オープンイベーションによる新規事業開発が陥る5つの罠 ~市場の波をつかまえるために~
企業内部だけではなく、外部と連携して新たな価値を創出する「オープンイノベーション」。人口減少などで既存事業が伸び悩む中、ベンチャー企業と連携しながら新規事業を推進していくオープンイノベーションが活発化しています。
一方で、ベンチャー企業とオープンイノベーションに取り組んでみたものの、肝心の新規事業がなかなか生まれなかったり、自社で継続的にイノベーションを生んでいける人材や仕組みを築けなかったりといった課題も出てきています。
本記事では、Sansan株式会社主催セミナーの内容をもとに、新規事業開発で陥りがちな5つの罠とそれを回避する成功原則、「大企業×ベンチャー企業」に留まらないオープンイノベーションの手法などについて解説します。
登壇者:村上 亮太
株式会社サーキュレーション 執行役員 新規事業開発管掌
早稲田大学大学院機械工学専攻を修了後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。大手グローバル企業に対し、グループ会社のマネジメント戦略策定支援、新規事業立ち上げ支援や組織再編/ダウンサイジングプロジェクトなど、多岐に渡るコンサルティング・プロジェクトに従事。同社を離れ、1年半の期間で世界60ヶ国を旅する。帰国後、サーキュレーション創業に参画。現在は、新規事業開発管掌としてテクノロジーを活用した新規事業の立ち上げに従事。
Contents
新規事業開発の手段としてのオープンイノベーション
オープンイノベーションとは、企業内部と外部のアイデアやアセットを有機的に結合させて、価値を創造する手法です。つまり、オープンイノベーションとは価値創造の手段であり、企業の内部と外部の両方が重要なのです。
オープンイノベーション=新規事業開発ではありませんが、価値創造の手段として、新規事業開発において非常に有効です。
本記事では、新規事業開発の手段としてのオープンイノベーションにフォーカスして解説していきます。
オープンイノベーションの変化
オープンイノベーション自体は10年以上前から唱えられており、新しい概念ではありません。しかし、ビジネスに求められるスピードやニーズの多様性が増すにつれて、オープンイノベーションに求められるものは大きく変化してきています。
初期フェーズでは、大企業同士が技術や設備を融合させて価値を生み出していくオープンイノベーションが主流でした。そこから大企業と中小企業とのオープンイノベーションが進み、最近では大企業とベンチャー企業やプロ人材、さらには消費者まで巻き込むようなオープンイノベーションが盛んになってきています。また、オープンイノベーションに求められるものも、技術や設備にとどまらず、アイデアやスピード、企業風土にまで広がっています。
新規事業開発で陥りがちな5つの罠とは?
オープンイノベーションの活用についてご紹介する前に、新規事業開発について考えてみましょう。
そもそも、どのように新規事業を立ち上げていけばいいのでしょうか。
残念ながら、新規事業開発を成功させる絶対的な法則はありません。しかし、多数の新規事業支援の経験から、陥りがちな罠やそれを回避するためのポイントはお伝えできます。
新規事業=サーフィンとイメージしていただくとわかりやすいでしょう。広大な海(市場/顧客)で、誰もがいい波(変化)に乗りたいと思っているにも関わらずなかなか乗れないのは、次に挙げる5つの罠に陥ってしまっているからです。
罠① サーフィンをやりたいと思っていない。乗りたい波に挑めない
よくありがちなのが新規事業をやらされているケース。サーフィンをやりたいと思っていないのに、うまく波に乗れるわけがありません。また、本人だけではなく一緒に波に乗るべき組織の上長が評価者になってしまい、実行者にはなっていないのもよく見られる光景です。そもそもサーフィン初心者が、初心者を指導できるわけがありません。海(市場/顧客)に情熱を向けて、一緒に課題を解決するという姿勢が重要です。
罠② ゴールが不明確。認識がバラバラ
オープンイノベーションはあくまで手段であるにも関わらず、それ自体が目的化してしまっており、ゴールが不明確なケースも多いです。サーフィンに例えるなら、趣味として楽しみたいのか、プロを目指すかのがわからないままサーフィンをしている状態です。経営者や責任者、メンバー間で何を実現したいのか、何のためにやっているのかの共通認識がないままでは、ゴールにたどり着けません。
罠③ 海や波を見ていない。コントロールできると思っている
海や波を見ていないのはサーファーとしては致命的ですが、実はビジネスでもよくやりがちです。新規事業開発においては、いい波(市場の変化)に乗れるかがすべてです。波はコントロールできないからこそ、海(市場/顧客)を理解し、観察し、タイミングを見極めることが重要です。
罠④ 海に出ない。なぜか1回で波に乗れると思っている
サーファーとして上達するには、何度も挑戦しなければいけません。当然失敗することもあるでしょう。新規事業においても何年も準備に準備を重ねていきなり失敗できない大きな規模で始めるのではなく、失敗することは前提として、チャレンジを続けていくこと。失敗しないことよりも、そこから学べる仕組みを作ることが重要です。
罠⑤ 1人でやろうとする。
サーフボードを作るところから全部1人でやろうとしているサーファーがいたらどう思うでしょうか。作っている間は波に乗ることもできません。新規事業開発でも同じような自前主義がよく見られます。成果を出すために必要なものは、社内外問わず利用するという姿勢が重要です。
新規事業開発における5つの成功原則
これらの5つの罠に陥らないためには、その裏返しである5つの原則が重要になってきます。
これらの5つの原則を守って、新規事業開発に取り組むことが求められます。
大手メーカーの事例に見るオープンイノベーションの罠
このような罠や成功原則を踏まえて、新規事業開発におけるオープンイノベーションはどのように進めていけばいいのでしょうか。
ここで、ある大手メーカーの方から聞いた話をご紹介したいと思います。下のスライドをご覧ください。非常によく聞く話ですが、この内容で新規事業が立ち上がるでしょうか?
