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成長ベンチャー社長の右腕のための成長戦略〜プロシェアリングで経営管理・新規事業・M&Aを効率的に進める方法〜

中期経営計画策定
成長ベンチャー社長の右腕のための成長戦略〜プロシェアリングで経営管理・新規事業・M&Aを効率的に進める方法〜

先が読めない時代の中長期経営戦略策定、予実管理等の経営管理、資金調達やコーポレートファイナンス、新しいテクノロジーを活用した新規事業企画、中長期的にシナジーを生み出すようなM&Aの戦略立案に、社長からの特命ミッション。成長ベンチャーの”社長の右腕”と呼ばれるCXO・経営企画のミッションは非常に多岐に渡り、意思決定のスピードや精度と同時に専門性が求められる、極めて難しいポジションです。社長の右腕の皆さまこそ、外部プロ人材を効率的に活用し、経営ステージを上げていきませんか?本イベントでは、特に成長ベンチャーの社長の右腕ポジションの方からのお問い合わせが多い、「経営管理」「新規事業」「M&A」の3領域に絞り、成長企業の事例をお届けします。

井上 伸也氏

井上 伸也氏

リクルート(広告営業/新規事業立ち上げ)→Google Japan(広告企画/事業戦略)→慶應MBA・起業→ミクシィ(経営企画)→ランサーズ(経営企画)→DMM.com(社長室/新規事業開発)→独立。
独立後、経営企画のフリーランスとして、ベンチャー〜上場大手企業の社長や経営企画の右腕として、経営戦略策定・予算策定・経営管理体制強化・IR/ファイナンス・新規事業企画〜リサーチ、特命業務を幅広く支援中。

冨岡 大悟氏

冨岡 大悟氏

KPMG/あずさ監査法人(IPO部)→フロンティア・マネジメント(M&Aアドバイザー/豪駐在にる海外進出支援)→web系ベンチャーのIdeaLink(CFO)→独立、Enlight創業。
現在はベンチャー企業とコンサルティング会社の2社同時経営を行う。動画メディアの株式会社M&A BANKを運営しながら、Enlightにおいてファイナンス(IPO/M&A等)及び経営(戦略/新規事業等)領域のコンサルティングを行う。数社の社外役員を兼務し、直近では社外役員として識学のマザーズ上場に貢献。

井竹 萌

井竹 萌

サーキュレーションのProSharing Community運営担当。本イベントのモデレーター。

今回の3テーマの言葉の定義と関連性の整理

井竹:まず今回なぜ「経営管理」「新規事業」「M&A」という3つのテーマなのか、について、事前にお二人とお話した内容を共有しておきたいのですが、まず企業の成長戦略を語る上で「経営管理」は、どんな成長フェーズにおいても重要な土台という位置付けです。その上で成長戦略に関しては、既存事業のテコ入れやアライアンスなど方法はたくさんありますが、特に多くお問い合わせをいただくのが「新規事業」や「M&A」であることから、この3つのテーマを組み合わせております。

経営管理|フェーズによって異なる定義

井竹:まずは各ワードの共通認識を持つため、お二人に言葉の定義についてお話しいただこうと思います。「経営管理」は特に、各社定義が異なるところだと思いますが、お二人はどう捉えていますか?

井上:私は人事、経営企画、財務、経理、法務、総務が担う業務を広く「経営管理」と捉えています。私自身は予算周りや管理会計など定常業務(スライド参照)領域がバックグラウンドになっています。

経営管理の定義を語る井上 伸也氏

冨岡:上のスライドでいうと、経営管理の定常業務は大企業には当たり前のようにありますが、成長過程の企業にはありません。どんどん新しいプロジェクトが生まれ、プロジェクト業務だったものが、徐々に定常業務になっていく、あるいは二度と行わなくなる、のどちらかと捉えています。

