成果が上がる人材育成とは?研修の種類やポイントについても解説
どの会社でも人材育成は経営上の重要課題であり、各社こぞって人材育成のための研修を導入しています。研修は人材育成のための大切なツールのひとつではありますが、数多くの研修や施策を実施しても思った通りの研修成果が得られていない、ということはないでしょうか。人材育成研修において成果を出すためには、いくつかの欠かせないポイントがあります。成果を上げるための人材育成研修について、そのポイントを見ていきましょう。
人材育成における研修の目的と設定
会社経営にとって大切な「人・モノ・カネ」。誰もが知っているこの三大要素の一角を為している「人材」の育成は、会社の未来をも担う重要なポイント。まずは人材育成の本来の目的や基本について理解しておきましょう。
人材育成の目的と意味
人材育成の本来の意味とは「社員を経営戦略の実現に貢献し、会社の利益を生む人材に育てること」です。戦力としてのスキルや実務能力を磨くということでは、人材育成における一部でしかありません。責任を持って業務を全うし、組織の一員としての自覚を持ちながら目指しているところへ一緒に向かう、そんな社員たちがやりがいを感じながら会社を動かしていくことで会社は繁栄し、利益を生んでいきます。
また厚生労働省による大卒者の離職率調査によれば、2019年7月現在社会人4年目の社会人のうち、31.8%が3年以内の離職を経験しています。コストも時間もかけて採用した人材の早期離職は、経営にとって大きな損害。若年層の離職理由は「思っていた仕事ではなかった」「社風が合わない」など人それぞれですが、人材研修をしっかりおこない「成長の場と機会がある」と若手が感じる組織であれば、早期離職の防止にもつながるでしょう。
人材育成は単純に人事部だけの問題ではなく、重要な経営戦略として取り組むべき課題なのです。
人材育成に大切な研修設定〜目的を達成するために〜
人材育成において欠かせない、さまざまな研修。研修には「OJT・OFF-JT・自己啓発」という3つの柱があり、それぞれ特徴や目的、得られる効果が異なります。研修設定者がこれらの研修について理解し、育成目的や研修対象メンバーに合わせた研修を設定することが大切です。OJT・OFF-JT・自己啓発について、それぞれの具体的な内容とメリット・デメリットについて見ていきましょう。
OJTとそのメリット・デメリット
多くの企業でおこなわれているOJT(On the Job Training)は、認知度も高く、多くの研修担当者が知っている研修です。広く認知されているOJT研修ですが、一番誤解が多い研修とも言えます。
OJTは「職場の先輩や上司が実際の仕事を通して、部下や後輩に仕事に必要な知識やスキル、技術などの修得を目指し、継続的におこなわれる」研修です。単純に「現場の仕事で覚えさせる」「継続性がない」ものはOJT研修とは言えません。
上司や先輩の指導方法として、主に「Show(やってみせる)」「Tell(説明する)」「Do(やらせてみる)」「Check(評価・指導する)」という4つのサイクルで進めていきます。OJTのメリット・デメリットは次の通りです。
【OJTのメリット】
- 指導される側だけでなく、指導する側のスキルアップも期待できる
- 人為的なこまやかなフォローが可能で、仕事のノウハウを身につけやすい
- 社内の人間関係が構築でき、連帯感やロイヤリティを醸成する
- 先輩や上司という指導者がいることにより、失敗を気にせず業務に安心して取り組める
- コストがかからない
【OJTのデメリット】
- 教育側にそれなりの人数が必要
- 教育側の社員に負担がかかる
- 指導する先輩社員や上司によって部下の成長度合いに差が生じたり、お互いストレスになったりする可能性がある
