【イベントレポート】サステナブル時代のデータビジネスの創り方 ―60のDXプロジェクトを手掛けたプロが語る、カーボンニュートラル×データビジネス開発のポイントと実践事例とは?―
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
2021年7月1日は、データ分析を生かした社会課題解決事業の実践事例が知りたいとお考えの皆様に向けて
データサイエンティストと経営者の顔を持つ久米村氏にサステナブル時代を生き抜く新規事業開発の裏側と成功のポイントを語っていただきました。
「次世代に繋げる新規事業を求められているが企画が思いつかない」
「SDGsのような今後成長性がある市場での事業立ち上げを検討しているが何から着手したら良いかわからない」
こうしたお悩みを持つご担当者様は必見です。
当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。
久米村 隼人氏
データサイエンティストと経営者の顔を持つDX推進のプロ
マクロミル・リクルートマーケティングパートナーズ・弁護士ドットコム・日本経済新聞社にて15以上のデジタル関連事業を創出。独立後は株式会社DATAFLUCTを立ち上げ、データ活用と組織改革に関する自社プロダクトを開発、協業により大手のDX推進にも寄与。幅広い業態50社以上のデジタル事業開発プロジェクトを推進中。JAXAの非常勤職員として宇宙ビジネス創出にも携わる。
信澤 みなみ氏
株式会社サーキュレーション ソーシャルデベロップメント推進プロジェクト 代表
2014年サーキュレーションの創業に参画。成長ベンチャー企業に特化した経営基盤構築、採用人事・広報体制の構築、新規事業創出を担うコンサルタントとして活躍後、人事部の立ち上げ責任者、経済産業省委託事業の責任者として従事。「プロシェアリングで社会課題を解決する」ために、企業のサスティナビリティ推進支援・ NPO/公益法人との連携による社会課題解決事業を行うソーシャルデベロップメント推進室を設立。企業のSDGs推進支援、自治体・ソーシャルセクター とのコレクティブインパクトを目的としたプロジェクト企画〜運営の実績多数。
花園 絵理香
イベント企画・記事編集
新卒で入社した大手製造メーカーにて秘書業務に従事。その後、医療系人材会社にて両手型の営業を担当し全社MVPを獲得、人事部中途採用に抜擢され母集団形成からクロージング面談まで幅広く実務を経験。サーキュレーションでは、プロ人材の経験知見のアセスメント業務とビジュアルに強いコンテンツマーケターとしてオンラインイベントの企画〜運営を推進。
※プロフィール情報は2021/7/1時点のものになります。
Contents
ESG/SDGsの市場動向と今後のビジネスの可能性とは
世界規模で高まる人口増加と気候変動対策への意識
「サステナブル時代」や「サステナビリティ」、「ESG」「SDGs」といったキーワードを頻繁に耳にしている人も多いだろう。これらの背景にある地球規模の大きな要因が、人口増加と気候変動だ。
2019年時点での世界人口は約77億人だが、2050年時点には100億人を突破すると予想されている。また、日本の平均気温は産業革命以前から1.1℃を超過。大きな気候変動に伴い、自然災害の発生や生物の多様性の崩壊、食糧危機などのリスクは日々高まっている。
これらの状況を受けて2015年に採択されたのがSDGsであり、世界規模でESG投資は加速を見せている。実際のところ、SDGsの市場機会は年間12兆ドル、雇用創出機会は3億人規模にも上ると言われる。
脱炭素に向けた日本のグリーン成長戦略
グローバル企業のみならず、日本国内においてもGPIF(Government Pension Investment Fund/年金積立金管理運用独立行政法人)がESGの指標を公表するなど、大きな動きがある。
さらに2020年には菅政権下におけるカーボンニュートラル――「脱炭素社会」達成を目指す宣言が出された。これに伴い経産省によって策定されたのが、2050年までにカーボンニュートラル社会を実現するためのグリーン成長戦略だ。重点14分野に対する研究開発やイノベーション支援のためには、2兆円もの予算が確保されている。
以上のような状況を鑑みると、サステナビリティの方針や体制を経営戦略に組み込み、社会性と事業性を両立させることは、多くの企業に問われる視点だと言える。
DATAFLUCTのご紹介―住友商事・西粟倉村との取り組み事例
今回ご登壇いただいた久米村氏は事業会社時代から15本の新規事業をリリースし、独立後は株式会社DATAFLUCTを設立。「すべての産業のためのデータ活用を可能にするサービスを提供する」というバリューを掲げ、2019年の創設からわずか3年足らずで、30もの新規事業を手掛けた。
久米村:当社が行っているのは衛星データを含む様々なデータを活用した社会課題解決事業で、キーワードは「サステナビリティドリブンな新規事業開発」です。最初の事業では、食品廃棄ロスを削減するアルゴリズムを開発しました。
大手企業の案件にも携わっている。例えば住友商事の新規事業では、岡山県の西粟倉村の自治体と共同で森林所有者の情報をデジタル化。CO2吸収量を見える化などまで可能なアプリ開発を行った。
数多くの実績を通して、サステナブル時代におけるデータビジネスの創り方のノウハウを蓄積してきた久米村氏。ここからは具体的に、データビジネスを成功させるためのポイントを伺っていく。
