【イベントレポート】世界700兆円の”フードテック” ―代替肉開発、食ロスプラットフォームを立ち上げたプロの事例で学ぶ、フードテック事業とは―
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
2022/09/13回では、フードテック市場への参入を検討される新規事業責任者・経営企画責任者の皆様に向けて
食ロスプラットフォーム「シェアシマ」を立ち上げた 呉氏に、世界700兆円市場と言われるフードテックの立ち上げPJT事例や事業の特徴について語っていただきました。
「自社のアセットをフードテック事業に活かしたいが、どのように活用すればいいかわからない」
「フードテックマーケットに注目しているが、具体的な参入方法が思い浮かばない」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。
当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。
呉 雪梅氏
2社でフードテック事業開発を手がけたプロフェッショナル
2013年にマルコメへ入社。大豆ラボシリーズの企画~商品開発までを担当。
海外調達*開発では、マルコメ史上初の直貿易制度を企画~立ち上げ~実施し、3年間で合計9億円のコストダウンに成功。
マルコメを退職後、2019年にICS-netへ参画し食品メーカーマッチングサイト「シェアシマ」を0→1で立ち上げ、
国内自給率の低下、生産国の環境問題、消費国のフードロス、GLOBAL GAPといった新しい課題解決に貢献している。
松井 優作
株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部 マネジャー
早稲田大学卒業後、新卒一期生で創業期のサーキュレーションに参画しマネジャー就任。首都圏を中心に自動車や大手製薬メーカーなど製造業50社以上に対し、全社DXの推進・新規事業開発・業務改善・営業部隊の構築・管理部門強化などの幅広い支援実績を持ち、実行段階に悩みを抱える企業の成長を支援中。
酒井 あすか
イベント企画・記事編集
新卒で大手人材紹介会社に入社し、中途採用における両面マッチング型の法人・個人営業、グループ会社・地銀とのアライアンス連携業務に従事。丸の内エリアに本社を構える企業への採用支援、100名単位のグループ会社社員に対して営業企画、地銀への人材紹介事業レクチャーに携わる。サーキュレーションではプロ人材の経験知見のアセスメント業務とオンラインイベントの企画〜運営を推進。
※プロフィール情報は2022/09/13時点のものになります。
Contents
フードテック分野は世界で700兆円規模にまで伸長する見込み
ソフトウェアがあらゆる分野に進出する中、特に注目を浴びているのが食×テクノロジーの領域であるフードテックだ。ここにはSDGsのテーマにも含まれている食品ロスや飢餓、生産者の人口・後継者不足など、さまざまな課題解決に向けた社会的要請も深く絡んでいる。
実際にフードテック分野への投資額は世界的に増大傾向で、現在は3兆円規模の市場が、225年までには700兆円にまで拡大すると見込まれている。
日本はアメリカや中国、インドなどに比べると投資額の面でおくれを取っている状態だが、やはり伸び代は計り知れない。グローバル展開も視野に入れて動き出す価値のある領域だと言えるだろう。
企業が知るべきフードテックの可能性と事業別パターン
今回はまずフードテックの分野が持つ可能性を探るため、そもそも具体的にどのような課題があるのかという基本部分からスタートした。さらに具体的な事業パターンや参入方法についても、ヒントをいただいている。
需要が高い「食課題×SDGs」
松井:フードテックでやはり外せないのが、SDGsとの親和性です。簡単にSDGs17の項目と食がどのように交わっているのか、ご説明いただけますでしょうか。
呉:世界的に最も注目されているのが飢餓の問題です。日本人口は減っている一方で世界的には人口が増え続けているという背景があり、2030年にはタンパククラッシュが訪れると言われています。穀物を含めたタンパク質が摂取できなくなる恐れがあるのです。
先進国ではフードロスも世界的な問題になっています。そこに付随して、フードロスから発生するCO2排出も注目されていますね。また、食品メーカーに務めている全ての人には食に対する一貫した責任があるため、「作る責任・使う責任」につながるといえるでしょう。
最近は持続可能なエコシステムも非常に注目分野になっていて、テクノロジーで人口減少の課題を解消した、新しい働き方への改革も期待されています。
フードテックの事業パターン
上記のような課題がある中、フードテック分野ではどのような事業パターンが考えられるのか。食品には生産、流通、加工・調理、小売・飲食(消費)、そのほか廃棄、再加工といったバリューチェーンが存在し、そのそれぞれに事業チャンスを見いだせる。
今回は特に生産領域と食品加工領域、調理加工領域の3つのパターンについてご紹介する。
[パターン1]生産領域/スマート農場、植物工場
松井:生産領域で最も進んでいる事業モデルは、やはりスマート農場や植物工場でしょうか。
呉:農家の後継者不足、都市と地方の格差の解決という意味で、スマート農業と縦型の植物工場が将来的に寄与する可能性があります。現在は165億円ほどの投資が実施されており、2025年には600億円にまでなると言われています。
国内ではスプレッド社による人工光型レタスの栽培が有名ですね。スタートアップの中でも40億円ほどの資金調達をしており、非常に注目されています。
生産領域のビジネスモデルに対する最も大きな壁は、「コスト」であると呉氏。
呉:ロボティクスなどのアイデアはどんどん出てくるのですが、いざ実施しようとなると自然栽培と比べたときのコストの壁がまだまだありますね。
[パターン2]食品加工領域/バイオ食・昆虫食、次世代食品
松井:直近でいうとビヨンド・ミートが日本に進出するニュースもありましたが、ここも注目度はほかと比べて高いのでしょうか?
