2人のプロ人材の活躍で物流・営業部門のデジタル化が躍進!~従業員が「変化のメリット」を実感し、意識を向上にまでつながった改革の全容~
無添加調理※で製品づくりを進めていること知られる石井食品株式会社。代表取締役社長執行役員の石井智康氏(以下:石井社長)は、今後の企業成長へのインパクトを考えた物流と営業企画のデジタル改革への着手を考えていました。そんな中、支援を依頼したのが物流DXのプロである川越貴博氏(以下:川越)と、データサイエンティストの木村隆介氏(以下:木村)でした。2部門同時進行で推進したデジタル化の全容に迫ります。
※石井食品での製造過程においては食品添加物を使用しておりません。
Contents
第4創業期を迎える企業として、物流と営業部門でデジタル化に関する課題を抱えていた
創業70年以上の歴史を経て、ビジネスモデルのみならず組織そのものが大きな変革期を迎えていた
株式会社石井食品 代表取締役社長執行役員 石井 智康様
石井社長:当社は70年以上の歴史を持つ、老舗の食品企業です。企業理念は「真(ほんとう)においしいものをつくる~身体にも心にも未来にも~」。我々は変遷する時代の流れの中で生まれる課題に対して挑戦をし続けており、品質管理と素材選び、そして無添加調理を三大原則として掲げています。
現在は会社として第4創業期を迎えていると考えており、ビジネスモデルのみならず組織ごと変革するために、さまざまな取り組みを推進している最中です。
物流システムを使いこなせる人材育成と社内文化の醸成を目指し、物流DXウェビナーを通して知った川越さんに支援を依頼
石井社長:物流というのは、テクノロジーの発達や働き手不足など、外部環境による変化の激しい業界です。当社における物流部門は「ロジスティクス部」、通称ロジと呼んでいるのですが、ロジはあまり社内異動が多い部署ではありませんでした。このため、社内のプロパーメンバーだけで取り回す物流と、外部環境によって変化する物流とでは差が大きくなってしまいます。ここが一番の課題でした。もちろんこれまでも社内物流の変革活動は推進しており一定の成果も上がってはいたのですが、ここをさらに加速させるには、外部からの知見が必要だろうと感じていました。
もうひとつ重要な課題だったのが、人材育成です。変革と同時進行で物流システムのリプレイスを進めていたのですが、大切なのはシステムが変わったときに、システムを使いこなせるチームをどう作るかです。
そんなときに参加したのが、サーキュレーションさん主催で開催されていた、川越さんのウェビナーでした。そこで川越さんは「システムだけを導入しても意味がない、システムを使って改善する文化が必要だ」と語っていて。これはまさにうちがやりたいことだと感じ、個別に相談。参画いただく流れになりました。
専門家に入ってもらうときに大事なのは普段やり取りするマネージャー陣との相性だと思うのですが、川越さんは現場に寄り添ってくれる方だったので、その点でも非常に相性が良さそうだと感じました。
営業がデータを基にPDCAを回せる組織になるには、現場主義のデータサイエンティストである木村さんが適任だと感じた
石井社長:営業側が抱えていた課題は「数値ベースでPDCAを回せない」ということでした。これまではどちらかというと、勢いだけで施策をこなしていく流れが多い状態でしたね。しかし、企業のさまざまな数字を施策につなげ、計画を立てて実行し、その結果どうだったのかという振り返りまでを繰り返さないと、失敗したときに次につながりません。特にコロナ禍においては売上にも大きな影響が出ましたから、これを機にPDCAを加速させなければならないと危機感を抱き、これまでPDCAの枠組みを組んできました。
当社は外部人材の活用をもともと促進していた下地があったため、物流と同様、営業課題を解決するにあたっても外部の知見を借りようと考えました。そこでデータ分析から営業企画立案までをお願いできる方がいないだろうかとサーキュレーションさんにご相談し、ご紹介いただいたのが木村さんです。
木村さんに支援をお願いした理由は大きく2つです。ひとつは、データサイエンティストでありながら、製造現場にも携わっていた経験があること。もうひとつは、木村さんご自身のキャラクターです。支援の条件として「現場のメンバーとの飲み会を許してほしい」と言われたのですが、うちの営業にもメンバーと飲むことで打ち解けることが多い風土だったんです。そんなふうに現場に入っていこうとするマインドを持たれているデータサイエンティストは珍しいとも思い、ご依頼を決めました。
