イントレプレナーの育て方 ―起業家育成のプロが語る、新規事業人材を育てる3つのステップ―
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
2022/02/22回では、新規事業を社内からもっと出していきたいと思いつつ、社内に推進できる人材が見つからない・・・とお悩みの経営者の皆様に向けて、長らく起業家育成に携わられてきた社内起業家育成のプロ 松澤氏に、新規事業人材を育てる3つのステップとして実践的な社内環境整備についてご紹介いただきました。
「既存事業の営業や技術の現場人材から新規事業人材を育てたいがどうしたらよいかわからない」
「新規事業立案制度を作ったが案が出てこない、出てくる数が毎年減っている」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。
当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。
松澤 斉之氏
SBI大学院大学MBA講師
大学卒業後、商社等を経て、起業家育成学校の事務局長をつとめ数千人の起業家候補と接した経験とコーポレートアントレプレナー育成を新規事業として起案実行。国内最大規模の起業家育成プログラムを提供するスクールの企画運営統括責任者となり、その後マザーズ上場に貢献(後のビジネス・ブレークスルー)。また社内新規事業として企業内アントレプレナー育成サポート事業を立ち上げ、リクルート、三井不動産、NTTドコモなどの大手クライアントを獲得。現在は独立し主に大企業の新規事業開発を支援しながら、SBI大学院大学MBA事業計画演習講師としても活躍中。
鈴木 亮裕氏
株式会社サーキュレーション パートナー
NTT東日本、中国での起業、組織人事コンサルティングファームを経て2015年創業期のサーキュレーションに参画。トップコンサルタントとしてIT領域を開拓後に執行役員に就任。その後、組織急拡大期に人事部長として人事制度設計の再構築を主導、インサイドセールスと大企業のオープンイノベーションを推進する機能を持つビジネスデベロップメント部を管掌した後、2022年8月よりエキスパート職として、エンタープライズ企業向けコンサルティングのパートナー職を担う。
新井 みゆ
イベント企画・記事編集
新卒で入社した信託銀行では資産管理業務・法人営業・ファンド組成の企画業務に従事。「知のめぐりを良くする」というサーキュレーションのミッションに共感し参画。約1500名のプロ人材の経験知見のアセスメント経験を活かし、サービスブランディング、イベント企画等オンライン/オフラインを融合させた各種マーケティング業務を推進。
※プロフィール情報は2022/02/22時点のものになります。
Contents
新規事業人材が求められる社会的背景とは?
現在、企業や個人には「事業を発想し実行する力」が求められている。その背景にあるのは、例えば産業構造の高度化、技術の進化、コロナ禍に代表されるような外的要因による社会環境の大きな変化などだ。
さらに実際に新規事業に取り組む企業の生の声に耳を傾けてみると、大きくは以下のような3要素が浮かび上がってくる。
このような混沌とした状況の中でビジネスをスピーディに成長させていくには、ビジネスの視野を広げ、ゼロベースから新たな事業を構築できるような人材が不可欠だ。
事例で学ぶ、イントレプレナーで変わる社内新規事業創出
新規事業の立ち上げはもとより、そのための人材育成も容易ではない。今回は外部から採用した中途人材を生かしながら、新規事業立ち上げの素質を持つ人材――イントレプレナー(社内起業家)をどう育てるべきなのかに焦点を当て、松澤氏に事例を絡めてお話を伺った。
新規事業で重要となる新規事業人材のスキルセットとは?
