えるぼしとは?認定基準や取得メリット、くるみんとの比較まで徹底解説
「えるぼし」認定は、女性の活躍を推進する状況などが、厚労省に優良と認定された企業が取得できるものです。えるぼし認定の取得を検討している企業の総務・人事担当者や就職活動中の女性などに向けて、えるぼしの概要や事例、メリット、申請方法などを解説していきます。
「えるぼし」とは何か?
「えるぼし」とは、厚生労働大臣による女性の活躍推進の状況などが優良な企業の認定制度の認定マークの愛称で、制度自体もえるぼしと呼ばれています。認定マークは、「L」が描かれた円の上に「星」が輝いているデザインです。「L」には、女性の「Lady」や働くを意味する「Labor」の他、手本の「Lead」、称賛に値するという意味の「Laudable」といった意味があり、『エレガントに力強く働く女性をイメージ』したものとなっています。「円」は、企業や社会が表されています。
女性活躍推進法から生まれた「えるぼし」
えるぼしは、2016年に施行された「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(略称:女性活躍推進法)」にもとづいて誕生した制度です。女性活躍推進法は、女性が希望する形で個性や能力を活かして働くことができる社会を目指していくために制定され、2022年に改訂がされました。この法律では、国や地方公共団体、一般事業主(常時101人以上の労働者を雇用する事業主)に対して、女性の活躍推進のため、4点の事項が義務づけられています。
1つ目は、自社の女性の活躍状況を把握し、課題の分析を行うこと。2つ目は、女性の活躍の推進に関する課題を解決するために、数値目標と取り組みを盛り込んだ一般事業主行動計画を策定して社内外に周知や公表を行うこと。3つ目は、都道府県に策定した行動計画を提出すること。4つ目は、自社の女性の活躍状況の公表を行うことです。
このうち、行動計画の策定や届出を行った企業の中で、女性の活躍推進に関する状況などが優良な企業は申請によって、厚生労働大臣によるえるぼしの認定を取得することができます。従業員が101人未満の企業については努力目標とされていますが、行動計画の策定やの届出を行うことで、えるぼしの認定を受けることが可能です。
「えるぼし」と「くるみん」の違いは?
えるぼしと混同されやすいものに、「くるみん」があります。くるみんはえるぼしは別の法律、「次世代育成支援対策推進法」にもとづいたものです。常時雇用する従業員が101人以上の企業には、仕事と子育ての両立を図るための行動計画の策定と届出が義務づけられています。行動計画の達成などの一定の要件を満たしていると、申請によって厚生労働大臣から、子育てサポート企業としてくるみん認定を受けることが可能です。くるみん認定を受けるには、「女性従業員の育児休業取得率が75%以上」、「短時間正社員や在宅勤務などの制度や措置がある」など、10の要件があります。さらに、くるみん認定企業が、より高い水準の取り組みを行った場合に、申請によって認定を受けられる「プラチナくるみん」も設けられています。
えるぼしもくるみんも、企業規模によって行動計画の策定と届出が義務づけられ、要件を満たしている企業が申請によって、厚生労働大臣の認定を受けられるという点では同じです。一方で、えるぼしは女性の活躍推進を行う企業が認定されるのに対して、くるみんは出産や育児の支援体制のある子育てサポート企業が認定されるという点が異なります。
現在の企業の取得状況と認定企業の事例
厚生労働省は、えるぼし認定企業の名前やその数を公表しています。これを基に、制度発足以来、えるぼしの認定を受けた企業数の推移や、認定が多い都道府県などからその実態を見ていきます。また、三つ星を取得したえるぼし認定企業の事例を紹介します。
2023年6月時点の認定企業は2270社
えるぼし認定企業は2016年の制度開始以来右肩上がりで推移し、開始した年と比較して20倍以上となり2023年6月時点で2270社に達しました。
都道府県別にみていくと、東京都が1117社と半数を占め、次いで大阪府が146社、愛知県が117社となっています。