2部門同時進行で支援することになった2人のプロ人材
現場に不足していた情報や引き出しの少なさをカバーすることが自分の役割だと感じた
川越:私はトヨタ自動車の製造現場でさまざまな「カイゼン」活動に従事した経験があり、製造業はもちろんITベンチャーやサービス、食品など、幅広い業界での現場・経営改善に携わってきました。
石井食品さんからのご依頼をいただいたときに受けた印象は、ほかの多くの企業と同様に「社内でしか情報を得られていないな」ということでした。引き出しの量が少ないということです。私どもはさまざまな企業を見ていますから、石井食品さんのメンバーから話を聞いたり現場を見たりしながら、最適解を導き出すことが私の役割になるだろうと考えました。
製品を通じて感じた「会社の魂」に感銘を受け支援を決意
木村:私はもともと日立製作所に在籍しており、工場向けのビッグデータ分析による生産管理や歩留まり改善に貢献してきました。現在は大手サービス業のデータ組織でマネージャーを務めるかたわら、プレイヤーとしてBIツール構築やAI技術開発などにも従事しています。
私は食べることがとても好きなので、普段なら食品業界の案件は、「自分の趣味が仕事になるのはちょっと嫌だな」と考えてをかえってお受けするのをためらいます。しかし実際に石井食品さんの製品を自分で買って食べてみたところ、会社の魂のようなものが籠もっていると感じて、お引き受けさせていただくことにしました。
物流の現場に入り込んでシステムの必然性を伝え、現場がデジタル化を自分ごと化できるように工夫
テクノロジーを活用する現場の従業員自身の意見を吸い上げ、現場発信の要件定義を作り上げた
川越:物流のご支援はまず、社内でどんなプロジェクトが進んでいるのかを把握するところからスタートしました。テクノロジーに関するプロジェクトが走っているということだったのですが、現場からするとどこか他人事のようでしたね。これはまずいと思い、フェーズ1として「現場発信のテクノロジーを活かすための要件定義」を組み立てることにしました。そこからシステムを利用した業務フローを構築し、実際にシステム化するという流れで進めています。
現場にシステムを導入する際に一番重要な視点は、平準化できるかどうかです。ここができないとシステムとしてきちんと機能しないのだということを、実際にシステムを使う現場に理解してもらうことが肝要です。そういう意味で、「ITチームがなぜシステムを導入しようとしているのか」をお伝えしながら支援を進めていきました。
例えばITチームが一番悩んでいたのが、どんなハンディスキャナーを導入するかということでした。そこで現場と連携し、ハンディスキャナーのサンプルデバイスを借りてきて、どれが一番使いやすいか意見を吸い上げたりました。
工場の細かなカイゼン活動の実施とアウトプットスキルのレクチャーを通して、従業員の自発的な取り組みを促進
川越:また、現場のカイゼン活動のサポートも行いました。千葉県の八千代工場では現場のレイアウトを変えて業務プロセスを根本的に変えましたし、京都の京丹波工場では非常に細かいカイゼンを実施しています。例えば資料の一部のペーパーレス化や業務の自動化、本当に細かいところでは「この休憩時間が被っているところをズラしたら、機械を止めなくて済む」といったことまで積み重ねていきました。
カイゼンを実行するだけではなく、アウトプットするスキルについてもレクチャーを行いましたね。トヨタやAmazonには「ワンページャー」という、A4用紙1枚に事柄をまとめて相手に伝えるというフレームワークがあるので、これをご提供させていただきました。
京丹波工場では、私がお伝えした内容を基に「これだけではだめだ」と自分たちで判断し、カイゼンを行った人をどう評価するのかという枠組みまでマネージャーの方と考えてくれて、すごいなと感じました。細かなカイゼン活動で大切なのはモチベーションの維持なので、きちんと評価してもらえる仕組みが上手く行けば、活動がより活発化していくはずです。
石井社長:特に京丹波向上の若手メンバーには「カイゼンをしていこう」という意欲はあってもその引き出しがないので、現場の課題に対していろいろな提案をしてくれるのはありがたいですね。
営業データを収集し、営業マンの業務が楽になる改革をスモールステップでスタート