呉:フードテックの中でもここは非常に成長が著しく、ビジネスモデルとして成り立っている領域です。ビヨンド・ミートやアメリカのインポッシブル・ミートを筆頭に、日本国内でもネクストミーツやDAIZといったスタートアップ企業が分野を牽引しています。
ここは企業として参入しやすい領域であり、「タンパク質を食べられなくなったらどうしよう」という課題も消費者に伝わりやすいかと思います。
松井:ここでも鍵になるのは、生産コストと味の両立でしょうか?
呉:まだまだ本物のお肉に近い味や食感は再現できていませんし、大豆肉のほうが高い現状もあります。お肉よりも美味しく食べられることと、コスト面の解決は必須です。
[パターン3]調理加工領域/調理ロボット、スマートキッチン
松井:調理加工領域においてもテクノロジーが進出しているということですが、例えばどんなものがあるのでしょうか。
呉:調理ロボットやスマートキッチンなどです。東京の飲食店には外国人労働者が多いですし、コロナ前はインバウンド需要もあったため人手が足りない分野です。外食産業の人手不足に対して、ロボットが調理・配膳までは行えるようになっています。
一般家庭でもAIが食材を管理する冷蔵庫などが発売されており、改革が起きていると感じますね。
3つの事業参入方法と押さえておくべきポイント
フードテック領域への事業参入方法としては、自社が生産する、委託する、資本提携を行うといった3つのケースが考えられる。
どのような事業参入をするにせよ、ポイントになるのは現在自社が既存事業で持っている強みが何なのかを把握し、新規事業に生かして競合優位性を高めることだといえる。
プロの事例で学ぶ、フードテック事業構築ロードマップ
以上のような点を踏まえて、ここからは実際に呉氏がどのようにフードテックの新規事業を立ち上げたのかを伺った。
[事例1]ダイズラボシリーズ
最初にご紹介するのは、食品加工分野に該当するマルコメの「ダイズラボシリーズ」だ。これは「ヘルシーを、もっと美味しく、ギルティフリー」をコンセプトにした代替肉で、手軽に食べられる栄養食品という着想で開発された。
呉:自社のコア技術は何かと考えたとき、当然マルコメはお味噌の主原料である大豆の加工に古くから関わっているという事実があります。そこでマルコメでは、レトルトタイプで、野菜があれば手軽に調理できる代替肉の開発を目指しました。従来の乾燥型大豆ミートは水戻しが必要で使いづらかったためです。タイミング的にはちょうどRIZAPが取り沙汰された頃で、低糖質低カロリー高タンパクな食品という意味で大豆ミートは非常に適していると考えました。
自社と消費者のニーズ、社会背景が掛け合わされて商品特徴になった感じですね。
ダイズラボシリーズのリリースによって味噌以外の事業展開をすることになり、マルコメは社会的に注目を浴びたと呉氏。結果的にSDGsに紐付いた事業となったのも、話題となった要因の一つだという。
「味噌メーカー」から「健康食品メーカー」への転換を図れた意味で、ダイズラボはマルコメのエポックメイキング的な存在になったようだ。
[事例2]シェアシマ
次の事例は、ICS-netが提供する食品開発のための原料検索サービス「シェアシマ」だ。これは流通分野のBtoBプラットフォームで、呉氏がダイズラボシリーズを開発する際に感じた課題感が発想の起点になっているという。
呉:従来食品に関わるB向けの情報はなかなかインターネットでは発信されておらず、商品開発を行う上では非常にストレスがありました。
松井:そこでICS-netで立ち上げられたのがシェアシマなんですね。実際の事業立ち上げプロセスの中では、どんな難しさがあったのでしょうか?
呉:マネタイズと認知の拡大ですね。問題定義をすると解決策はすぐに見つかるのですが、事業を長く継続させるためには必ずどこかにマネーポイントを生まなければいけません。ここは日本の商習慣と事業をどう融合すべきなのか、ユーザーにとってストレスのないポイントはどこなのかと、日々リサーチしています。今現在も、最適なビジネスモデルを再検討している最中です。
認知拡大の部分については、やはりWebサービスやプラットフォームが世の中にあふれている中で、どうターゲットにサービスを知ってもらうのか、試行錯誤を繰り返してきました。
松井:スタートアップの場合は最初の2000ユーザーを見つける営業に苦労すると思いますが、実際にどのように営業を進めたのでしょうか?
呉:「社会課題の解決」というのは非常に注目度が高いので、シェアシマで解決できる課題は何なのか、積極的に発信しました。
もう一つ大きな要素となったのは、コロナ禍ですね。サービスがローンチした2019年12月のすぐ後に初めての緊急事態宣言が出ました。リモートワークやオンライン商談が普及し企業の中でWebサービスを使う割合が増えたため、そこに上手く入り込んでいったイメージです。
業界初となるサーキュラーフードのシステムを確立したことによって、現在シェアシマ上では余剰在庫1万トンを集めるチャンネルにまで成長し、2300企業が交流を行っている。また、行政からもサーキュラーフードとして認知され、支援を受けながら事業を推進しているなど、市場に大きなインパクトを与えている存在だ。
世界700兆円の“フードテック”まとめ
今回のウェビナーのポイントを「すぐに取り組んでいただきたいこと」としてまとめると以下のようになる。
今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。世界700兆円の“フードテック”にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。