そもそも新規事業人材に必要なスキルセットとは非常に幅広い。松澤氏は大きく「事業企画」と「企画実行」、2つの要素に分けられるとした。
松澤:企画の段階ではアイデアを発想したり創造的なプランニングをしたりする力、シードをほかのビジネスモデルと比較して評価するような力が必要です。それを具体的な数字に落とし込む、法律に遵守しているかを確認する、その上で事業をやりきるといったスキルは、企画実行能力として分けられると思います。
企画と実行、両者のスキルを兼ね備えている人物はほとんどいない。まずは個人にどちらの素質があるのかを見抜き、各種スキルが事業のどんなフェーズで必要となるのか、見極めが必要だと松澤氏は語る。
[成功事例.1:大手メーカー]アイデア出しと並行して人材を育成
ここからは実際に松澤氏が関わった成功事例を通して、人材育成のポイントについて教えていただいた。
最初の事例は売上規模5000億円以上のエンタープライズ企業。どのように新規事業を立ち上げるべきか最初の一歩でつまずいているような状態から、新規事業人材を5名発掘・育成に成功したという。
松澤:まずはジョブレベルの高いリーダー候補の方を13人アサインして、レクチャーを行いました。リーダー候補を中心に3~5名程度のチームを作り、アイデアシートにアイデアを出してもらうような活動です。数でいうと60~70ほどのアイデアをフィードバック。それらを4ヶ月かけて一つのアイデアに絞っていくプロセスもご一緒しています。
アイデアをブラッシュアップする中では役員プレゼンも経て13案を3案にまで絞り、それぞれ事業計画書の数字まできちんと立てました。さらに5カ年計画と月次のPLを1年分記載するところまで実行・サポートしています。
松澤氏は事業を評価するとともに、ワークショップや課題を通して個人単位のスキル・素養をも評価・可視化。評価シートを用いながら定量・定性両面から人材のポテンシャルについて細かに分析し、確実な育成へと結び付けていった。
[成功事例.2:IPO後のベンチャー]研修で基礎知識をインプットし人材を発掘
もう一つはIPO後のITベンチャー企業の事例で、同社の売上規模は100億円以上。既存事業にはまだ伸び代があったものの、成長加速のために新規事業が求められており、松澤氏が相談を受けた。
こちらも新規事業人材を約3名育成することに成功し、さらに約7つの事業案も創出されている。
松澤:こちらの企業も「まずはアイデアをどんどん出せるような人材を育てたい」ということだったので、要件定義をした上で企画発想力育成のワークショップを開催しました。実質丸2日ほどかけて新規事業の基本的な立ち上げプロセスや重点などをインプットし、チームで討議をしながらメンバーの中に新規事業の枠組みを浸透させていきました。さらに、彼らから出てきたアイデアを振り返るリフレクションの時間も取っています。
鈴木:座学で身に付けた知識を実行しなければ意味がないということで、かなり実践に近い部分にまで踏み込むような研修を行っているんですね。
イントレプレナー/新規事業人材を育てる3つのステップ
以上の事例を踏まえ、実際にイントレプレナーを育てるための具体的な3ステップについて、深堀りしてお伺いしていった。
ステップを詳しく解説する前に触れておきたいのが、新規事業人材育成において発生しやすい課題についてだ。
まずは、そもそも人材がいないという点。次に、せっかく人材がいても会社がアイデアの芽を摘んでしまうという点。そして3つ目が、人材がいるにも関わらず発案がなく、新規事業の創出に至らないという点だ。
以下の0~3までのステップには、これらの情報を打破するヒントが隠されている。
[step.0]推進体制として新規事業の事務局を創る
鈴木:ステップ0として新規事業の事務局を創るということですが、まずはここからが大事なのでしょうか?
松澤:そうですね。新規事業自体が非常に難易度の高いものなので、成功・失敗を問わず会社のナレッジとして蓄積していくために、最初の段階で体制は設計しておくことです。
実際に新規事業の立ち上げを行った事例があり、このときは非常に事業に意欲のある方がアサインされていました。しかしまずは新規事業のネタを追いかけるよりも発射台を強固なものにしていくべきだということで、ネタ出しの基準や判断プロセス、撤退基準などを最初の段階で注意深く明文化していきました。
[step.1]アイデアが出てくる育成研修を実施する
事務局を立ち上げた後は、事例でもご紹介したように実際にアイデアが出てくる育成研修の実施をスタートする。進め方のポイントとして、「情報のインプットのフェーズが必要」だと松澤氏。
松澤:新規事業の流れや必要な人材、チームの作り方、立ち上げフロー、事業の見極め、収益構造、他社事例。こうした基礎知識を理解した上で、「自社ならどうできるのか」を考える必要があると考えています。
鈴木:人材のスキル可視化は育成のどの段階と絡めながら定義するのでしょうか?