- 人によって教え方にばらつきが生じる可能性がある
OFF-JTとそのメリット・デメリット
OFF-JTとは、Off The Job Training、つまりOJTに対して職場を離れておこなう研修のことです。OFF-JTは外部・社内での研修やセミナーなどが該当し、MBAなどの経営的思考を養うものからビジネスマナー的な若手社員向けなど、経験やスキル・年齢など階層に応じたさまざまな研修の種類があります。
【OFF-JTのメリット】
- 現場では学びにくい専門知識を習得できる
- 普段接することがない人との交流が可能
- 業務から離れて客観的に自分の仕事を考えることができる
- 外部からの客観的な評価を得ることができる
- 体系的に学ぶことができる
- 教育側の人員が少なくて済む
【OFF-JTのデメリット】
- 外部委託や会場費などコストが高い
- OFF-JTの研修はバラエティに富んでおり、選択が難しい
- 場合によっては実務と連携しない場合もある
OFF-JTの導入にあたっては、育成にあたっての長期的な視点や実務との連携、対象社員のレベルに合った内容を検討することが大切です。
自己啓発のメリットとデメリット
自己啓発は、その名の通り自主的に自分の能力を伸ばそうとするものです。読書のような手軽なものから資格取得・セミナーへの参加から専門学校への通学など、さまざまなものがあります。
【自己啓発のメリット】
- 自発的に学ぶので身になりやすい
- 自由度が高い
- セルフマネジメント能力も養える
【自己啓発のデメリット】
- 社員のモチベーションにより、個人差が出てしまう
- 仕事とかけ離れる内容となる可能性があり、場合によってはそれが転職のきっかけとなる場合がある
優秀でモチベーションが高い社員は進んで自己啓発に努めますが、そうではない社員に、どうやって自己啓発をさせていくかがポイントとなるでしょう。
代表的な人材育成研修例
研修3本柱の具体的な研修内容と例をご紹介しましょう。
OJT (例) |
Show (やってみせる) |
先輩や上司が実演してやって見せる。 | |
Tell (説明する) |
口頭でやってみせた内容を説明して理解させる。「Show」と「Tell」の順が逆になる場合もある。 | ||
Do (やらせてみる) |
部下に実際に仕事などをやらせる。システムへアクセスして作業をする、会議で説明をさせる、営業で実際にトークするなど。 | ||
Check (評価・指導する) |
やらせてみた仕事を評価し、基本的に褒めて仕事へのモチベーションを上げる。失敗しても叱らないで再度、指導する。 | ||
OFF-JT (例) |
新入社員 研修 |
マナー研修 | 社会人としての基本マナーを学ぶ。名刺交換のやり方、お辞儀の角度など。 |
キャリア研修 | 「何のために働くのか」「仕事を通して実現したいこと」など働くための意義を見出し、中長期スパンでのキャリアを考える。 | ||
中堅社員 研修 |
コーチング 研修 |
中堅社員としての役割を理解し、部下の能力を開花させる「教える能力」を鍛える。 | |
管理職 研修 |
リーダーシップ 研修 |
組織を目標達成に導くための具体的な行動やリーダーとしての意識・あり方、組織の生産性の高め方などを学ぶ。 | |
自己啓発 (例) |
読書 | ビジネス書やコミュニケーションスキルアップなどの本を読む。 | |
語学スクール | 英語・中国語など、ビジネスに必要な外国語の習得。 | ||
自己啓発や外部セミナー | セルフブランディング・FP・PCスキルなどを習得。 |
このほかにもさまざまな研修や自己啓発方法があります。自社の状況と経営理念・予算を照らし合わせ、どのような人材育成が自社で必要なのかをしっかり検討して、組み合わせていきましょう。
人材育成研修におけるポイントは?