IPOはプロフェッショナルと一緒に進めるのがスタンダード

井竹:冨岡さんはIPOコンサルもやっていらっしゃるので、経営管理の文脈で、IPOについても少しお話しいただいて良いでしょうか。

冨岡:IPOはそれまで個人会社のようなものだったところから大きな組織に成長していくためのプロセスと考えると良いですね。

IPOを大きく項目に分けると資本政策、内部管理体制、経理・決算、証券会社・取引所対応、監査法人対応、コーポレートガバナンスとなりますが、それぞれが非常に業務として重いですし、なかなかとっつきづらいと思います。そして実態としては、全てのプロセスにおいてプロシェアリングの方が出てきてもおかしくないくらい、プロフェッショナルと一緒に進めるのがスタンダードです。社内に経験者がいない場合は特に、IPOチーム組成時にIPO経験がある外部のプロを入れるのは外せないですね。

新規事業|経営戦略との整合性を確認し市場調査をするまでが右腕のミッション

井竹:では「新規事業」については、社長の右腕としての関わり方という意味ではどう捉えていますか?

井上:経営企画が世の中一般的に新規事業の立ち上げを実施するかでいうと会社によって分かれますが、私は関わることが多く、ステップは以下のような感じでした。

井上:経営戦略との整合性のチェックや、市場調査やリサーチまでは経営企画がやっているケースがあると思います。私は個人的にプロダクトマネジメントも好きなので、コンセプト設計やMVP(Minimum Viable Productの略)の開発もPM/新規事業責任者と一緒に推進する場合もあります。そこから先は新規事業の責任者に事業計画の策定を依頼する形でバトンを渡したり、社内での予算獲得をする必要があります。その上で社内承認が取れれば事業化のサポートですね。各社経営企画の関わり方に濃淡はあると思いますが、基本的には立ち上げ手前の市場調査までの企画フェーズを専門的に行うケースが多いのではないでしょうか。

冨岡:ちなみにこの流れで聞きたいのですが、新規事業は誰が最後に責任を取るのが良いのでしょうか?私の経験だと社長がコミットする新規事業の成功率が高いのですが…。

井上:良いご質問ですね。今、サーキュレーションさんからのご紹介で携わっている100名規模の企業様の新規事業立ち上げ案件があるのですが、責任者として社長を置きたいという先方の考え提案に私はノーと言いました。担当者を立てた方が限られた予算と時間で事業を成功させ、売上を伸ばさなければならないというプレッシャーが生まれるのと、事業立ち上げ経験を通して次世代の経営陣育成にもつながります。ただ、そのあたりは使える予算によって変わりますね。よくあるのが社長がやってしまうと予算を多めに取り、明らかに撤退すべき事業進捗なのに延命をしがちになるからです。

新規事業の責任者は社長がいい?担当者がいい?の問いにコメントする井上さん

M&A|CFO直下で進めるのが失敗の典型?

井竹:最後に「M&A」の定義について、冨岡さんお願いします。

冨岡:M&Aについては本当に多くの誤解があるので、言葉の定義をしっかり共有したいと思います。

まず企業提携の中に資本提携と業務提携があり、資本提携における合併や買収がM&Aである、という点についてはほとんどの方が同意すると思います。これが狭義のM&Aです。

さらにもう少し広義のM&Aには、2社が共同で新しく会社を作る合弁会社と、買収ではないが株の5%をもらうといった資本参加があります。M&Aについて話すときは、相手がどんな文脈でM&Aと言っているのかキャッチしなければなりません。

M&Aのプロセスは決まってはいないのですが、凝縮すると以下のようになります。

経営戦略との整合性を確認したら、基本的にプロを交えてM&A戦略を考え、そこに基づいてエグゼキューション、すなわちM&Aを実行に移します。業務としてはここがとにかく重たいですね。最後のPMIというのは買収してから実際にどうやって円滑に会社運営を進めていくのかを決める統合プロセスのことです。

井竹:M&Aは上記プロセスをCFO直下で全て進める印象があるのですが、実際はどうですか?

