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【イベントレポート】アート思考で創る新規事業 ―トヨタ等の新規事業を開発したプロが実践例で語る、VUCA時代を生き抜く創造的組織へのロードマップと人材の鍛え方とは?―

新規事業開発

23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。

2022/08/30回では、新規事業を連続的に立ち上げたいが、上手なサイクルを回せないと悩む新規事業担当者の方に向けて、トヨタ等の新規事業開発を支援する 柴田氏に、新規事業を生み出す前の上位概念、アート思考で創る創造的組織について語っていただきました。
「新規事業立ち上げの心理的負荷により、担当のモチベーションを一定に保てず不穏な空気がある」
「クリエイティブなアイデアを求めているが、既存事業の延長やありきたりなアイディアしか出てこない」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。

当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。

柴田 雄一郎氏

柴田 雄一郎氏

アート×デザイン思考講師 クリエイティブ・マネージャー
トヨタ自動車・ソフトバンク・ゼンリン他企業の新規事業立ち上げや内閣府のビッグデータビジュアライズ「地域経済分析システム(RESAS)」のPM、様々な業種の新規事業立ち上げ専門のコンサルティングやクリエイティブ・マネージャーを担当。「アート×デザイン思考セミナー」はスキルシェアサイト「ストリートアカデミー」でビジネススキルのジャンルで全国2位を獲得。2020年優秀講座賞を受賞、5000人の講師実績を持つ。ビジネス研修実績として㈱グッドパッチ、日本ロレアル㈱、日本通運㈱、キャノンマーケティング(株)、武田薬品工業(株)他。また、地域活性を目的にしたアートフェス、野外音楽フェスのプロデュースの他、自らアーティストとしても活躍。

松井 優作氏

松井 優作

株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部 マネジャー
早稲田大学卒業後、新卒一期生で創業期のサーキュレーションに参画しマネジャー就任。首都圏を中心に自動車や大手製薬メーカーなど製造業50社以上に対し、全社DXの推進・新規事業開発・業務改善・営業部隊の構築・管理部門強化などの幅広い支援実績を持ち、実行段階に悩みを抱える企業の成長を支援中。

酒井 あすか

酒井 あすか

イベント企画・記事編集
新卒で大手人材紹介会社に入社し、中途採用における両面マッチング型の法人・個人営業、グループ会社・地銀とのアライアンス連携業務に従事。丸の内エリアに本社を構える企業への採用支援、100名単位のグループ会社社員に対して営業企画、地銀への人材紹介事業レクチャーに携わる。サーキュレーションではプロ人材の経験知見のアセスメント業務とオンラインイベントの企画〜運営を推進。

※プロフィール情報は2022/08/30時点のものになります。

今、新規事業創出を行う際に求められる「アート思考の人材」

新規事業の創出が難しいのは周知の事実であり、データを見ても「新規事業に成功している」と回答している企業は、わずか3割程度しか存在しない。
難易度を高めている要因の一つが、人材の問題だ。優秀な従業員が1人いるだけでは不足するのはもちろん、近年は求められるスキル構成が「クリエイティビティ」寄りに変化している。例えば、環境意識と事業をどう両立させるのか。人の価値観・ニーズの変化にどう対応するべきなのか。これらに対して、創造的人材――「アート思考人材」による、新規事業開発の新しいあり方が求められている。

アート思考人材活用組織の成功と失敗事例

柴田氏は「アート思考×デザイン思考×ロジカル思考」による思考法「クリエイティブ・マネジメント」に関する講義を多数実施しており、クリエイティブな人材の開発、組織開発、事業開発に寄与している人物だ。自身でも、トヨタ自動車やソフトバンク、ゼンリンなど数々の大手企業で新規事業立ち上げをサポートしている。
そんな柴田氏が重視しているのが、アート思考を持つ「創造的で自律したチーム」の存在だ。具体的にどのような新規事業開発が可能になるのか、成功・失敗事例をそれぞれ解説していただいた。

【創造的で自律したチーム】を取り入れて成功した企業事例

柴田氏が2015年頃に携わったのが、地方創生のためのビッグデータビジュアライズシステム「RESAS」だ。当時、年間1000億円規模で確保されていた地方創生予算を活用するために、地域情報のビッグデータをビジュアライズしたものだという。

