【イベントレポート】VR×AR×MR ―メタバース総合プラットフォームを開発したプロが事例で語るXRビジネス活用のポイントとは―
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
2022/10/13回では、XRビジネスに注目して、自社サービスへの落とし込みを検討している経営者、新規事業責任者様に向けて、バーチャルイベント事業の立ち上げやWeb3/NFT×メタバース事業のBiz-devなど幅広く手がける 前田氏に、
各業界の事例とXR導入における重要ポイントをご紹介いただきました。
「XR技術が各業界で今どのように活用されつつあるのか知りたい」
「既存事業にXR技術を活用したいが相性がわからない」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。
当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。
前田 陽太氏
株式会社Synamon Business Development Manager
新卒で株式会社リクルートに入社、美容事業に従事し幅広い職種や業務を経験。その後美容事業内で新規事業(美容医療)の立ち上げに従事、またRing(社内新規事業コンテスト)にて某TV局と共同でエンタメ系サービスを事業化すべく検討。2020年3月~toB 向けにVR/XR/バーチャルサービスを提供するSynamonに参画し、Biz-devロールを軸に大手ゼネコンなど建設業界に対するPMFを目指すプロジェクトのPM、バーチャルイベント事業の立ち上げ、Web3/NFT×メタバース事業のBiz-devなど幅広く従事。
田中 将太
株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部 マネジャー
大手人材系企業を経て、サーキュレーションへ入社。首都圏のサービス業界を担当するセクションの責任者を務め、自らもプロシェアリングコンサルタントとして、100件以上のプロジェクトを担当。大手金融機関での複数の新規事業開発や、大手不動産企業での全社DXのグランドデザイン設計支援から、設立間もないHR系スタートアップの垂直立ち上げ時の経営支援まで、幅広い業界・規模の企業の事業成長に貢献。
酒井 あすか
イベント企画・記事編集
新卒で大手人材紹介会社に入社し、中途採用における両面マッチング型の法人・個人営業、グループ会社・地銀とのアライアンス連携業務に従事。丸の内エリアに本社を構える企業への採用支援、100名単位のグループ会社社員に対して営業企画、地銀への人材紹介事業レクチャーに携わる。サーキュレーションではプロ人材の経験知見のアセスメント業務とオンラインイベントの企画〜運営を推進。
※プロフィール情報は2022/10/13時点のものになります。
Contents
XR活用を考える際、押さえておくべき環境変化
XRを取り巻く環境は急速に変化しており、ビジネス活用を考えるなら技術の方向性や市場動向の把握は欠かせない。今回のウェビナーは、そんな基礎知識の理解からスタートした。
XRとは何か?
そもそもXRとは、「クロスリアリティ」または「エクステンデッドリアリティ」とも呼ばれる、現実世界と仮想世界を融合する技術の総称だ。具体的にはVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)などが、XRに含まれる。
従来、XRは視覚や聴覚から情報を展開する技術というイメージが強かった。しかし現在は、それ以外の嗅覚、触覚、味覚も含めた五感を通して、「体験」を伝えられるまでに進化しており、活用用途は非常に幅広いと想定される。
XRと深く関わるメタバースの市場動向
昨今伸長しているメタバース産業やWeb3の観点でも、XR活用の可能性は大きい。特にメタバース産業は2030年までに675兆円規模の市場に成長すると予想されており、今やブロックチェーン産業を上回る最注目産業だ。
莫大な投資額が動く中、メタバースと親和性の高いXR分野が、今後より一層身近な技術になることは必至だ。このときどうビジネス活用をすべきなのか、早期の段階から展望を持っておきたい。
各業界の活用事例で学ぶ、XRビジネスの最前線
XRのビジネス活用は、大きく2つの軸で考えられる。一つは新規事業の立ち上げ、もう一つは社内のDXだ。
今回はDXによる業務プロセス改善という観点で、従来の視覚・聴覚のみでは解決し得なかった課題にXRがどうアプローチできるのか、事例とともに詳しく伺った。
[industry01]保険業界
最初の事例は、保険会社の事故車損害調査研修にVRを導入した事例だ。社員はあらゆる事故パターンに対して正確な判断が必要とされるため、従来は毎年数100人規模の新入社員を研修所に集め研修を実施していたが、コロナ禍によって開催が厳しい状態となった。
一時期はZoomなどのWeb会議ツールを導入して画面越しに研修を行ったものの、講師視点で撮影するカメラの画角では効果に限界があり、VRの活用案が浮上したという。
田中:実際に前田さんが支援をされた際は、どんなところがポイントになったのでしょうか?
前田:研修センターの状況を全てバーチャルで再現するのはコストが見合わなかったため、まずは研修センターの場所と車1台を作成しました。その上で、どんな角度で事故車を撮影すればいいのか、メジャーで寸法する際はどんな測り方をすればいいのかなど、Web会議だけでは補えない部分を体験できるように設計しています。
VRの効果を評価いただけたため、現在は全国100名規模の新入社員の方にVRデバイスを送付し、研修を継続しています。
また、事故車の損害調査のほか、自然災害による家屋の損害調査にも大きな課題がありました。地震や台風などの災害に遭った家屋を研修センターに置いておくわけにはいかず、災害時に現物を見る方法でしか研修ができていなかったからです。これもVRで再現し、体験できるよう横展開をしています。
[industry02]建設業界
もう一つは、建設業界の施工工程にVRを活用した事例だ。従来、建設業界は工事の設計や工程の検討を行う際、発注者や現場監督といった関係者が全員現場に集まって会議をする慣習があり、移動の手間が課題となっていた。これに対してバーチャル空間で現場の状況を再現し、業務プロセスの効率化を図っている。
田中:関係者が同じVR空間に同時接続して、ディスカッションを行うイメージですか?