冨岡:それが一番多くて、一番失敗します。M&Aというのは、例えば新規事業をやるときに自社でやるのか、M&Aをするのかという文脈の中で出てきます。全くファイナンスの領域の話ではないんです。確かにエグゼキューションの中でファイナンスのプロでなければ分からない業務は出てくるのですが、基本的にはビジネスのコアの話です。だからファイナンスやコーポレート部門だけで進めると、ビジネスサイドがPMIを進める段階で上手くいかない。これが失敗の典型中の典型です。

M&Aはビジネスのコア。事業部を交えずCFO直下で進めると失敗しやすい、と冨岡氏

井竹:CFOだけではなく、事業部を交えて進めなければいけないんですね。外部人材を活用するという点ではいかがでしょうか?

冨岡:最初から最後まで入ってもらう必要がありますね。1番最初のステップの「経営戦略との整合性確認」では、経営コンサルや経営者などの経営戦略策定のプロに入ってもらったりします。またFA(M&Aプロジェクト全体をマネジメントする人)とエグゼキューションの中のバリュエーションとDDは、特に能力的に専門家がいないと難しいです。

ここで注意したいのが、最初からM&Aの仲介会社に依頼すると不幸になる可能性があるということです。M&A仲介会社の報酬体系は買収金額の5%といった成功報酬になることが多いので、彼らは「M&Aではなく自分たちで新規事業を立ち上げた方がいいですよ」とは立場的に言いにくいんです。もちろん、成功報酬制であってもクライアントのことを考え支援するアドバイザーもたくさんいますが、そうでないところも残念ながらたくさんあります。ですから誰をアドバイザーとして迎え入れるのかは、かなり慎重になるべきですね。成功報酬に依存しない人という切り口もアリだと思います。

プロ人材が紹介する、3テーマにまつわる事例

経営管理|Fintech企業と識学の事例

Fintech企業の管理会計導入と予実管理体制構築

井上:現在進行形でサポートさせていただいているFintechスタートアップ企業の事例をご紹介します。これは管理会計導入と予実管理体制のリバイスを進めている案件です。管理会計を導入したかった理由には、これまで1製品のみで成長してきたところから、今後は事業を多角化したいからという背景がありました。当時は財務会計しかわからず、どのプロジェクトにいくら費用がかかっているのか、あるいは貢献利益などが見えていない状況だったんです。

そこでまず私はステップ1として、月次決算で上がってくる財務会計の数字を売上高、変動費、限界利益、固定費、営業利益に分けました。

現在はステップ2に移行しており、固定費を個別固定費と共通固定費に分けて事業貢献利益が見えるような状態にまで持ってきています。さらに会社が拡大して事業部がいくつもできるような状態になったら、ステップ3を進めようと思っています。あとは管理会計を運用するために損益分岐点の分析もして、毎月数字が追えるようにもしています。

管理会計の導入と併せて組織体制も変えました。今までは1製品しかなかったので下記のような職能別組織という形を取っていたのですが、2つめの製品が出てきたということでご提案したのがマトリックス型組織です。開発や営業、マーケ、CSをそれぞれの製品ごとに置き、管理会計にも落とし込んでいるという状態です。それぞれ事業責任者を置くことで、事業貢献利益までの責任を明確化しています。

井上:実は管理会計を運用するにはワークフローの整備が非常に重要です。これは多くの会社さんにも通じるポイントです。管理会計は簡単に言うと「取りたい数字をいつでも簡単に取れる状態にしておく」ということが大切なので、この案件では管理部門を中心にオペレーションも見直しています。発注書がきちんと作れていない、請求書が担当者の引き出しにしまわれていて経理の手元にこないといった原始的な状態を改善する。管理部門の総務と経理の役割を定義してあげることですね。

ワークフローまで整備できると、予算策定のときに各製品ラインや事業単位、あとはプロジェクト単位で予算を作ることができるようになります。その後予実管理の高度化をすることが多いですね。毎月きちんとCVPを分析したり、本社費配布後営業利益はどうなっているのだろうかといったことです。現在はスタートして2ヶ月ですが、半年を目処に予実管理体制の構築を進めています。

