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【スマート農業実践入門】農業DXのプロが語る、異業種からの参入ロードマップ

新規事業開発

23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。

近年の農業領域では、ICT技術を活用する「アグリテック(AgriTech)」がトレンドになっています。単純作業を自動化したり、効率的にデータ共有をしたりなど、”農業×IT”で生産性を高めるビジネスが増えています。
そこで今回のウェビナーでは、省庁での戦略立案にも携わる渡邊氏をお招きし、「スマート農業参入ウェビナー」を開催します。渡邊氏は農家へのDX普及など様々な経験を持つ、いわば農業DXのプロとも言える存在です。
「農業ビジネスへの参入方法が分からない」という方に向けて、農業×ITビジネスの立ち上げ方をお届けします。

本ウェビナーの無料ホワイトペーパーダウンロードはこちらからできます。

20230727_渡邊様

渡邊 智之氏

スマートアグリコンサルタンツ合同会社代表兼、一般社団法人日本農業情報システム協会理事
大手IT企業にて農業系新規事業を創出後、2012年農林水産省に出向。スマート農業推進担当として、政府のスマート農業関連戦略策定や現場での普及促進に尽力。慶應義塾大学SFC研究所でも研究を重ね、農林水産省や自治体の会議にも有識者・座長として参画。スマート農業の一層の普及〜農業の変革を願い、2014年には日本農業情報システム協会を自ら立ち上げ、代表に就任。2018年からは農業DX分野での精力的な講演・執筆活動と並行して企業支援に取り組み、実践経験を元に農業ビジネスの立ち上げを後押ししている。総務省地域情報化アドバイザー。

松井 優作

松井 優作

株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部 マネジャー
早稲田大学卒業後、新卒一期生で創業期のサーキュレーションに参画しマネジャー就任。首都圏を中心に自動車や大手製薬メーカーなど製造業50社以上に対し、全社DXの推進・新規事業開発・業務改善・営業部隊の構築・管理部門強化などの幅広い支援実績を持ち、実行段階に悩みを抱える企業の成長を支援中。

網田 悠希

網田 悠希

イベント企画・記事編集
新卒で鉄道系デベロッパーに入社。ショッピングセンターにおける販売促進やテナント誘致に従事後、開業50年を迎える施設の大規模改装プロジェクトでは社内外関係者を巻き込み推進。組織力向上に関心を持ち、全社員対象の周年プロジェクトにも中心メンバーとして参画、複数企画の立案〜実行に携わる。サーキュレーションではプロ人材の経験知見のアセスメント業務とオンラインイベントの企画〜運営を推進。

※プロフィール情報は2023/7/27時点のものになります。

農業DX・スマート農業の重要性が高まる時代に

労働人口の減少や高齢化をはじめ、現代の農業は様々な課題に直面している。出荷までには多くの労力が必要になる反面で、心身ともに負担のかかる作業が中心であり、その実態は「きつい・汚い・危険」で”3K”と称されるほどだ。
さらに、技術面から新規参入が難しい側面もあるため、ITなどの先端技術を活用した「農業DX」の重要性が増している。

このような背景から、農業と先端IT技術を掛け合わせた”スマート農業”は今後の拡大が予想される。国内のみの市場規模を見ても、2021年から2028年にかけては年間約113%のペースで成長する見込みである。

スマート農業は経営課題の解決だけではなく、活用の仕方によっては海外展開のチャンスも生まれる。しかし、農林水産業の農業構造動態調査結果(令和4年)によると、実際にデータを活用している農業経営体数は2022年時点で23.3%に留まっている。

プロが手がけた、異業種からのスマート農業参入支援事例

経営課題の解決につながる反面で、なぜスマート農業は広く普及していないのだろうか。その理由の一つに、技術的な新規参入の難しさがある。
今回は、日本農業情報システム協会の理事も務める渡邊氏にご登壇頂き、スマート農業参入におけるポイントを伺った。異業種から新規事業に参入するフェーズは、大きく次の3つに分けられるそうだ。

まずは「アイデア創出(0→1)」と「事業化・事業グロース(1→10)」それぞれのフェーズについて、これまで渡邊氏が関わってきた事例を紹介しよう。

事例1:SIer×ビジネスプラン策定支援

渡邊氏曰く、新規ビジネスの立ち上げで農業分野を選ぶのはありきたりなケースのようだ。しかし、「とりあえずスマート農業を」といったスタンスで異業種から参入すると、生産現場(農家)との間に壁が生じてしまう。

渡邊:大手電力会社のSlerさんの子会社では、PoC(概念実証)の段階で止まっていました。農業自体をよく理解していない中でプロジェクトを進めているので、例えばセンサーを作って「データを取ってみましょう」だけで終わってしまう。
このような状態では自社の強みを発揮しつつ、農家さんに感謝されることは難しいです。

松井:データベース構築から改善サイクルを回すようなサービスでは、どういった未来をイメージして取り組まれてきたのでしょうか。

渡邊:データベースを作る以上は、生産から消費まで様々な人たちがそこにアクセスし、「みんなが幸せになる」という姿が理想像だと思います。そのためには、データと実際の作業記録を組み合わせて、これまでの経験やノウハウを明文化することが必要と考えていました。