成功させたいのはオープンイノベーション?
いかがだったでしょうか。残念ながらこのメーカーでは、新規事業開発の5つの成功原則が満たされていません。
成功させたいのはオープンイノベーションではなく新規事業であるにも関わらず、オープンイノベーション自体が目的化しています。また、自社で何をやりたいのか、ゴールは何なのかなどの共通認識も持てていません。
端的に言えば、自社が描く新規事業成功までの骨太のストーリーがないのです。
このメーカーが陥っているのが、オープンイノベーションの5つの罠です。
オープンイノベーションを進めるにあたって、まずはこれらの5つの罠に陥っていないかチェックすることが必要です。
人をベースとしたオープンイノベーション2.0へ
ここまで、新規事業におけるオープンイノベーションについてご紹介してきましたが、今オープンイノベーションはより一層開かれたものへと進化してきています。下記の図の一番左が、かつてのモデルである社内完結型の「クローズドイノベーション」です。そして今行われているのが、真ん中の「オープンイノベーション1.0」です。ただし、ここにはまだ社内、社外という概念があります。
今後は一番右の「オープンイノベーション2.0」、個人のネットワークからイノベーションを生み出していくというモデルに向かっていきます。消費者と一緒にプロダクトを作っているという企業も、ここにあてはまります。オープンイノベーション2.0の最小単位は「人」です。つまり、今後は人をベースにしたオープンイノベーションになっていくのです。
プロ人材×オープンイノベーションとは?
人をベースにしたオープンイノベーションとはどのようなものでしょうか。まず挙げられるのが、プロ人材です。
サーキュレーションは、プロシェアリングサービスを行っています。オープンイノベーションにおいて、経験豊富なプロ人材が実働型で支援するのが特徴です。それらの経験から、プロ人材とのオープンイノベーションの特徴について、5つの成功原則と照らし合わせてご紹介します。
原則①「やりたい」を殺さない
→社内の「やりたい」に不足する知見・スキルを「人」単位で補える
また、外部のプロ人材の「やりたい」ごと取り込むこともできる
原則②「目的とゴール」を明確にし、共通認識を持つ
→企業同士ではないのでそれぞれのゴールがズレる「船頭が2人」状態が避けられる
原則③「市場の変化」、その大きさとタイミングを見極める
→ベンチャーの持つ技術や新規性ありきの話にならないので、市場や変化を見極めるところから検討をはじめることになる
原則④「失敗を前提」とした施策と仕組みにする
→小さく、スピーディーに始められる。
原則⑤「社内外すべて」を利用して成功させる
→企業体ではないので、社内外の混合チームを組成しやすく、細かい単位で社内不足分を補える
プロ人材とのオープンイノベーションは一般的に、このようなメリットがあると言えるでしょう。
プロ人材>ベンチャー企業?
もちろんこれは、オープンイノベーションのパートナーとしてプロ人材の方がベンチャー企業より優れていると言う話ではありません。
ベンチャー企業とプロ人材には、組織体や機能などでそれぞれ特徴があります。例えば新規事業開発の初期フェーズでは、スピードを優先して柔軟に対応できるプロ人材と組み、中後期フェーズでは、効率よく事業化するために、チームや機能を備えているベンチャー企業に参画してもらうなど、様々な方法が考えられます。
このように目的やフェーズによって、大企業やベンチャー企業、プロ人材などを使い分けることが重要です。
まとめ:オープンイノベーションはなぜ必要か?
繰り返しになりますが、オープンイノベーションはあくまで価値創造の手段であって、オープンイノベーション自体が目的ではありません。ここを押さえておかないと、新規事業開発の成功確率は低くなってしまいます。
また、連携する先についても必ずしも大企業がいい、ベンチャー企業がいいというわけではなく、目的やフェーズによって、大企業やベンチャー企業、プロ人材などを使い分けることが重要です。
新規事業開発におけるオープンイノベーションがなかなかうまくいかないという企業は、本記事で紹介した5つの罠に陥っていないか、5つの成功原則を守れているか、一度チェックしてみてはいかがでしょうか。
なお、本記事はセミナーの内容から一部を抜粋したものです。セミナーでは、ほかにもオープンイノベーションの成功・失敗事例や、プロ人材との連携ポイントなどたくさんのトピックスについて議論されました。もっと詳しく知りたい方は、次回の開催をご期待ください。