識学の最速スケジュールでのIPO達成

井竹:では次に経営管理の文脈でのIPO支援事例を冨岡さんからお願いします。

冨岡:はい。日本の会社全体が400万社くらい、上場している会社が4000社くらい、つまり1/1000レベルの経営管理体制を持った会社を作るプロセスがIPOと考えると、IPOも一つの事例になるかなと思い持ってきました。

ご紹介するのは株式会社識学の事例です。IPOをしたいけれど、IPO経験者やファイナンシャルのバックグラウンドを持つ人材が社内にいなかったので、まずは投資銀行出身や元会計士などを採用したいという議論がありました。ただ、採用をしても先方の課題は解決しないと思ったので、まずは社内でIPOプロジェクトを立ち上げてもらうところからスタートしました。

識学さんの特徴は、設立4期目で上場しているのでスピードとしては非常に速かったことです。しかもIPO準備を始めた段階から1日もスケジュールを遅らせずに上場達成しています。ゼロベースのスタートだったので井上さんの事例のように管理会計なども構築したのですが、予実もほとんど外しませんし、利益が10%以上変動することは月次単位ですらまずありません。成長中のベンチャーであるにも関わらずです。

なぜこのような経営管理を実現できたのかといえば、全て評価につながっているからだと感じました。逆に言えば、評価につながらなければどんな体制も有名無実になって機能しなくなります。識学さんの場合は設定されたルールを守らないと機械的に評価が下がり、最悪の場合、個人の報酬が変動してしまうくらいだったので、みんな徹底して取り組んでいました。

また、IPO成功のポイントとしてはタイミングがあったと思います。設立1期目で上場したいという相談が来たので負の遺産が蓄積しておらず、会社の体制を変えるのも楽でした。また2~3年後に最速で上場するという意思決定をしていたことも重要ですね。社内だけでやるより効率的、という理由でプロ人材も大量に使っていました。スケジュールをズラさないこと、その実行力が重なったことで奇跡的速度のIPOと日本でも指折りの経営管理体制の構築が実現したのだと思います。

新規事業|D2C・Fintech・HRtech事業とインキュベーションプログラムの立ち上げ事例

リーンスタートアップライクな新規事業立ち上げ時に意識する3つのフェーズ

井竹:では新規事業の支援事例を井上さんからお願いします。

井上:上場企業のD2CとFintech事業の立ち上げ、また別の未上場企業の副業プラットフォームとHRtech事業の立ち上げ支援に最近関わっていました。リーンスタートアップライクな新規事業の立ち上げは3つのフェーズに区切って支援しています。

井上:フェーズ2と3は企業によって逆になることもありますね。インターネットサービスを立ち上げる企業であればフェーズ2にあるように、とりあえずプロトタイプやモックアップを作り、実際にユーザーテストをして顧客層にデザインや触ってみた印象のフィードバックをもらいながらブラッシュアップをしていきます。フェーズ3は経営企画の職務周りですが、P/Lや事業計画書、決裁者に対するプレゼン資料の作成などを行います。

新規事業の立ち上げで外部人材がどうしても入り込めない部分を挙げるなら、社内の根回しですかね。

社内インキュベーションプログラムの立ち上げ事例

もうひとつ事例としては、社内のインキュベーションプログラムを立ち上げたいというご相談が最近いくつかあります。大企業がやりたい理由としては、今までトップダウンで事業を作ってきたが、そうすると非連続性が生まれない、だから社内からのボトムアップの提案型で新規事業を生み出したい、というところが共通の課題感でした。将来の幹部候補育成のプロセスという裏テーマを持ってやっている会社さんもあります。この場合は、事務局としては経営企画目線で、アイディア出しや市場調査、プロトタイプ製作に事業計画作成まで、いろいろアドバイスをするということをやっています。

