【DeNA常務執行役員が語る】エンジニア採用者数3倍以上の成功ポイント
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
新型コロナウイルスの影響により、IT業界の人材不足はさらに深刻化しています。求人倍率は2022年末に15.8倍とされており、IT人材の需給はアンバランスな状況が続いています。
そこで今回のウェビナーでは、DeNA常務執行役員の小林篤氏をお招きし、エンジニア採用者数を3倍以上に引き上げた事例を中心に、企業の知名度に関係なくエンジニア採用市場を勝ち抜くポイントについてご解説いただきました。
参考:
加速するIT人材不足‐採用難の背景に潜むコロナ禍の影響やDXの波
※本ウェビナーのホワイトペーパー無料ダウンロードはこちらからできます。
小林 篤
株式会社ディー・エヌ・エー 常務執行役員
法学部法律学科からエンジニアへ転身し、2011年にDeNAに入社。Mobageおよび協業プラットフォームの大規模システム開発、オートモーティブ事業本部の開発責任者を歴任。2019年より常務執行役員 兼 CTOとしてDeNAのエンジニアリングの統括に従事、2022年10月から常務執行役員 メディカル事業本部 副本部長 兼 技術統括部 統括部長を務める。
樋口 達也
株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部マネジャー
金融コンサルティング企業を経て、サーキュレーションへ入社。製造業界を担当するセクションの責任者を務め、自らもB2Cのコマース領域を中心にプロシェアリングコンサルタントとして、100件以上のプロジェクトを担当。特に、(株)ユーグレナグループのD2C企業への支援では、経営者の戦略パートナーとして、社員ゼロ30名全員が業務委託のプロ人材という革新的な経営スタイルの実現に貢献。
板垣 和水
イベント企画・記事編集
慶應義塾大学在籍中にITベンチャーでのインターンに2年間従事。オウンドメディアのSEOやチームマネジメント、100本以上の記事ディレクション/ライティングに携わる。卒業後サーキュレーションに入社し、プロ人材の経験知見のアセスメント業務とコンテンツマーケターとしてオンラインイベントの企画〜運営を推進。
※プロフィール情報は2023/10/25時点のものになります。
Contents
コロナ禍でさらに加速したIT人材/エンジニアの人材不足の現状
ITニーズの拡大により、日本は深刻なIT人材不足に直面している。経済産業省の資料(※)によると、2030年には約40~80万人が不足すると見られており、すでに約8割の企業がエンジニア不足を実感している。
参考:
(IT人材育成の状況等について)/経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課
さらに、2020年頃からは新型コロナウイルスの影響で、人材需給のアンバランスさに拍車がかかった。非接触サービスなどのDX化が注目され、多くの業界でシステムの設計者や開発者、運用者が求められたためだ。
仮に運よく応募者が集まったとしても、即戦力になるかは別の話である。採用基準を満たす人材を見つけるハードルは高く、応募者の半数程度しか採用をしていない企業も多い。
参考:
【1,013名アンケート調査/ITエンジニアは人材不足ではない!?】エンジニア採用責任者の9割が口を揃える本音/PRTIMES,ITエンジニア不足は過去最悪水準に、SIerを取り巻く危機の構図
DeNAの採用事例
IT人材/エンジニア不足を乗り越えて成長してきた企業は、どのような採用戦略を採ってきたのだろうか。ここからは数々のITプロジェクトに参画した小林氏に、DeNAでの採用事例を伺った。
まずは、DeNAが抱えていた課題と改革の実績を紹介しよう。
新卒エンジニア採用が4ヵ年戦略で年間採用者数3倍以上に
小林:DeNAは学生さんによく知られた企業でしたが、採用自体はあるときを境にうまくいかなくなりました。欲しい人材をなかなか取れなくなり、2016~2017年の採用人数は年間10名ほどでした。
DeNAのような有名企業であっても、IT人材/エンジニア不足には悩んでいたようだ。この状況を受けて、DeNAは小林氏を主導とした「4ヵ年戦略」を策定・実行し、新卒エンジニアの採用者数を3倍以上にまで増加させた。
中途エンジニア採用はわずか1年半で5倍の開発規模に
小林:私自身はオートモーティブの戦略としてやりたいことが多数ありましたが、実務を担うエンジニアが10名程度しかおりませんでした。また、会社全体で多角化を進めているタイミングでしたので、社内異動も難しかったです。
人材不足を実感した小林氏は、自らが現場に加わる形で中途採用を進めてきた。その積極性が功を奏し、開発組織はわずか1年半で50名規模へと膨らんだ。
DeNAのエンジニア採用を改革した3つのステップ
小林氏がDeNAで実践してきた改革は、以下のステップに分けられる。
【Step.1】課題の特定
人材不足に直面している企業は、採用自体を目的にしてしまうことがある。採用のゴールはあくまで事業やプロジェクトの達成であるため、小林氏は「課題の特定」から取り組んだと語っている。
小林:採用戦略は、自社の課題に対して的確な施策を打ち込まないと空回りします。何がうまくいっていないのか、どの目的にどのような計画を立てれば良いのか、エージェントにどういった情報を伝えれば良いのかなど、トータルで分析することが重要です。
小林:新卒者は採用時期が決まっているため、プロジェクトとの時間軸が合いません。ですので、会社を強くするために「どういう役割を増やせば良いのか」という視点で取り組んできました。
もちろん一気に進められるものではありませんが、中長期でのコミットメントを意識して、会社の方向性をしっかりと見据えることが大切です。