前田:そうですね。自分のアバターがバーチャル空間に入り、会話やジェスチャー、図や文字を書くといった形で、現場と変わらないコミュニケーションができるようになっています。
この事例では、業務フローの全体を見ながら、どこにXRを活用すべきかを検討するのがポイントになりました。例えば設計時に、XRで将来的に出来上がる建物のビジュアライズをすることも可能ですが、実際にはコストとの兼ね合いで難しいものがあります。
一方、施工工程のXR活用については、将来的にデジタルツインのような形で現場からセンシングデータを取得し、リアルタイムで状況を再現する展望が描けました。ここを目指して、まずは今ある現場を切り出して再現するところからスタートした形です。
[industry03]医療業界
最後が、医療業界の事例だ。「医療業界ではすでに医師のトレーニングのため、幅広くXRが活用されている」と前田氏。
事例では施術の流れの把握や実作業のトレーニングを三次元で行えるようにMRを活用したほか、これまでは難易度が高かった災害医療研修にVRを導入したという。
前田:災害医療研修の事例では、360度の実写動画がリアルタイムで流れる形のVRを開発しました。
こうした技術の活用は旅行や災害支援の観点でよくあるのですが、実際にはネットワークや画質の細かい検証がまだできていない段階です。まずはフィジビリティを見る意味で実際にトライしてみて、体験がどうだったのかを見させていただきました。
XR導入における現状の課題
ここまで3業界の事例をご紹介したが、実際にXRを導入するのは、まだまだ多くの企業にとってハードルが高いのが実情だ。前田氏は特に課題になる点について、将来的なXRの変化予測や判断軸を持つ難しさを挙げている。
前田:XRやメタバースが中長期的に身近になるということは誰もがコンセンサスを持ちだしている段階ですが、どのタイミングで何が登場するのかを予測するのは、デバイス一つを取っても難しいものがあります。
また、XR導入の最初のステップとして何をやろうかと検討してみると、難しそうに見えて意外と簡単にできることもあれば、簡単に見えて非常にコストがかかるような要素もあります。この辺りの判断がつかないのが、最初のハードルになるのではないでしょうか。
XR導入の進め方の重要ポイント
不確定な要素が導入ハードルになっているXR分野ではあるものの、導入プロセス自体は通常の技術開発と大きくは変わらない。XR分野特有のポイントはどこにあるのか、一つずつ伺った。
[phase.1]企画
最初の企画段階では、自社の課題とXRができることの掛け合わせを検討する必要が出てくる。特にベンダー企業など技術を持ったパートナー企業と提携する場合は、事業と技術、両方の分野にお互いが踏み込んでいくのが重要だ。
田中:以下では大きく4つのシーンを取り上げていただいていますが、XRの活用が特に有効な場合について教えていただけますか?
前田:内容は建設業界に寄っていますが、エッセンスとして共通する部分はどの分野にもあります。一番わかりやすいのは、シーン3の体験を伴う内容ですね。例えば危機体験など、命にかかわるような体験は現実の研修ではできませんから、XRと非常に相性が良いです。
シーン1については、Zoomなどで代用できない部分を補えると思いますし、シーン2は建設の事例にあったように、同じ現場を異なるステークホルダーが見るような場面ですね。人によって見るポイントが違いますから、図面だけでは難しい判断をVRの中で見極めてもらえます。シーン4は医療業界にも通じるものです。現場から得られないようなデータも、VRなら可視化が可能です。
[phase.2]開発
VRの活用方法を検討できたら、実際の開発に入る。例えば建設業界であれば、最終的に施工現場のデジタルツインを目指して開発を進めるべきだと前田氏。
前田:デジタルツインとは、現場にわざわざ行かなくても、遠隔でシミュレーションや合意形成ができる状態のことです。この比率を増やして生産性を高めるというのが、デジタルツインの文脈です。
スライドにはデータの更新頻度とデータ量を縦軸と横軸で示していますが、月に1回程度のデータ更新では、現場の判断には役立てられないでしょう。しかしながら、まずは「ここなら効果が出る」という特定シーンでの活用からスタートして、データをどう取得・蓄積していくのか、中長期的に見ながら開発を進めるのが大事です。
田中:導入段階では特定シーンで活用をしつつ、先々は施工現場のデジタルツイン化を構想として持ちながら導入をするのがポイントなんですね。
[phase.3]運用
最後の運用フェーズでポイントになるのは、XR活用を当たり前にするということだ。使用頻度が一時的では現場にXRを利用する意識が醸成されないため、日常的にXRの使用率を高める必要があるという。一方で使用頻度が高すぎても現場の負担になり破綻する可能性が高いため、「まずは一つ導入して、良ければ横展開するイメージを持つのがいい」と前田氏は語る。
また、XRをどのような領域から運用すべきかについても、実際の効果を基に教えていただいた。
前田:あくまでも一例ですが、研修のような領域から入るのが効果的です。建設業界の事例を見てもわかる通り、研修は現場のシミュレーションでもあるので、実は連続性があります。
その前提に立ってみると、スライドの図にあるように視聴覚や読書だけでは得られない、「自ら体験する」という状態をVRで作り出せるのは非常に有益です。また、VRのような最新技術に触ることでデジタル人材の育成にも寄与できれば、新たなVRの企画を考えるきっかけにもつながりますので、一番フィットしやすいと思います。
田中:学習効果に加えて、副産物的なIT領域の教育効果も生めるかもしれないということですね。
VR×AR×MRまとめ
今回のウェビナーのポイントをまとめると以下のようになる。
今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。VR×AR×MRにご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。