えるぼし認定を受けるのに必要な「一般事業主行動計画」の届出状況は、届出が義務づけられているものの、罰則規定がないため、制度開始直後は7割程度にとどまっていました。それが2018年6月になると、全国平均で約98%となり、届出を行った企業の数は増加しました。しかし、2万社ほどが一般事業主行動計画の届出を行っていることを踏まえると、えるぼし認定企業の数はかなり少なく、ハードルが高いといえます。
えるぼし認定企業の代表事例
えるぼし認定企業では、女性の活躍を進めていくため、どのような取り組みを行っているのでしょうか。えるぼし認定企業の中でも、三つ星の企業が女性の活躍推進のために工夫している事例を紹介していきます。
女性向けキャリア支援「ベネッセコーポレーション」
通信教育「進研ゼミ」を運営する株式会社ベネッセコーポレーションでは、女性向けのキャリア支援を通じて、結婚、出産、家庭環境等にとらわれず、働き続けやすい環境づくりを進めてきました。ライフキャリアの意識づくりを行うため、早い段階で「ライフキャリア研修」を実施しています。育児休職者に向けた施策では、ホームページでの情報共有や復職後研修を行い、スムーズに復職しやすい環境をつくりました。また、女性がキャリアアップをイメージしやすいように、女性役員や部長とのラウンドテーブルを実施しています。
女性の活躍推進のため組織風土を改革「アフラック」
アフラック生命保険株式会社では、2014年に「ダイバーシティ推進室」を設置し、ダイバーシティの推進に取り組んできました。そして、2015年を「女性活躍推進元年」と位置づけ、女性の活躍推進のため、組織風土を改革する取り組みをスタートしています。課長代理手前の職位の女性社員に対し、キャリアを考えるための研修を行い、管理職に対しては、女性の活躍推進を啓蒙する研修を実施しました。さらに、社長自ら全国の支社に足を運んで社員との対話を行うことで、女性が活躍できる組織への改革を進めました。その結果、管理職になることに否定的な女性社員の数は減少し、キャリアアップを望む女性が増加しています。
※NIKKEI STYLE:アフラック山内社長「女性活躍推進は経営課題だ」
※保険市場TIMES:アフラック 女性活躍推進制度で最高ランクの認定を取得
積極的に女性の管理職を登用「アグレックス」
BPOを手掛けるIT企業の株式会社アグレックスは、1965年の創立以来、女性管理職の登用を行ってきたため、ロールモデルとなる女性管理職が数多く活躍しているのが特徴です。女性がキャリアを重ねていく中で、自然に管理職を目指す土壌が形成され、育児中の社員をフォローする風土も根づいています。制度面では、「母性健康管理セミナー」が定期的に実施され、産休や育休の事例を紹介することで、妊娠や出産によって起こる生活の変化をイメージしやすくする取り組みが行われています。また、「カミングホーム」という制度を利用すると、女性が配偶者の転勤などで退職しても、再び以前と同じ待遇で再雇用されることが可能です。
女性の管理職の増加を目指す「ちばぎん証券」
ちばぎん証券株式会社では、女性管理職の割合を15%にアップする目標を掲げ、女性社員がキャリア形成をイメージできるように、キャリアアップ研修を行っています。また、事務部門の最上位役職として副支店長のポストを新設し、事務部門の社員も支店長を目標にしやすくすることで、キャリアアップを目指す女性を増やす施策もとっています。
SDGs推進の一貫で取り組むソフトバンク
ソフトバンクがSDGs推進にあたり「レジリエントな経営基盤の構築」のマテリアリティに対して掲げた指標は「2035年までに管理職の女性比率を現比率の3倍」というものでした。そのために「女性活躍推進委員会」を発足し、取り組みを進めています。
※ソフトバンクのSDGs推進事例をより詳細に知りたい方は無料ホワイトペーパーをご覧ください。
「えるぼし」の認定基準
えるぼし認定を受けるには、一般事業主行動計画の策定と届出を行い、女性の活躍推進に関する取り組みの実施状況などが、優良と認められる必要がありますが、認定には5つの基準項目があります。基準を満たしている項目の数によって、えるぼしマークの星の数は変わり、当然のことながら、多くの基準を満たしているほど、星の数が増えます。
5つの基準項目とは?
