新規事業開発の成功例/失敗例に共通する要因とは?
新規事業開発を成功に導く根本的な要因は、「競争相手のいない市場に顧客のニーズとマッチしたモノを供給すること」と「計画的に管理し実行すること」の二つです。
ニーズというのは、既に顕在化しているものだけにとどまらず、潜在的に存在するものや今後顕在化することが見込まれるものも含まれます。
企業が計画的に管理できるプロセスの中で売れる理由のあるモノを市場に供給することで、新規事業開発を成功に導くことができるのです。
Contents
企業としての活動の中で新規事業開発が必要となる理由とは
ライフサイクルの短縮化
時代の移り変わりや世の中の構造の変化により、企業の経営を取り巻く環境は常に変化をしています。それに伴い、製品やサービスに対する需要や、市場内での自社の位置づけも変化します。製品やサービスには、必ずライフサイクルがあります。
市場に参入した後、市場内での認知度や需要が高まり、やがて成熟期を迎え、いつかは衰退していくという道筋をたどるのですが、現代社会においては、製品やサービスのライフサイクルが短期化する傾向にあります。その主な理由となるものが、インターネットと経済のグローバル化の進展にあります。
それが、消費者ニーズの多様化や膨大な情報が早い速度で世の中に広まる情報化社会の到来という結果を招き、既存の製品やサービスが陳腐化する速度を速めています。同業種間での競合に止まらず異業種間での競合が激化していることも、そのことに拍車をかけています。
新規事業開発へのチャレンジ
企業は、土俵の真ん中で相撲を取れるビジネスを持ち続けていないと衰退していきます。衰退を防ぐために、既存の製品やサービスの市場における状況に注意を払いながらタイミング良く新規事業開発にチャレンジする姿勢を持ち続ける必要があるのです。
新規事業の成功につながる要因と失敗につながる要因
新規事業には、それぞれ成功や失敗につながる共通的な要因があります。
新規事業の成功につながる五つの要因
新規事業の成功につながる共通的な要因として挙げることのできるのは、次の五つです。
- 時代の変化にあった内容であること
- 競争相手のいない市場であること
- ターゲットが明確であること
- 売れる理由が明らかであること
- 継続的に取り組む体制が整っていること
時代の変化にあった内容であること
時代の移り変わりにより、消費者が求めるモノや価値観は変化していきます。 また、あることをきっかけにして需要が急速に拡大することもあります。企業が行う新規事業開発に関しては、今後の需要が確実に見込めるものでなければ、市場への参入に成功したとしても良い結果には結びつきません。
今の時代にあった需要とは何なのか、今後拡大する需要とは何なのかということを読み取ったうえで、それに見合う新たなビジネスを展開することが重要なのです。
競争相手のいない市場であること
需要のあることが確実であったとしても、競争相手がたくさんいる市場では、成功させることは容易ではありません。競争相手よりも優れた内容を実現させたうえで、そのことを市場にアピールし、買ってもらえるための仕掛けを作らなければならないからです。競争相手が多いと、価格競争に巻き込まれることもあります。
そういう意味でも、競争相手のいない市場、すなわちブルーオーシャンを目指すことが必要です。
ターゲットが明確であること
競争相手のいない市場を見つけるためには、ターゲットを明確にすることが効果的です。
例えば、あるサービスに関して、女性が総体的に持つ需要を対象にしてしまうと競争相手がたくさん出現しますが、女性の中でも特定の趣味や嗜好、年代、ライフスタイルに標準を合わせることで、結果的にターゲットに対する想定競合があぶり出され、競合の少ない市場を見つけ出すことが容易になります。ターゲットとなる顧客の姿を明らかにすれば、市場への参入後に製品・サービスの需要を喚起する手段を明確にする効果もあります。
反面、ターゲットとなる顧客の姿が明らかになっていないと、市場参入後の対応の方向性が定まらず、必要としている相手の需要を刺激できない可能性が高くなります。
売れる仕組みを構築すること
ターゲットとなる顧客の姿を明らかにしたうえで、市場に参入した製品やサービスをターゲット顧客の手元に届きやすくする、すなわち手に入れやすくする仕組みを整えることが、市場参入後の事業の成長につながります。
つまり、売れる仕組みを構築するということです。
市場に参入した製品やサービスを必要としている顧客がいたとしても、手に入れにくい要因が存在すると購入者は増えません。そうならないために、製品やサービスの供給方法や価格、その他供給に関する環境の最適化を図る必要があるのです。
継続的に取り組む体制が整っていること