営業企画のメンバーとともに「確実に営業が便利に使える」デジタル施策を実施
木村:私は営業企画のメンバーの方と一緒に動く、営業の後方支援的立場としてジョインしました。そこでまずは営業企画や現場の営業マンとコミュニケーションを取って、営業に対してできるサポートを考えていきましたね。
そのうちのひとつが、「オンライン版セールス手帳」です。これは、営業マンの心得や店舗企画の考え方、出荷実績データなどが一覧で見られるものです。そこに含まれる要素の中から、まずは小さいけれど絶対に営業が便利に使えるような部分からスタートしました。
例えば店舗の売上が下がったとして、どの程度売上を取り戻すべきなのかという数字を出すには、過去の実績が必要です。そこで、単純に過去の事例を集めて横展開し、営業全員が参照できるような状況を作りました。
分析データを可視化することで営業の現場がデータを活用し、PDCAを回す時間的余裕を確保できるようにした
木村:もうひとつ作ったのが、異常検知システムです。例えば将来の売上計画を立てる際、「昨年は実施されたが今年はやらない企画」なんかがありますよね。そこを無視して昨年の計画をベースに新たな計画を立てると、無理のある内容になってしまいます。ですから、どんな企画がいつ行われたのか、一覧でわかるような仕組みを作ってご提供しました。
営業企画のメンバーと一緒に、分析系のダッシュボードも作成しました。営業マンには意外とバックオフィス系の業務が多いので、分析したデータを常に見られるようにしておくんです。すると時間的に余裕が生まれ、データを基にPDCAを考える方法を教えやすくなります。
カイゼンやデータ活用によるメリットを社員自身が実感できるようになった
相互理解が難しいエンジニアと物流の現場との橋渡しをしてくれたことが何よりありがたい
石井社長:物流における成果は、現場のメンバー自身が「カイゼンによってここまで変わるんだ」と実感できたことですね。私はここ数年、全社的に「小さな失敗をしよう」という価値観と、「前年と同じは原則禁止」というルールを掲げて社員に伝えてきました。支援を通して、特にロジは「そのように行動すると単純に生産効率がアップするし、自分たちも働きやすくなってうれしい」という感覚をつかめたはずです。
また、エンジニアメンバーが本当の意味でロジ側の業務プロセスや課題、あるいは感情といったものを理解するのが難しいと思うのですが、川越さんが上手くそこを橋渡ししてくれて非常にありがたかったですね。目指すゴールに対して今はまだ2、3合目の地点ですが、これからが楽しみです。
木村さんの影響でメンバーが次々とPythonやGoogle Siteを使いこなし、社内のITリテラシーが飛躍的に向上
石井社長:営業がデータを基に報告したりコミュニケーションを取ったりするような取り組みは、木村さんにジョインしていただいたことでかなり進んできたと思います。
また、営業について木村さんに入っていただいて一番ありがたかったのが、若手社員に「データ分析を学べば自分の業務に使える」という意識が身に付いてきたことです。特に、木村さんが支援のついでにPythonを教えてくれたことで、社内にPythonを扱えるメンバーが増えたんですよ。Excelのマクロよりもプログラミングができたほうがビジネス側のキャリアにとって非常に有用ですから、これはうれしい誤算です。
私自身はもともとプログラマーなのですが、社長として「プログラミングを学べと」命じると上手い方向にいかないんですよね。そうではなく、現場として「確かにこれは使える技術だから学びたい」と思ってくれる人が増える必要があるんです。そこを今現在、木村さんがお手本となって見せてくれているのだと思います。実際、社内のSlackでメンバーが「こういうのをPythonで作りました」とアップしてくれることもあり、社内のITリテラシー向上につながっています。
木村:ITリテラシーを上げる必要があると強く感じていたので、メンバーに「僕、こんなの作ってみたけど自分でも作ってみない?」と見せたら、意外とみんなやる気になってくれたんです。執行役員の伊藤さんなんかも、Google Siteを自分で弄り始めていますよ。
石井社長:本当ですか?彼はもともと超アナログ人間だったので、それはすごいです。
デジタル活用の深度を増し、「食品業界の新しいビジネスモデル提案」を実現したい