えるぼし認定に関わる5つの基準項目をみていきます。
<採用>
採用における基準は、応募者数を採用者数で割った「競争倍率」が、男女別で同程度であることです。同程度とされるのは、直近の3事業年度の平均で、雇用管理区分ごとに「女性の競争倍率×0.8」が「男性の競争倍率」よりも低いケースです。対象となるのは、期限の定めのない労働契約を結ぶ採用に限られ、一般的に正社員が該当します。
雇用管理区分とは、雇用形態や職種、資格などによる区分です。正社員の雇用管理区分を分けているケースでは、企業による違いもありますが、コース別人事管理の場合は「総合職」「エリア総合職」「一般職」、職種別雇用管理の場合は「営業職」「技術職」「事務職」といった形で区分されています。
<継続就業>
継続就業に関する基準は2つあり、いずれかを満たしていればよいとされています。1つ目は、雇用管理区分ごとに、「女性従業員の平均継続勤務年数」÷「男性従業員の平均継続勤務年数」が0.7以上であること。期間の定めのない労働契約を締結している従業員のみが対象になります。2つ目は、雇用管理区分ごとに、10事業年度前とその前後の事業年度に採用された「女性従業員の継続雇用割合」÷「男性従業員の継続雇用割合」が0.8以上であることです。算定の対象となるのは、新卒採用で期間の定めのない労働契約を締結している従業員のみとなっています。
<労働時間などの働き方>
労働時間による基準は、雇用管理区分ごとに直近の事業年度の月ごとの平均で、従業員の法定時間外労働と法定休日労働を合計した時間数が45時間未満であることです。
<女性の管理職比率>
女性の管理職比率の基準も2つあり、いずれかの基準を満たせばよいとされます。1つ目は、管理職のうち女性従業員が、産業ごとに定められた平均値以上の割合を占めていること。2つ目は、直近の3事業年度の平均で、課長級より1つ下位の職階から課長級に昇進した従業員の割合を女性と男性で比較し、「女性従業員の数値」÷「男性従業員の数値」が0.8以上であることです。
<多様なキャリアコース>
多様なキャリアコースとして4つの項目が設定され、直近の3事業年度で、大企業は2つ以上、中小企業は1つ以上の実績があることが基準とされています。1つ目は、女性従業員の非正社員から正社員への転換で、派遣社員を正社員として雇入れをするケースも含まれます。大企業で非正社員がいる場合には、この項目は必須です。2つ目は、女性従業員のキャリアアップにつながる雇用管理区分の転換。たとえば、一般職から総合職への転換が挙げられます。3つ目は、退職した女性従業員の正社員としての再雇用、4つ目は概ね30歳以上の女性を正社員として採用することです。
一つ星から三つ星まで基準は変わる
えるぼしの認定段階は、認定マークの星の数で一つ星から三つ星まであり、認定基準が異なります。それぞれの認定基準をみていきます。
引用:厚生労働省:女性活躍推進法特集ページ:認定を取得しましょう!
一つ星の認定基準とは
えるぼし認定の一つ星の認定基準は、3つあります。1つ目は、5つの基準項目のうち、1つか2つの基準をクリアし、厚労省の「女性の活躍推進企業データベース」のサイト上で、毎年実績を公表していること。2つ目は、基準を満たしていない項目について、事業主行動計画策定指針で決められた取り組みを行い、2年連続で改善していることと、その取り組みを「女性の活躍推進企業データベース」で公表していること。3つ目は、5つの基準項目以外に定められた基準をクリアすることです。事業主行動計画策定指針に沿った一般事業主行動計画を策定して、公表や労働者への周知を適切に行うことと、女性活躍推進法や関連法令への重大な違反がないことが求められています。
二つ星の認定基準とは
えるぼし認定の二つ星の認定基準も、3つあります。1つ目は、5つの基準項目のうち、3つか4つの基準をクリアしていることで、一つ星と同じく、厚労省の「女性の活躍推進企業データベース」のサイト上で、毎年実績を公表していることも条件となっています。2つ目と3つ目の認定基準は、一つ星と同じです。
三つ星の認定基準とは