こんなことを言うのは恐縮ですが、インキュベーションプログラムが上手くいく会社と上手くいかない会社はすごく明確です。何かというと、ただのアイディアコンテストなのか、それとも本気で新規事業として立ち上げるために経営陣がコミットしているか、その差です。もう一点が、既存のリソースを使えるかどうかなんです。使えない場合、新規事業の立ち上げにすごく時間がかかってしまうとネガティブに捉える経営陣がいました。そうすると、新規事業に取り組むより、既存事業の商品やオペレーションを改善しようという話になり、頓挫します。また受け入れ先を決めることです。新しいアイディアをどこの部門で事業化するのかを決め、バックアップする体制を作っておかないと、立上がらないまま失敗に終わるケースを過去見てきました。

立ち上げ後に事業モデルを変更した事例

冨岡:ちょうどいいので、井上さんがお話したようなインキュベーションプログラムのプロセスを経て晴れて新規事業をスタートした後のフェーズとして典型的な事例をご紹介します。クライアントは大手企業で、3ヶ月で数万円の短期集中型のオンライン&オフラインのコミュニティをスタートしようとしていました。しかし蓋を開けてみたら全く集客できなくて、困り果てていた状況でした。

最初は効果的な集客方法を模索したいという相談だったのですが、個人的な感覚としてこれはいくら広告予算を使っても人が集まらないだろうと思ったので、「そもそも短期集中で数万円を取るモデルをやめ、月額課金モデルに変えませんか」とご提案しました。月5000円でいいから3ヶ月ではなく1年やってもらえるモデルにしましょうということです。

カウンターパートの方は新規事業担当者であって決裁権はなかったので、上長への説明方法も支援しました。担当者やチームメンバーが苦しい立場にならないように配慮もしましたね。「新規事業なんてこんなものです。すでに新規事業としてリリースしているけれど、月額5000円にします、とアナウンスすればいいじゃないですか」と言うのは、やはり新規事業立ち上げ経験が豊富な会社でもない限り、内部の人だけでは絶対にできません。

個人的に新規事業を続けないと会社の成長は無いという意見を持っているのですが、その中で新規事業部や担当者を守ることは大切です。KPIの設定にしても既存事業と同じ設定の仕方をしてしまうのは苦しいです。1年目まではこう、ある程度の規模を越えたらこう、という風に独自に設定しなければいけません。

井竹:社長の右腕にあたる人が新規事業とはなんぞやをよく理解していて、KPIまで配慮できたらベターですね。また、過去に新規事業企画・立ち上げの経験が無い場合は、経験者からリアルな話を聞いた方が、最終的な成功確率やスピードが高まりそうですね。

M&A|リユース事業展開企業と”事業は創って売る”がコンセプトのIdeaLink社の事例

相談して半年後に初のM&A実施に成功したリユース事業展開企業

井竹:次はM&Aの支援事例紹介にいきたいと思います。冨岡さんお願いします。

冨岡:長年リユース事業のみで成長し上場を果たした企業の事例をご紹介します。さすがに成長力が鈍化してきたので何か手を打ちたいということでM&Aを検討したいというご相談でした。

結果としては、相談から半年後に初のM&Aを実施しています。経験上、しっかりした経営判断をした上でこのスピード感でM&Aを行う例はなかなかありませんでしたね。

M&A未経験会社に戦略策定から支援に入り、相談から半年でM&Aを成功させた冨岡氏

なぜここまでスピードで進められたのかというと、毎月2~3回のミーティングに必ず社長、CFO、CMO、経営企画室長が同席していたからです。上場企業でこのチーム編成はなかなかありません。経営陣がコミットした点は大きかったですね。あとは外部のプロ人材を招聘して終わりではなく、自分たちでも積極的にセミナーや勉強会に参加して勉強されていました。その上でこちらがお願いしたことは当然実施し、逆に「こういうことをやった方がいいのではないか」と向こうから提案もしてくれたんです。M&Aを自分ごととして捉えていたからこそのスタンスだと思いますね。

井竹:なるほど。他の成功事例を聞いていても「自分ごと化」は大切な要素のようです。戦略はプロと一緒に考えるけれど、あくまで自分ごととして捉えて取り組むからこそ、自社の強みが生きる施策が生まれますし、専門家の強みをより多く引き出せます。その結果として成功の確度が上がっていくので、主体性はすごく大事ですよね。

