか、答えが見えてきます。
その後、再びコンサルタントが同席するミーティングの中で確認を行い、納得のいく答えを得ることにより、コンサルタントの有する経験やノウハウを効果的に活用することができるようになります。
そのような対応を行うことが、メンバーの情熱を維持し続けながら着実に新規事業への取り組みを進めていくことへとつながり、コンサルタントから提供された経験やノウハウを企業側が自らのものとして習得することが実現されます。
コンサルタントとの間で情報共有を図ること
コンサルタントを活用することで確実な成果を得たいのであれば、コンサルタントとの間で情報共有を図ることが重要になります。
新規事業への取り組みが途中で頓挫してしまうことの理由の一つに「タイミングを逃してしまう」ことがあります。
必要以上に時間をかけ過ぎたために、同業他社に先んじられてしまい、新規事業としてのうまみがなくなってしまうということです。
これに関して、コンサルタントは、タイムリーに決断を下すための対応やスピーディーに取り組みを進めていくための対応についての意見や提案を行うことができます。
しかし、実務上では企業側とコンサルタントとの間での情報共有体制が敷かれていなかったことが原因で、コンサルタントによる意見や提案、企業側による確認がミーティング実施のときだけに集約されてしまい、タイミングを逃す結果につながってしまうことがあります。
情報共有体制を敷いておけば、コンサルタントはいつでも状況を把握したうえで的確な意見や提案を行うことができ、企業側が都度その内容を精査することで、新規事業への取り組みをスピードアップすることができるようになります。
新規事業の取り組みに影響を与えるような環境変化が生じた場合も、都度企業側とコンサルタントの双方が内容を精査し協議を行うことで、最適な対応を行うための結論をタイムリーに導き出すことができるようになります。
さらに、新規事業への取り組みを着実に進めていくためにはPDCAによる進捗管理を行う必要があるのですが、それに関しても、コンサルタントとの間で情報共有を図ることで、コンサルタントが有するノウハウを活用しながら企業側が主体的に進めていくことができるようになります。
新規事業開発における上手なコンサルタント活用事例
コンサルタントを活用して新規事業開発に取り組んだ事例を、二つ解説します。
いずれの事例も、実施企業の主体性が維持されたプロジェクトを展開したことにより、良い結果が生まれています。
WEB関連商材の販売に活路を見出したIT会社A社の事例
A社は、業務システム等を開発する現場に自社の技術者を常駐させる形でシステム開発案件の受注を行ってきた会社です。
社内における開発も行っていましたが、同業他社との競合が激しくなってきたことに加えて、発注者が人件費の安い海外に開発業務の委託を行うオフショア開発の増加や技術者の確保難などにより、経営がジリ貧状況に陥りました。
そのことに危機感を覚えたA社は、自社の強みと世の中における機会を活かした新規事業を行うことを考えました。
自社に「営業マンの質が高い」、「WEBに強い人材がいる」という強みがあり、世の中の状況においてデジタル化対応が進展している」という機会が存在することを認識したA社は、WEB関連商材を販売し運用をサポートする事業を新たに導入することで、新規の顧客を獲得し、既存事業との相乗効果で業績を改善していく方針を打ち立てました。
A社のコンサルタントを活用した新規事業開発への取り組み内容の特徴は、以下の通りです。
- 社内単独のプロジェクトとコンサルタントが加わるプロジェクトを並走させる形で、新規事業開発を進めていった
- コンサルタントに求める役割については、取り組みに対する客観性を重要視したいという目的から、自社が立案した内容や取り組み結果を評価してもらうことに重点を置いた
客観的な視点を維持し続けながら新規事業開発に対する主体的な取り組みを行うことができたことで、メンバーのモチベーションも維持され続けました。
その結果、A社は、3D画像制作やセキュリティシステム、予約管理システムなどのWEB関連商材を販売し、販売先の顧客に対して業務システムの導入やIT運用のコンサルティングを行うなど、IT対応に関するトータルサポートを行う事業実績を作ることに成功し、業績が改善されました。
インバウンド対応サービスの開発に活路を見出した翻訳制作会社B社の事例
B社は、海外市場向けの事業を展開する企業からの依頼を受けて、多言語のカタログやマニュアルなどの制作や多言語サイトの運用支援を行ってきた会社です。