人材育成において大切なポイントのひとつが、これらの研修3本柱の特徴を理解して研修内容をうまく組み合わせていくことです。組み合わせ方は対象となる社員のキャリア・バックグランドや各企業の経営方針・目指す人材育成方針などによって異なります。
それぞれの研修の特徴・目的について、階層別に掘り下げていきましょう。
新入社員研修
人材育成において、スタートとなる新入社員研修は非常に重要です。学ぶ意欲や吸収力が高いというプラス面だけでなく、壁にぶつかりやすいというマイナス面もあり、新入社員研修が対象者のその後の社会人人生を左右するとも言える大切な研修です。
新入社員研修のポイント
- 社会人・会社を代表する人間としての自覚を持たせること
- 基本のビジネスや社会人としてのマナー習得
- モチベーションアップ
- 即戦力化
- 働く意義を見出させる
新入社員研修のプログラム例
- ビジネスマナー研修
- コミュニケーション研修
- セルフマネジメント研修
- ロジカルシンキング研修
- コンプライアンス研修
- 工場見学
- 半年間のOJT
座学が多いと受講者の集中力が欠けてしまいやすいので、工場見学など外での研修やグループワーク・ゲーム形式などをバランスよく入れることがポイントです。
中堅社員研修
中堅社員は、自分のポジションニングと役割をきちんと理解させることがポイントです。現場スタッフと管理職の間で潤滑油としてうまく立ち回り、組織全体の成果を上げる役割が期待されている中堅社員は、コーチングとフォローの両方の能力が重要であるほか、課題発見能力も求められます。
中堅社員研修のポイント
- 組織での役割を認識
- 若手を指導するコーチングスキルアップ
- 上司のフォロースキルアップ
- 課題発見能力を磨く
中堅社員研修のプログラム例
- コーチングスキルアップ研修
- フォロワーシップ研修
- ワークライフバランス研修
- 残業削減・長時間労働抑制研修
- アドラー心理学研修
- 次世代リーダー研修
管理職(次世代リーダー)研修
管理職に求められるマネジメント能力の醸成を目的とすることはもちろん、近年では特に「リーダーシップ」の醸成が注目されています。現在多くの企業で次世代を担うリーダー層が不足しているという課題を抱えており、産業能率大学「次世代リーダー・グローバル人材の育成に関する実態調査(2017)」によると、各企業の研修予算で次世代リーダー育成に関する予算がもっとも多くなっています。
中堅社員以上の研修は選抜形式になることも多く、30代〜50代が一緒になるなど研修対象者の年齢の幅が広いことも特徴のひとつです。
管理職(次世代リーダー)研修のポイント
- 管理職という立場への理解
- リーダーシップを理解する・身につける
- 部下育成の具体的方法を身に着ける
- 経営理念・経営における管理職の役割を理解する
- マネジメント能力を養う
管理職(次世代リーダー)研修のプログラム例
- 次世代リーダー研修
- 変革型リーダー研修
- ダイバーシティ研修
- 上級管理職研修
- MBA
- インバスケット研修
- 残業削減・長時間労働抑制研修
- 戦略マネジメント研修
- 女性活躍推進研修
- アンガーマネジメント研修
人材育成研修の成果を高めるために
このように人材育成にはさまざまな研修がありますが、同じ研修内容でもその効果は組織や人によって異なります。研修内容の効果を最大限にするために、大切なポイントはどのようなことなのでしょうか。
人材育成研修の流れ
人材育成においては、研修内容と同様に「研修の流れ」を理解し実践することが大切です。下記の図で研修の流れを確認していきましょう。
他のプロジェクトや業務同様、人材育成においてもまずはターゲットを調査・分析し、達成すべきゴール=KPIを設定します。まずKPI設定に基づき、ゴールを達成するための研修内容を検討し実践します。そして一通り研修が終ったら効果測定など検証をおこない、必要があれば改善策を講じて次の研修へとつなげていきます。
人材育成における研修の効果をあげるために、ゴール設定からの検討・実践、そして検証・改善というPDCAのサイクルは必要不可欠なポイントと言えるでしょう。
研修成果は受講前の準備と受講後の対応で8割決まる
研修の成果をあげるためにもう一つ大切なポイントは、研修を受講する側の準備です。ウェストミシガン大学のロバート・ブリンカーホフ教授の「ハイ・インパクト・ラーニング・プロセス」によれば、研修が失敗する原因は「4(研修前):2(研修):4(研修後)」という割合だとされています。まず研修の効果が上がらない理由の40%が受講者側による研修前の準備や知識不足によるもので、同様に効果測定不足や未検証など研修後に研修成果があげられないという理由が40%です。つまり研修内容そのものに問題があるケースはたった20%ということになります。
小見出 研修の「仕組み化」が効果を最大限にする
このように研修の成果を挙げるためには「研修前」「研修後」が重要であることを理解し、人材育成における研修を仕組み化していくことが大切です。
【研修前の仕組み化すべきポイント】
- ゴール設定(いつまでに、どうなっているべきか)