石井社長:今後の石井食品が目指すのは、地域の生産者の方と一緒に発展していくビジネスモデルです。食品や小売業界、農業はまだまだ発展途上の業界ですから、これまでアナログで蓄積してきたノウハウにデジタルという新しい要素を組み合わせれば、生産者にとっても消費者にとってもうれしいサービスや商品を生み出せるはずです。最終的には、食品業界の新しいビジネスモデルとして提案できるところまで成長したいですね。
当社としてはまだデジタルを活用する前段階ですから、メンバーのITリテラシーやシステムがアップデートされ、いざデジタル活用に挑むことになったとき、川越さんや木村さんに本来の意味で力を発揮していただけるのかなと思います。
川越:私はもともと製造業出身なので、一流企業の生産体制を知ることができて勉強になっています。今回の石井食品さんでのご支援は、私の引き出しをさらに増やしてくれるような経験になりました。ありがとうございます。
木村:「ITを使えばこんなことができる」という発想があるだけで、例えば外部に依頼したりプロダクトを購入したりといろいろな方法が取れるので、今後もそういう発想を得るための支援をできればなと思います。ありがとうございました。
石井社長:最後に、今回サーキュレーションさんには当社の状況や課題をしっかり整理し、マッチング精度を高めた上で人材をご紹介いただけたので、非常に評価しています。また、定期レポートも含めてプロ人材とのコミュニケーションを仲介してくれるのも良い点ですね。軌道修正してほしいことがあれば、すぐにフィードバックして早めに補正ができます。業務委託契約というのは長く続くと惰性になりがちなのですが、今回はプロジェクトベースで期間を設定し、定期的に振り返ることができています。受発注、両方の立場にとって良い仕組みを提供いただいているなと感じますね。
1社で2人のプロ人材がそれぞれプロジェクトを推進し、本格的なデジタル改革に向けた土台をしっかりと築き上げた今回の支援。プロ人材のお二人が口をそろえて語ったのは、石井食品の従業員の皆さんの前向きさや積極性でした。変化の激しい時代を乗り越えるには、会社のメンバー自身が前のめりの姿勢でプロ人材が持つ知見やノウハウを吸収、発展させていくことが肝要なのだと感じました。
本日はお忙しい中、ありがとうございました!
物流改革・営業のデータ活用案件におけるまとめ
課題・概要
物流
今後の企業成長には物流改革が必須であることから業務効率化やコストカットを目指し、社内で取り組みをスタート。少しずつ成果は出ていたが、変化が早い時代の流れに乗り遅れないようにするには、さらに取り組みを加速させる必要性を感じていた。その中で物流変革にはシステムのリプレイスが必要であるという認識があったものの、社内にはITリテラシーが高い人材が不在だったため、人材育成の必要も感じていた。そんな中でアサインされたのが、物流DXのプロである川越さんだった
営業
これまでの営業企画には突発的な戦略が多かったが、今後企業が成長を続けていくために定量的な観点から戦略を立案し、成果を再現できる組織へと変化してほしかった。しかし社内にはデータ分析が可能な人材がいなかったため、データサイエンティストである木村さんがアサインされた
支援内容
物流
- IT戦略部とのシステム要件定義サポート
- 現場のカイゼン活動のサポート
- カイゼンフレームワークの導入
営業
- 社内に散財するデータを集めて、可視化された状態を構築
- 社内ポータルサイト、営業資料の統一、併売分析、異常検知システム等の作成
成果
物流
- 物流(ロジスティクス)部門と工場が連携することで生産性が向上
- カイゼン活動が浸透し、メンバーの士気も向上
営業
- 過去のデータを定量分析してから戦略を立案する組織へと成長
- 社内メンバーがプログラミングスキルを習得し、ITリテラシーが向上
支援のポイント
- 企業のデジタル化は、システムを導入すれば成功するような簡単なものではない。社員がデジタルの可能性を体感し、事業成長に必要不可欠だと実感することが大切。デジタル化を全社が前向きに捉えることができて初めて、デジタル化のスタート地点にたてる。
- 各分野のプロ人材が部門ごとに活躍して、点の支援を線につなげられるのが、サーキュレーションのプロシェアリングの魅力である。
企画編集:花園絵梨香
写真撮影:樋口隆宏(TOKYO TRAIN)
取材協力:株式会社石井食品
※ 本記事はサーキュレーションのプロシェアリングサービスにおけるプロジェクト成功事例です。