上図のような事業案を考える中で、渡邊氏は”線引き”の重要性を実感したと語っている。

松井:農業では生物に近いものを扱うので、データを集めることが特に難しいと感じますが、その辺りはどのようにお考えでしょうか。

渡邊:できれば5年くらいのスパンを見て、その中である程度のKPIを決める必要があると考えています。例えば、「これが達成できたらこっちに行こう」とか「これが達成できないなら諦めよう」みたいな感じですね。
まずは「その技術で助かる農家がいるか」を探しながら、順序立ててプロジェクトを進めることが重要になると思います。

事例2:機械製造業×営業強化支援

異業種からのスマート農業参入では、「販路の確保」も一つのポイントになる。機能的な製品を開発しても、そもそもの販路がなければビジネスを拡大させることは難しい。

渡邊:静岡のある電機メーカーさんでは、販路に悩まされた事例がありました。先にセンサーを作ったものの「どうやって売ろう」と困り果てて、私が入ったという形ですね。
農家さんに今まで聞いたことがないサービスを初対面の人が営業しても、難しい部分があるかなと思います。

松井:販路開拓のサポートとしては、どういった取り組みをされたのでしょうか。

渡邊:販路開拓については、地域で名の通っている農家さんに使ってもらうことが大事だなと考えています。また、大手ファームに宣伝を協力してもらったり、周りのメーカーさんから販売してもらったりする方法もありますね。農家あるあるなんですけど、「有名な○○さんが使っているなら自分も使いたいな」といった方が多いので。
実際に私も一緒について、メーカーさんに「販売会社になってください」と相談したり、「効果を外に出してもいいよ」という了承をもらったりなどの取り組みをしていました。

渡邊氏は上記のように”販路の土台”を作ることで、農家にとっての導入メリットや実績値を巧みにアピールしてきたようだ。

異業種参入でも失敗しない、農業×ITビジネス立ち上げの3ステップ

ここからは、渡邊氏に「農業×ITビジネス」を立ち上げる流れやポイントを伺った。具体的な進め方は、以下の3ステップに分けられる。

【Step.1】ビジネスプラン策定

渡邊氏によると、最初のステップでは農業の実情を掴み、農家側にもメリットがある事業案を考えなければならない。以下の図は、ビジネスプラン策定までの流れを表したものである。

松井:エリア・ペルソナの中で、「誰に対して売っていくのか」は重要なポイントかと思います。具体的にはどういった人たちを対象にすると良いのでしょうか。

渡邊:私の感覚ですが、自分の代で農業を辞める世代は、新しいことで打開しようとは思いません。そのため、後継者がいるにも関わらず、技術やノウハウを明文化できていない層がターゲットになると思います。

また、渡邊氏は新規参入したIT企業と農家の乖離についても、以下のように懸念している。

渡邊:例えばトマト農家を考えると、大手チェーンに大量納品するトマトと、高級料理店に納品するトマトとでは、求められるモノが違うと思うんです。なので、IT企業が「糖度の高いトマトを作れるから高く売れますよね」と宣伝しても、農家側は「そうではない」と感じてしまう。
そのため、農家さんの立場になり、「収益につながるのか」を意識しなければなりません。

【Step.2】PoC

松井:農家の実情をビジネスプランに反映するためのPoCでは、どういった点を検討すべきでしょうか。

渡邊:まずはキーマンとなる農家さんを捕まえて、全体計画を立てることが重要ですね。例えば、「いつまでPoCをするか」「どの作物でするか」「何件の農家さんにお願いするか」などを考えます。

松井:様々な企業がPoCをやる中で、落とし穴はどこにあるのでしょうか。

渡邊:例えば機械メーカーだと、「作業記録を残してもらおう」という思考にならないケースが多いですね。この状態では、導入したものが良かったのか悪かったのか分からなくなってしまう。
あと、IT企業では機能を盛り込みすぎる例もよくあります。機能が増えすぎると面倒臭さを感じるので、農家さんが導入したい機能だけで結果が出るような仕組みにする必要があります。

要点をまとめると、PoCも農家主体で進めていく必要があるようだ。買い手となる農家はIT機器に不慣れなことも多いため、自社が搭載したい機能だけに目を向けると、現場ではオーバースペックになってしまう。

【Step.3】販路開拓

ステップ3の販路開拓では、特に重要な3つのポイントを提示して頂いた。

渡邊:理想を言うと、誰もが名前を聞いただけで想像できること。そういうサービス名とか、あとはホームページなどで紹介をする場合に、「どんな結果が出ているか」「どんな成果を出しているか」を盛り込む工夫が必要になると思います。
次に販売網。初対面の営業とかでは難しいので、他のメーカーさんに何かを売るついでに、「私たちのサービスも売ってもらえませんか」と相談をするのが近道じゃないかなと思いますね。
あとは、「農家さんのメリットになるのか」という視点も重要です。作ってる側の思い込みが結構あるので、本当に幸せなのかという点も意識してあげないといけません。

スマート農業実践入門まとめ

今回のウェビナーのポイントをまとめると、以下のようになる。

また、異業種からのスマート農業参入を目指している人に向けて、渡邊氏から次のメッセージも頂いた。

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今回ご紹介したウェビナーで使用した資料のダイジェスト版は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。スマート農業実践入門にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。

【無料ホワイトペーパー】スマート農業実践入門〜農業DXのプロが語る、異業種からの参入ロードマップ〜
本ホワイトペーパーは、2023年7月27日に開催したウェビナー資料のダイジェスト版となります。 本回では、農業×ITビジネスの立ち上げ方をお届けしました。新規事業としてスマート農業・アグリテックに着目しているが、自社の強みが農業分野でどう活かせるかわからない!という方は是非ご覧下さい。