- ゴール達成のための受講計画
- 運用ルール策定
- 研修対象者への受講理由の明確化
- 必要な最低限の事前知識や意識の刷り込み
【研修後の仕組み化すべきポイント】
- 研修内容の振り返り
- 対象者の理解度チェック
- 現場で活かされているかどうかのチェック
- 運用ルールなどの振り返り
- 改善点の検討
これらはあくまで一例ですが、このような研修前後のポイントを仕組み化することにより、研修はより効果的になものになるのです。
研修には測定可能なゴール設定を
研修の成果をあげるために大切なゴール設定は、測定可能なものでなければ意味がありません。売り上げ上昇やコスト・残業時間削減など数字でわかりやすいものから、仕事の効率化度合いや社員のモチベーションなど測定可能なゴール設定を行い、検証をして振り返りをしていくことが大切です。振り返りをおこなうことで、組織として強化すべきポイントや改善すべきポイントが見えてくるはずです。
また検証をおこない問題がないと思われる場合でも、毎年対象者は異なります。時代とともに変わる対象者の微妙な変化にも対応し、研修内容も進化し続けることが強い組織を作る人材育成のポイントのひとつと言えるでしょう。
新しい人材育成研修と実例で見る効果
一口に人材育成と言っても、課題や風土はそれぞれの組織で異なります。企業の課題に応じた、ユニークな人材育成の実例をご紹介しましょう。
【富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ】ミドルマネジメント層に対する五感研修
8割が技術者・2割がスタッフ職と営業職である富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ。技術の進歩や環境の変化が早いシステム業界において、技術者の学び続ける姿勢が重要と考えている同社では、「自ら学び続けられる人材を育てる」ことを人材育成の柱にしています。
そんな同社でミドル層の社員に取り入れているユニークな研修が「森林体験による五感研修」。五感を研ぎ澄ましながら森林を歩くといういつもとは異なった環境に身を置くことによって、「普段は考えもしないことに気づく」という点にポイントが置かれています。
この研修はModule1から5までに分かれている全体の研修内容のうち、Module3の「6.TIME FOREST Program」に含まれるプログラム内容です。自然の中で自分と向き合いながら気づきを得るという体験により、実際の業務でも「これまで気がつかなかったことに気がつく」「物事の見方が多様になった」と一定の手応えを感じる社員の声が寄せられています。
【LIFLE】社員が自発的講師を務めるLIFLE大学で主体性を醸成
掲載物件数No.1の不動産・住宅情報サイト「LIFULLHOME’S」を運営するLIFLE。社名のLIFULLとは「LIFE(暮らし、人生)」と「FULL(満たす)」を意味し、あらゆる人の暮らしや人生を満たすサービスを届けたいという想いが込められています。そんな同社の社是「利他主義」を元に、「常に革進することで、より多くの人々が心からの『安心』と『喜び』を得られる社会の仕組みを創る」という経営理念を掲げています。
そんな同社社是である利他主義を体現しているユニークな人材育成のひとつが、社員が講師を務める「LIFLE大学」です。LIFLE大学には「ビジネス」「営業」「ものづくり」の3つの学部があり、これらのなかには社長が直々に塾長を務める「経営塾」や、社員が講師を務める各種選択講座が用意されています。学びたい社員はもちろん、講師となる社員も改めて学びなおす良い機会となっており、双方に良い相乗効果があるほか、社内コミュニケーション活性化にも繋がっています。
【国際自動車】ホスピタリティを生むウォーキング新入社員研修
同社の新入社員研修を紹介。連帯感やホスピタリティの醸成という明確なゴールを設定していることを説明
参考
- https://hrd.php.co.jp/shainkyouiku/cat21/post-698.php
- http://kenshu.jaic-manabi.com/column/what-is-pdca-cycle/
- https://corporate-learning.jp/development-pdca
- https://www.insource.co.jp/contents/hr-contents.html
- https://www.attax.co.jp/service/human/ikusei/
- https://gurujobvr.com/
- https://www.learningagency.co.jp/column_report/column/hrd_column_55_171201.html
- https://seleck.cc/hr_development
- https://www.e-sanro.net/jirei/organization/e1806-144.html
- https://www.e-sanro.net/jirei/organization/e1804-137.html