松澤:例えばビジネスへの考え方や知識量、仮説思考力があるか、ものごとを数字で語れるかといったことは、一緒に1~2日程度研修をする中である程度可視化できます。もしもそういった時間がなければ、担当者の方に要件をインプットし、素養がありそうな方を候補者として出してもらうようお伝えしています。
[step.2]たくさん出たアイデアを絞り込む制度運用を行う
鈴木:次のアイデアを絞り込むステップも重要ですね。せっかく出たアイデアの芽が恣意的に潰されてしまうことがありますし、そのほかに事業の撤退ができない、そもそも事業化が推進できないといった課題も出てきますが、どのように制度を考えていくのでしょうか。
松澤:まずは制度に対する合意を会社側と握っておくことが重要です。例えばある大企業が社長の鶴の一声で初めてしまった事業はなかなか撤退できないといったケースがあるのですが、何兆円規模の企業の中で売上が数千万円しかなかった場合、撤退の線引きとなるルールが必要です。最初の段階で新規事業アイデア募集及び撤退基準を明確に提示しましょう。
ただし、ここで決める基準はあくまで恣意性を排除するためのものであり、実際にはメンバーの意欲や事業のフェーズによって、基準に満たなくても役員判断で継続するケースがあるという。松澤氏は「新規事業のネタ出しであっても撤退であっても、ルールがなく『よくわからない軸でやめさせられた』と思われてしまうのが最悪の例」と語る。ルールが存在することそのものが重要な要素のようだ。
[step.3]決めたアイデアが事業化されるフォローをする
最後のステップは、アイデアが出てきたときに事業化をフォローするということだ。またアイデアを出せる貴重な人材が、新規事業に携われるようにするバックアップも欠かせない。
松澤:出てきたアイデアや取り組んだことへの正しいフィードバックを行うのが、メンバーの意欲を削がない方法の一つです。せっかく意欲を持ってプランやアイデアを出して新規事業制度にエントリーしても、どこかで潰されてしまうとネガティブな感情だけが残ってしまいます。こうした状況を避けるために仕組みでクリアしていきましょう。
それにはやはり、基準や判断フローを明確にすることですね。基準に達しなかったとしても数字的なフィードバックを行うといいでしょう。
鈴木:スライドに新規事業立ち上げ後のフォローのTODOリストとありますが、実際の支援でもこういったリストを作成して進めていくのでしょうか?
松澤:そうですね。立ち上げの並走やアイデアのフィードバックについては外部の人材を活用してもいいでしょう。必ずしもコンサルタントである必要はなく、VCや投資家からの視点を入れるのもありです。
イントレプレナーの育て方まとめ
今回は知識のインプットや制度の運用の大切さについて重点的にお話しいただいた。その中で特に覚えておきたいウェビナーのポイントをまとめると、以下のようになる。
特にポイント3は、新規事業を創発していくための社風を創る上で重要なことだという。
松澤:社内の風土も変えていきたいという要望もよくいただくのですが、そういう意味では成功事例を作り、それがどういうプロセスで成り立ったのかをきちんとアピールすることです。上手くいかなかったプランをきちんとフィードバックするのもアピールの一貫になるでしょう。そういったケアが必要ですね。
またウェビナーの総括として、「すぐに取り組んでいただきたいこと」を以下にまとめた。
今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。イントレプレナーの育て方にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。