ターゲット顧客に売れる仕組みを構築したうえで市場に参入した当初は成功を収めたとしても、その後何も手を打たずにいると、すぐに陰りを迎えてしまいます。類似のモノが出回ることで顧客を奪われ、あるいは顧客が飽きることで自社の製品やサービスから離れていくからです。
対策として、ターゲットの動向やニーズの些細な変化にいち早く気づき、素早い意思決定と改善活動により、細かなニーズの変化に対応し続けることが求められます。
市場参入後の市場の反応を的確に把握したうえで、改良すべきことは改良し付加価値を高めていくなど、顧客の満足度を高め顧客を囲い込む努力が必要となります。
新規事業の失敗につながる五つの要因
世の中には、新規事業の失敗事案が山ほどあります。失敗を招いた原因は様々なのですが、中でも新規事業の失敗につながる共通的な要因として、次の五つを挙げることができます。
- 情熱を維持できない
- タイミングを逃す
- 事前準備の不足
- 経験の不足
- 資金の不足
情熱を維持できない
新規事業は、短期間では結果は生まれません。市場に参入した後に、認知度を高め、市場内での反応を見据えながら改良を重ねていくことで事業としての成長期を迎えることができるのですが、経験がない分、既存事業よりも結果が出るのに時間がかかってしまうのです。取り組む側の気持ちが萎えてしまうことが原因で新規事業が行き詰ってしまうケースが少なくありません。
モチベーションの低下が事業の成長を阻害させないためにも、小さな目標を設定し、その目標を短期間でクリアーした後に別の小さな目標を設定し、それを短期間でクリアーしていく、といったことを繰り返すというような、情熱を維持し続けられる事業への取り組み方を考える必要があるのです。
タイミングを逃す
良いアイデアが浮かんだのにも拘らず、新規事業としての取り組みをスタートさせるまでの間に時間がかかり、気がついたら競合他社に先んじられてしまっていたというケースが少なくありません。事業として取り組むのであれば、リスクを充分に検証した上で必要な体制を構築する必要があります。
リスク判断と体制構築は慎重に行うべきものですが、スピードも重要です。自社と同様、競合他社も生き残りをかけて新規事業を模索しており、自社が考えたアイデアは、当然のように競合他社も考えていることを認識する必要があります。
よって、新規事業として取り組むことを決意したのであれば、市場に参入する時期を明確にしたうえで、明確な期限を設けてリスクの検証や体制の構築に臨む必要があります。
リスク検討や社内体制の構築と同時並行で市場に参入する方法もあります。その方法とは、必要最低限の製品・サービスで競争相手のいない市場に参入し、その後に本格的な参入を果たすことです。このようにすれば、タイミングを逃すという失敗を回避することができます。
事前準備の不足
新規事業に関しては、事前準備も重要です。事業を取り巻く環境や市場、自社に対する分析を行い、ターゲット顧客への効果的なアプローチや売れる理由を考えるための情報を収集し、市場参入後にスムーズに取り組みを進めていくための体制を整えていく必要があります。
しかし現実は、そのための準備が不足していたことが原因で、市場への参入後に想定していなかった事態が頻発し、混乱を極めることで新規事業が行き詰ってしまうケースが少なくありません。
必要以上に事前準備に時間を費やしてしまうことはタイミングを逃すことにもつながりかねないのですが、時間の許す範囲で充分な事前準備を行う必要もあるのです。
経験の不足
新規事業には、過去の経験則を活かすことができないケースが多いです。市場の構造やターゲット顧客の購買に関する特性に関して十分な理解を有さない状態で市場に参入することが多いのです。
既存事業の延長線上で市場に参入する場合はある程度のことを想定しながら取り組みを進めていくことができますが、まったくの新規事業の場合は手探り状態のもとで取り組みを進めていくことになります。そのような中、事業としてのノウハウが足りなさすぎることが原因で新規事業が行き詰ってしまうケースが少なくありません。
まったくの畑違いな新規事業に取り組む場合は、参入する業界とつながりのある他社との連携や、業界のことをよく知るプロ人材に相談するなど、外部の資源を有効に活用することも視野に入れる必要があります。
資金の不足
前述した通り、新規事業は短期間で結果が生まれるものではないため、利益の出ない状態が長く続くことが想定されます。そのような中、資金不足に陥り新規事業が行き詰ってしまうケースが少なくありません。
ニーズが間違いなくあり、ターゲットにすべき顧客の存在も明確であり、売れる理由もあるのに、資金が足りなくなり、後ろ髪を引かれる思いで撤退した事案も少なくはないのです。取り組みがスムーズに進まないことを想定した上で、利益の出ない状態が長く続いても会社の体力を維持することのできる資金計画を立て、確実に資金を調達できる先を確保した上でスタートすることが重要なのです。