経済のグローバル化の進展も相まって多言語翻訳の市場は拡大していたのですが、同業他社との間で価格競争が生じていたことや季節ごとの受注の波が大きかったことが原因で、経営の安定化が図れずにいました。
そのことに危機感を覚えたB社は、自社の強みと世の中における機会を活かした新規事業を行うことを考えました。
自社に「ネィティブな翻訳者とのつながりがある」、「WEBに強い人材がいる」という強みがあり、世の中の状況において「インバウンド(訪日外国人観光客)への対応に関する需要が拡大し続けている」という機会が存在することを認識したB社は、企業のインバウンド対応をサポートする事業を新たに導入することで、新規の顧客を獲得し、既存事業との相乗効果で業績を改善していく方針を打ち立てました。
B社のコンサルタントを活用した新規事業開発への取り組み内容の特徴は、以下の通りです。
- 新規事業開発を行うことで自分たちはどうなりたいのかをコンサルタントに対して明確に伝えた
→多言語翻訳、多言語制作物の制作、多言語WEB運用に関する一元的な対応を行える取引先を増やしていきたい
- コンサルタントを交えたミーティングを実施する前後に、社内メンバーによる状況整理と認識の共有化を目的としたミーティングを行い続けた
- ChatWorkなどの情報共有ツールを活用して、コンサルタントとの情報共有を徹底化した
新規事業開発に対する主体的な取り組みを行うことができたことで、メンバーのモチベーションも維持され続けました。
その結果、B社は、簡単に印刷することができ外国人客の接客が楽になる飲食店向けの多言語メニュー作成システムを開発し、大手ホテルをメインターゲットにした導入支援を行い、導入ホテルに対する多言語化対応の一元管理までをも行う事業実績を作ることに成功し、業績が改善されました。
新規事業開発におけるプロ人材の活用
プロ人材の活用とは
ビジネスの世界で、プロ人材をシェアリングするという仕組みがあります。
プロ人材というのは、特定の分野において豊富な業務経験を積み、幅広い知見を有した人たちのことです。
そのような人材を、雇用のコストをかけずに必要な時に必要な分だけ活用する新たな人材活用モデルが、世の中で注目されています。
参考元;https://www.circu.co.jp/lp_hojin_04/
新規事業開発とプロ人材活用
新規事業開発においても、プロ人材を活用することで、企業側の経験やノウハウ不足という課題を解消しながら新規事業化の確実性を高めていくことができます。
例えば、事業テーマの決定までは進んだものの、その後に事業コンセプトを決定し事業モデル化することがスムーズにいかない場合に、事業コンセプト決定の段階からプロ人材をプロジェクトに加え、豊富な経験やノウハウを活用することで、新規事業開発がスムーズに進みます。
コンサルタント活用との違い
プロ人材活用は、コンサルタント活用と比較して、次のような違いがあります。
人材マネジメント・育成まで任せられるケースが多い
プロ人材は、コンサルティング会社にいた方ももちろんいますが、事業会社で経験を積んだ方も多くいます。いわゆる外部のコンサルタントとしてではなく、社内の人材をいかに育て、事業の成功に繋げるか、という観点でサポートをしてくれる人材も多くいます。部分的な成果だけではなく、社員を育成する観点でも効果が期待できますので、依頼内容を相談するときに、どこまで対応が可能か聞いてみましょう。
実務に携わる
プロ人材は、企業内で実務に携わります。
例えば、企業内にちゃんとした事業計画書を作成できる人間がいない場合、プロ人材が代わりに作成し、具体的な実務方法を社員に教えるというような対応もできます。
それにより、ノウハウを社内に蓄積できるなどのメリットが生じます。
プロ人材を活用した新規事業開発例
楽曲配信等の事業を行うE社は、定額制ストリーミングサービスの浸透により店舗BGMを有線放送に頼らない事業者が増加したことなどが原因で既存事業に関する市場が縮小化していたため、新たな収益の柱を作り人材をシフトしていく必要性が生じました。
それに関してプロ人材を活用することを決断し、販路拡大、店舗開発、人事制度構築の分野のプロ人材3名が支援に携わることになりました。
その結果、BtoB向けの新たなサービスサイトが構築され、最適な人員配置を実現するための人事制度委員会が社長室直下の部署として整備されました。