えるぼし認定の三つ星の認定基準は、2つです。1つ目は5つの基準項目の全てをクリアしていることで、三つ星も厚労省のサイト上で、毎年実績を公表していることが条件です。また、2つ目も他の認定段階と同じく、一つ星で3つ目の基準として挙げた、5つの基準項目以外に定められた基準を満たすことになります。
えるぼしを取得するメリット
えるぼし認定を受けると、企業はイメージの向上を図れること以外にも、企業経営に関係するメリットがあります。えるぼし認定の取得によるメリットを挙げていきます。
自社のイメージと認知度向上を期待できる
えるぼし認定を受けると、認定段階に応じた認定マークを自社の商品や名刺、パンフレット、広告などにつけることができます。女性が活躍できる企業ということをアピールできるため、イメージアップや認知度の向上につながっていきます。
採用活動で優秀な人材が集まりやすい
えるぼしの認定マークは、求人広告や求人票にもつけることが可能です。結婚や出産後も働き続けたいと考えている女性や、キャリアアップを目指す仕事への意欲が高い女性が応募する可能性が高まります。また、えるぼし認定の基準項目には、労働時間に関する項目も含まれているため、女性のみならず、男性も積極的に応募をすることも考えられます。さらに、えるぼし認定を受けたことによって知名度がアップし、応募者が増加するケースもあるでしょう。
公共調達の際に加点評価される
中央省庁による公共調達のうち、総合評価落札方式、あるいは企画競争による場合、えるぼし認定企業は加点評価を受けることができます。えるぼし認定企業は、ワーク・ライフ・バランスを推進企業を評価する項目に該当するもので、加点は一つ星から三つ星の認定段階によって異なります。公共事業は事業規模が大きく、入札が有利に進められることは大きなメリットです。
低利融資の優遇措置を受けられる
日本政策金融公庫が「企業活力強化貸付」で、えるぼし認定企業のうち、届出義務のある大企業以外の中小企業は、一定の要件を満たすと低利融資を受けることができます。優遇利率は、基準利率からマイナス0.65%と大きなものです。
「えるぼし」を取得するには
えるぼし認定を取得するには、「一般事業主行動計画」の策定と届出などが必要です。行動計画の策定や届出を実施した企業のうち、評価基準を満たす企業が都道府県労働局への申請によって、えるぼし認定を受けることができます。
厚生労働省は「一般事業主行動計画」の策定方法についてまとめていますので、これに基づいて「一般事業主行動計画」の策定と届出を行うまでの流れを解説していきます。
自社の女性の活躍に関する状況の把握、課題分析
えるぼし認定を取得するには、行動計画の策定が必要になりますが、まずは自社の女性の活躍に関する状況を把握し、自社の課題を分析します。課題の分析のための基礎項目は4つあり、「採用した従業員の女性の割合」、「平均継続勤務年数の男性と女性の差異」、「月ごとの法定時間外労働と法定休日労働の総時間数の合計の平均」、「女性の管理職比率」です。この他に、選択項目も活用して、課題の原因を掘り下げて分析していきます。
行動計画の策定、周知、公表
状況把握、課題分析ができたら、これをもとに目標の設定、行動計画の策定を行います。行動計画には、「2~5年間の計画期間」と「1つ以上の数値目標を含む目標」、「取り組みの内容」、「取り組みを実施する時期」を盛り込むことが必要です。また、取り組みの内容は、男女雇用機会均等法に違反しないものとします。
行動計画を策定した後、社内への周知を図り、全社を挙げて目標達成に取り組み、えるぼし認定を目指すことも全体に周知していきます。周知の方法は、事業所内への掲示、メールでの送付やイントラネットへの掲載、書面での配布などです。さらに、外部への公表も行います。
「一般事業主行動計画」の届出
策定した行動計画は都道府県労働局に届出を行います。他の書式を使用することもできますが、「一般事業主行動計画策定・変更届」に沿って、必要な項目を網羅するようにします。
まとめ
共働きが当たり前の時代となり、少子高齢化による人手不足が深刻化していることからも、今後ますます、女性が働きやすいと感じる職場環境を整えることが求められていきます。えるぼし認定は女性の働きやすさの指標となるもの。えるぼし認定の取得によって、働きやすい環境が整えていることがアピールできるため、優秀な人材を確保につながっていくといえます。