新規事業成功事例の解説
過去の新規事業の成功事例に関して、成功に導いたポイントとなる内容を、第2章で解説した五つの共通的な要因に基づいて解説します。
事例Ⅰ(株式会社スープストックトーキョーの食べるスープの専門店)
新規事業の概要
大手総合商社の三菱商事の外食サービス事業部門が、1999年に、新規事業として食べるスープの専門店を運営する会社を立ち上げました。
その当時は、女性が一人で気軽に入れるようなファストフード店が世の中にはなく、安心、安全で美味しい食事をゆっくりと食べることができることで、働く女性が自分の「居場所」として共感できる場所が必要とされているのではないかと事業の担当者は考え、次のような店舗を展開しました。
- スープを、メイン料理に添える「おまけ」としてではなく、メインにした食事のメニューを提供する
- カロリーや栄養価を表示し無添加素材へこだわることで、女性への心配りを全面的にアピールする
- 白を基調とした内装を施し、おしゃれで清潔感漂う雰囲気を実現することで、女性にとって心地よい空間を演出する
そのことが女性から支持され、市場参入直後より女性の利用客が増え、今では全国に60店舗以上を展開するまでに成長しました。
参考元;https://www.soup-stock-tokyo.com/
新規事業の成功ポイント
この事例を成功に導いたポイントは、以下の通りです。
- 時代の変化にあった内容であること
→ヘルシー志向を強める女性のハートをつかんだ
- 競争相手のいない市場であること
→スープをメインにした食事のメニューを提供する飲食店が当時の世の中には存在しなかった(強力なライバルとなりうる飲食店が存在しなかった)
- ターゲットが明確であること
→安心、安全で美味しい食事をゆっくりと食べられる店を自分の居場所にしたい働く女性をターゲットにした
- 売れる仕組みを構築したこと
→安心、安全(低カロリー、高栄養価、無添加食材)で飽きのこない(味や食材の異なる200種類以上のスープを開発)を、公共交通機関の主要駅に直結した店舗で、手ごろな価格で食べられるようにした
- 継続的に取り組む体制が整っていること
→顧客の反応を確認しながら顧客に喜ばれる新メニューの開発を続けられるよう、社内の体制を構築した
事例Ⅱ(株式会社助太刀の建築現場と職人をマッチングするアプリ助太刀)
新規事業の概要
建設業で15年のキャリアを持つ社長が率いるITベンチャー企業が、2017年12月に、新規事業として建築現場と職人をマッチングするアプリの利用サービスを開始しました。
その当時は、建設現場で働く職人が住居から遠く離れた他府県の現場に出向くといった合理的ではない働き方が一般的であり、人手不足に陥る現場の近くに仕事にあぶれた職人が住んでいるというような事態が日常的に起こっていたため、職人が使いやすいマッチングアプリがあればそのような不合理が解消され建設業界の発展に貢献できるのではないかと考えた社長が、次のような機能を持つアプリを開発しました。
- 職種と居住地を登録するだけで応援を求める現場が紹介される
- 仕事の報酬も全国のセブン銀行ATMからその日のうちに引き出せる
- メッセンジャーでの会話機能や受発注者双方の評価システムを導入することでマッチングの質を向上させる
アプリの利便性が職人や工事の施工業者から支持され、サービス開始から10カ月後に利用ユーザーが28,000を突破するまでに成長しました。
新規事業の成功ポイント
この事例を成功に導いたポイントは、以下の通りです。
- 時代の変化にあった内容であること
→2020年の東京オリンピックを控えて建設市場が拡大している
- 競争相手のいない市場であること
→インターネットの活用が遅れている建設業界では、現場と職人のマッチングサービスがなかった
- ターゲットが明確であること
→報酬の即日支払いを希望する(建設業界の慣習で報酬の支払いが1ヵ月以上遅れることが日常的であった)職人と、確実に作業者を確保したい(人手不足の解消)工事施工業者をターゲットにした
- 売れる仕組みを構築したこと
→職種と居住地を登録するだけで応援を求める現場が紹介され、人手不足という工事施工業者の課題と仕事にあぶれるという職人の課題が同時に解消される
→機能がシンプルで文字も読みやすく職人にとって使いやすいサービスである
→アプリを通じて近くにいる職人と簡単にコンタクトを取ることができ工事施工業者にとって利便性の高いサービスである
- 継続的に取り組む体制が整っていること
→顧客の反応を確認しながら機能の改良に取り組むための資金調達や社内体制の構築を行った