サステナビリティを目指す新規事業責任者に必要な「長期視点」
そもそも「サステナビリティを意識した新規ビジネスを」と考える企業の新規事業責任者たちは、なぜなかなか有用な新規事業を生み出すに至れないのか。この原因について、久米村氏は以下のように述べる。
久米村:まず、多くの企業はサステナビリティに対してある種の矛盾を抱えることになります。サステナビリティとは持続可能性のことですが、ここには長期視点が絶対に必要です。にもかかわらず、「3年で黒字を出せ」と言う企業が多い。この考えを入れ替えなければいけません。
このとき参考になるのが、「社会のメガトレンド」だという。
久米村:メガトレンドというのは、カーボンニュートラル宣言をはじめとしたグローバルな流れのことです。さらに、顧客のみならず従業員や取引先も含めた意味でのステークホルダー。これらを見て世の中がどう変わっていくかをイメージし、ビジネスを作っていくのがキーになると思っています。
メガトレンドからビジネスチャンスを生み出す手法
社会のメガトレンド――すなわち世の中の大きな動きを明確につかみ取り、ビジネスにつなげるというのは、一見するとかなり難易度が高いように思われる。
この点について久米村氏は、「トレンドを知る」「先進的な世界の事例から学ぶ」「社会課題への消費者インサイトをつかむ」ことが肝要であるとする。各内容について、詳しくご説明いただいた。
Point.1 トレンドを知る
最初のポイントは、そのものずばり「トレンドを知る」ことだというが、久米村氏は日々どのようにトレンドをキャッチアップしているのだろうか。
久米村:SDGsやサステナビリティには数多くのテーマがありますが、皆さんが日々見ているニュースはヒントだらけです。日本経済新聞を購読しているとカーボンニュートラルの特集がたくさんありますし、それらを片っ端から調べ、政府やグローバル企業から出されている資料をしっかり見ると、いろいろなことが見えてきます。
久米村:現在大きく言えることは3つです。ひとつは、CO2を可視化するトレンドが進んでいること。我々は衛星データを活用してCO2の可視化を行っていますが、そういった内容です。
もうひとつが削減。CO2をどう削減すればいいかを考えるとサプライチェーンの問題がありますし、オフセット(埋め合わせ)をどうしていくのかという考えが当たり前の流れになり、大きな市場になると予想されます。
もうひとつが極めて重要なポイントで、あらゆるものにお金だけではない、環境的な価値が付加されていく時代が来るのではないかと思っています。
これらのトレンドの定義について、久米村氏は「企業でのその人のポジションや役割によって変わるはず」と述べる。トレンドを知るには、自社のミッションを整理するところからスタートすべきとのことだ。
Point.2 先進的な世界の事例から学ぶ
2つめのポイントが、先進的な世界の事例から学ぶというものだ。特にカーボンニュートラルの文脈では、ヨーロッパの事例を調べることからスタートすることになるという。
久米村:ヨーロッパ系の取り組みを調べていくと、炭素を可視化する、会計の中に炭素を組み込むといった流れが10年ほど前から当たり前になってきていることがわかります。なぜなら報告書にCO2の排出量を記載しなければいけないからです。最近はAppleがプロダクトごとに環境スコアを出していたりします。
そこから「ニュートラルではなくゼロにしていく」「一般消費者を取り組みに参加させていく」という流れが、新しいトレンドとして最近わかってきたことです。
信澤:これは実際に社内だけで開発するパターンと、どこかの企業と組んで開発するパターンがあると思いますが、主流になっているのはどのようなやり方なのでしょうか。
久米村氏はここから、自分の仕事 -データサイエンスの分野において、トレンドがどのように結び付くのかを分析する。
久米村:CO2の可視化にはほとんどの場合AIやビッグデータが使われているので、ここにビジネスチャンスがあるのではと思います。また、当社は物流のサプライチェーンの最適化を行っていたりするのですが、それを今度はCO2に置き換えてオフセットや削減という観点の事業にできないだろうかとも考えます。レコメンドエンジンも開発しているので、その観点から一般的な消費者行動を変えることでCO2削減の取り組みができないだろうか……といったことが見えてくるわけです。
信澤:では、この結び付けは必ずしもデータサイエンスではない可能性があるんですね。
久米村:皆さんがやっている事業がスライドの右側部分に入るのではないでしょうか。
Point.3 消費者インサイトをつかむ
ここまではマーケットを中心としたポイントだったが、最後にお伝えするのが消費者インサイトをつかむという点だ。
そもそもカーボンニュートラルの必要性は多くの人が認知しているところではあるが、実際に個々人で地球環境を意識した行動ができているかどうかには、大きな差が出るだろう。BCGの調査データによれば、一般消費者が環境活動に参加できない理由の多くは、「どんな商品の環境負荷が低いのかよくわからない」からだという。
久米村:例えばですが、買い物をしたときのレシートにCO2量が印字されているか。環境活動を頑張っているアパレル企業とそうでない企業の商品タグに差があるか。こういった部分ができていないからユーザーが商品を選びにくくなっているというのが、ひとつのインサイトだと思っています。