樋口:採用だけではなく、キャリアプランまで考える必要があるということでしょうか。
小林:そうですね。
中途採用については、事業に対する組織構成やケイパビリティ(能力・才能)をイメージしました。プロジェクト全体を見ながら、どういう優先順位で誰を採用していくのかを決めることが重要ですね。
採用戦略は時間がかかるからこそ、初めに会社が進むべき方向性を明確にし、優先順位づけをする必要がある。万全な体制を整えておくことで良い人材が良い人材を呼び寄せる好循環も生まれやすい。
【Step.2】事業戦略に紐付けた採用戦略の策定
採用戦略をどんぶり勘定で考えると、後々大きなトラブルやリスクを抱えてしまう。失敗を防ぐステップとして、次は「事業戦略との紐付け」について伺った。
小林:あくまでプロジェクトを達成し事業を成長させていくための採用なので、事業戦略との紐づけは欠かせません。例えば、収益化やローンチなどのマイルストーン(中間目標)を意識して、それを達成するための現状分析や戦略策定をしないと、採用するフェーズを間違えるといった弊害が起こります。
樋口:採用戦略の策定時に気をつけることはあるのでしょうか。
小林:無尽蔵に予算があるわけではないので、採用フィーがかさむと目標の人員を確保できなくなります。また、実際に事業戦略と採用戦略を紐付けることは簡単ではありません。
ある程度はどんぶり勘定の部分も出てきますので、“おそらく”を積み上げる中で「なぜそうなるのか?」を深堀りすることが必要でした。そもそも人材がいるのかといった市場感も意識しながら、戦略と現状をチューニングすることが大切です。
【Step.3】関係者の巻き込み
小林氏によると、採用戦略ではあらゆる関係者を巻き込むことがポイントになる。「採用は人事の仕事」と思われがちだが、戦略全体で見ると様々な人物が関わるためだ。
小林:すべての関係者が同じゴール設定をして、一緒に進めていける体制になると、採用をより効率的に進められます。部署ごとに目標が変わると、例えば人事部が候補者を挙げたとしても、事業部での不採用が増えてしまいます。
プロジェクトの責任者や事業部メンバーはもちろん、必要に応じて外部のパートナーも巻き込みたいところですね。
巻き込む範囲を広げるほど責任者の負担は増えるが、単に指示を出すだけでは現場との意思疎通は難しい。そのため、小林氏は強いリーダーシップを発揮しながら、自身も多くの面接を担当してきたと語っている。
エンジニア採用を成功させる「知名度以外の」3つのポイント
DeNAのような知名度を持たない企業は、何を意識してエンジニア採用に取り組めば良いのだろうか。小林氏によると、エンジニア採用では次の3つがポイントになる。
ここからは各ポイントに分けて、実際の進め方を解説して頂いた。
【Point.1】採用戦略
小林氏曰く、採用戦略は”中長期の事業戦略”をベースに考える必要がある。
小林:そもそも事業計画がないと、どういう人材を採用すべきか、本当に投資すべきかが分からなくなります。事業を成功に導く組織をイメージし、そこから逆算して採用戦略を考えることが必要です。
採用戦略の策定について、小林氏の考え方をまとめたものが以下のスライドだ。
樋口:未来の解像度が高くないと、プロジェクト毎のタイムラインを俯瞰したり、必要なケイパビリティを可視化したりすることは難しそうですね。
小林:いきなり100%の事業計画は難しいので、まずは「おそらくこうだろう」と思われるものを考えます。その計画を広い目や狭い目で分析して、徐々にチューニングをしながら解像度を高めていきました。
【Point.2】言語化
採用戦略の質を高めるコツとして、小林氏は「求める人物像」と「アトラクトポイント」の言語化も挙げている。アトラクトポイントとは、求職者が企業の話を直接聞いたときに、「こんな会社で働きたい」「面白そうな会社だ」と感じる魅力のことだ。
求職者はウェブページや資料だけではなく、社内の雰囲気や文化、プロジェクトへの情熱などからも企業の良し悪しを判断する。そのため、企業側は自社で何ができるか(How)を伝えがちだが、小林氏は”何を目指すのか(What)”を伝えることが重要と語っている。
参考:
アトラクトポイント
小林:候補者を見ると、ネクストキャリアで何を実現できて、どのような充足感があって、世の中にどういう影響を与えられるのかを考えている方が多いです。そのような方にHowのお話をしても、あんまり刺さらないんですよね。
ですので、私は「なぜこのチームを作って」「どこを目指しているのか」というストーリーを語ります。自分もワクワクしながらアトラクトポイントを伝えると、聞いている方の目が変わってくると思います。
【Point.3】巻き込み力
小林氏によると、採用戦略の責任者には周りを巻き込む力も求められる。中でも成功を大きく左右するのは、人事部と事業部の連携体制だろう。
小林:採用活動は何らかの事業を達成するために行いますが、なぜか事業部側は採用にコミットが不足しがちです。本来は事業部のメンバーこそ「こういう人が必要だ」と人事部に伝えて、うまく連携を取ることが望ましいです。
また、エンジニアは一緒に働く人を選びたがる性質があります。ですので、事業部が選考の現場に立つことで、候補者側も判断しやすくなると思います。
様々な部署が関わる新卒採用では、さらに細かい認識のすり合わせが必要になるようだ。事業やプロジェクトの状況に合わせて、毎年決まった時期にキックオフミーティングなどを実施すると、要件のズレを修正しやすくなる。
エンジニア採用のポイントまとめ
今回のウェビナーのポイントをまとめると、以下のようになる。
※今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含めこちらからDLできます。
エンジニア採用の強化にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。