冨岡:またM&Aは経験人口が少ないので経験値が属人化してしまいやすい側面があるので、今回は支援しながらプレイブック、いわゆるマニュアルを作成しました。箇条書きでも構わないので毎回徹底的にメモを残すようにしてもらい、いつ誰がどのようなコミュニケーションを誰と取り、どんな疑問が生まれたかといったことを提出してもらったんです。これがあれば、次回のM&A検討時にもどんなタイミングでどんな懸念が生まれるのかがわかり、事前に潰しておけます。今後の会社経営においては、他のオペレーションと同じように誰でもM&Aについて考えられる状態にしなければいけませんし、そもそもいつまでも外部人材に同じ業務をやらせ続けるのは、どこかがうまく行っていないということになります。プロジェクトをどんどんオペレーション化していくためにもプレイブックは必要です。

新規事業を内製で立ち上げるのか?M&Aするのか?

冨岡:あともう一つさらっと事例をお伝えしたいのがIdeaLink株式会社の事例です。「事業は創って売る」という面白いコンセプトを持っていて、ここ3年で10回以上M&Aをしています。これを真似せよということではなく、M&Aは特別なこと、難しいことではなく、人を採用するのと変わらないものだという考え方が今後の経営環境には必要だと思ったのでご紹介します。

最初、IdeaLinkさんは自分たちで作ったフランチャイズ比較サイト運営会社を上場企業に売却したのですが、私が売却を提言した当初は「どうして自分たちで育てた事業を売らなきゃいけないんだ」と怒っていました。でも、結果として1年後には売ったんです。それは想定より成長が鈍化してきたり、ほかにやりたい事業が出てきたというタイミングだったのですが、売ってから社長は「何でもっと早く売らなかったのだろう」と言っていました。これを機に、会社としてM&Aを積極的に活用する経営戦略を取るようになったのです。

例えばヘルスケア事業を立ち上げるために合弁会社を設立したのですが、これは自分たちが持っているアイディアを新規事業にする方法としてM&Aが組み込まれているということです。新規事業をスタートする際に内製するのかM&Aをするのか、選択肢としてM&Aを利用できるくらいになっていたほうがいい、という事例ですね。

これからの時代の成長戦略・社長の右腕に求められるのはラーニングアジリティ

井竹:最後にお二人から、「これからの時代の成長戦略・社長の右腕に求められるものは?」という問いにお答えいただければと思います。

井上:よく言われることですが、今の時代は不確実性が高く、これまで通りのやり方でそのまま上手く続けられる保証はどこにもありません。そして、企業のフェーズによって社長の右腕となる人材は変わってくると思っています。その中で私が常々意識していたのは、ラーニングアジリティという言葉です。環境が変化したときにこれまでのやり方に固執するのではなく、その環境下で自分自身が活躍し続けるために常に学び続ける。今までの成功体験を捨てるとまでは言いませんが、そういう人材が社長の右腕として居続けられるのではないかと思います。

冨岡:令和の時代、当然環境が変わっていくので成長戦略もそれに合わせて変えなければいけません。HR系でいくとまさに副業などの文脈ですね。フラットな目線で見た時に外部のプロや副業も含めいろいろな人の力を総動員して取り組む必要がありますし、実際に世の中もそのように変わってきています。M&Aを積極的に使う話もそうですが、ほかの企業はできていて自分たちだけはできないという状況は避けたほうが良いでしょう。ラーニングアジリティという言葉を私は知りませんでしたが、思うことは井上さんと全く同じで、変化に対応して新しいことを取り入れていくということが大事だと思いますね。

社長の右腕という意味で言うと、能力はもちろんですが一番大事なのは社長を信じて全ての責任を背負うというメンタリティの部分です。同時に、環境の変化を即座に察知して社長に伝えるなり、あるいは最後は止めることもできるのが社長の右腕だと思います。みなさん、今回のイベントに参加されている時点で、すでに相当にラーニングアジリティは高いと思いますが(笑)、常に学び続けて情報をアップデートし、自信を持って取り組むことが大切ですね。

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