今後DATAFLUCTが狙うカーボンニュートラル事業機会
メガトレンドとビジネスを結び付けるための考え方を押さえたところで、実際にDATAFLUCTが今後展開する新規事業の事例について教えていただいた。
カーボンニュートラルのためのデータを提供する新たなFinTech事業
久米村:真ん中の「Business」が、カーボンニュートラルのためのスコアを提供するためのサービスです。左側の「Consumer」に提供するのがオフセットで、右側の「Business」に提供するのがオフセットの機会、いわゆるレコメンドです。
データというのは極めて力強いファクトです。決済やポイント、投資情報に対して「CO2を計算する」というゆるがない情報があるわけなので、これは金融業なのかなと思っています。とはいえ、従来型のFinTech事業ではなく、新しいFinTechをやっているに過ぎません。FinTechを再定義する気持ちで取り組むと、市場機会を見出すことができるんですよね。
我々がカーボンニュートラルなサービスをBtoC企業に提供した結果、顧客のログイン回数が増えて収益が出たり、投資機会が増えるなど経済価値的で説明できる要素が生まれます。「これは金融の新規事業としてアリだぞ」ということが見えてきたのが、この事業のコンセプトになっています。
信澤:「FinTechを再定義する」というのは良い言葉ですね。FinTechすらまだ新しい領域だと思われている方が多いと思いますが、マーケット社会の変化はそれ以上に早くなっている。新しい領域を再定義し、先ほどのメガトレンドやグローバル事と照らし合わせると、チャンスを見いだせる可能性があるということなのですね。
久米村:そうですね。まだちょっと早すぎはしますが、「サステナブルFinTech」という領域が3年後の流行語になっているといいなと思います。
DXとSDGsへの取り組みを阻む壁と突破方法
トレンドを読み、自社のビジネスと結び付け、既存の領域を再定義して新規事業を立ち上げる――。言葉にするのは簡単だが、それでもまだSDGs、あるいはDXを推進する難しさはある。そこでここでは、DX/SDGsに取り組むのが難しい理由、そして突破する方法についても具体的にお伺いした。
久米村:まず採算性が合いませんと言われたときには、パートナーシップ戦略しかありません。ただ投資回収までの期間が長すぎるので、いろいろな企業と組んだ上で、1つの事業ではなく複数の事業を組み合わせる必要があります。
また、「事業の柱にならないかもしれない」とも言われるのですが、それはその通りです。今現在調査しても市場がないし、ターゲットは若者が中心になります。ですがその若者が20年後にはお金を動かす中心になりますし、スマホネイティブ世代の年齢が上がっていけば、当たり前のようにデジタルが市民権を得ることになります。サステナブルも同じように15年遅れて市民権がやってくると思いますから、「顧客価値に若い世代を組み込んでいく」という気持ちでいると、突破できるのではと思います。
VUCA時代の新規事業責任者が大切にするべき3つのポイント
最後に久米村氏からメッセージとしていただいたのが、以下のVUCA時代の新規事業責任者が大切にするべき3つのポイントだ。
久米村:まずカーボンニュートラルというのはSDGsの領域の中で一丁目一番地の領域になると思っているので、一度検討してみてください。儲かるかどうかはわかりませんが、ステークホルダーインパクトは確実にある領域です。
2つめは「早期サステナブル市場に参入せよ」という内容だが、ここについて久米村氏はAppleを例に挙げる。
久米村:サステナブルは、最初にやった企業が非常に有利なんですよね。AppleのHPなんかを見に行くと非常にサステナブルを推していて、2030年には100%カーボンニュートラルにしようと言っています。この会社が他社と比べて時価総額が高いのは、顧客をつかむだけではなく、サプライヤーへの責任を果たしながら、それを軸に新規事業を生み出すというトランスフォーメーションができているからだと思っています。私もAppleを真似したいと思いますし、皆さんにもぜひ世界一を見てほしいですね。
最後の「投資家の視点の変化を理解する」については、「『責任投資原則(PRI)』を10回読み直してほしい」と久米村氏。
久米村:意外とあれが、経営者に対する圧力になっているのではないかとイメージしていただければと思います。いわゆる投資家の圧力が新規事業担当者まで落ちていないとしたら、その企業は相当やばいかもしれません。投資家のニーズを新規事業担当者がいかにして持てるかが重要です。
私はそれを「ステークホルダー資本主義」と言っていますが、ステークホルダー全体を見据えたときに、事業価値が生まれるんです。単にお金を儲けるのではなく、社会的、環境的な価値を見据えてさまざまなステークホルダーを導く事業を作る……これが、3つめの内容としてお伝えしたいことです。
サステナブル時代のデータビジネスの創り方まとめ
今回のウェビナーのポイントを、「すぐに取り組んでほしいこと」として以下の3点にまとめた。
今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。サステナブル時代のデータビジネスの創り方にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。