松井:プロジェクトはウォーターフォール型で要件を定義して組織を動かす形が一般的ですが、柴田さんは「創造的で自律したチーム」を組成されました。どういったアプローチをした、どんな特徴のあるプロジェクトだったのでしょうか。

柴田:コンセプトが優れていたため、半年ほどで作ってほしいという要請を受けました。そうなると、直感的・即興的に開発する感覚を持っているメンバーが必要です。大手企業のような進め方をすると、仕様書を練るだけで半年が過ぎてしまいますからね。
そこでミュージシャンやアーティスト的な方をアサインし、スペシャリストが自律分散型でその場その場の判断をしながら開発をする形にしました。仕様書は作らない、アジャイル開発です。その中でアート思考を用いて、直感的にプロダクトをビジュアライズしていきました。結果的に、予定通りの半年でプロダクトが完成しています。

【創造的で自律したチーム】を取り入れず失敗した企業事例

上記のようなアート思考を用いる創造的で自律したチームが機能せず、失敗に終わった事例も存在する。大手製造メーカーの新規事業開発プロジェクトで、いわゆるメタバースやSDGsなどの最新トレンドを意識した内容だったという。

柴田:メタバースにしろSDGsにしろ、「なぜそれをやるのか」という本質が存在しないまま推進した結果、ユーザーニーズから離れ、企業の思いを押し付けるようなプロジェクトになってしまいました。例えばSDGsの本質は自然環境を守ることですが、企業ブランディングが目的になってしまった……といった状態です。
企業が叶えたい本質に対する理解と信頼がないまま開発を進めると、経営層とチームとの間に乖離が生まれてしまいますし、やる気もなくなります。結果的に、中途半端な事業になってしまいました。

【創造的で自律したチーム】を取り入れて成功する3つのポイント

事例内容を踏まえると、アート思考を生かした組織で新規事業を成功させるポイントは以下の3つの内容になる。

各々が自律分散的に作業をする創造的なチームを組成し、直感的なアジャイル開発を推進するのが、「アート思考」を発揮できる環境だ。さらに各メンバーが企業のビジョンを共有しマインドを擦り合わせ、チームの心理的安全性とモチベーションを高めるのも重要だという。

アート思考の人材を活かした新規事業を生み出すチームの創り方

では、実際にアート思考を持った人材をどのように発掘・育成し、実際に創造的組織を組成していけばいいのだろうか。それぞれのエッセンスについて、柴田氏に伺った。

アート思考人材開発のやり方

松井:まず、アート思考人材とはどういう人物を指すのでしょうか?

柴田:スティーブ・ジョブズやイーロン・マスクのような、社会課題を自分ごと化して「妄想」を広げ、それを現実化してしまうスーパーマンのような人をアート思考人材と定義してみましょう。そういう人はとにかく自分の中に「感動」を蓄積しており、たくさんの引き出しを持っています。そしてそれらを固定観念にとらわれずに結び付けて組み合わせ、実現するわけです。もちろん、そういう人はなかなかいません。

例えば社内で少し変わったことをしている人は、「アート思考」を持っている可能性が高いという。一見周囲からは「ズレている」と思われそうな意見を持つ人物を発見した場合は、会社としてどう生かすかを考えなければならない。
とはいえ、実際には柴田氏の言う通り、「アート思考の人材がいない」のが多くの企業が持つ課題となっている。そこでもう一つの方法としてご紹介いただいたのが、「集合知的なアプローチ」だ。これによって、擬似的にアート思考のシミュレーションが可能になるという。

柴田:実際のところ、「創造」自体は誰しもが日常的に行っています。そこで私はいつも、自分がアーティストかもしれない、創造性があるかもしれないと気付いてもらうためのワークショップを実施します。
そこで用いるのは、人の頭の中にある発想をマインドマップでビジュアライズする方法です。組織の中にアイデアを生み出す人がいないなら、とかく組織の中にある要素を全て書き出して可視化し、要素同士を結び付けて新しいものを生み出していきましょう。これをメンバー全員がやります。
そのアウトプットに本当にニーズがあるのかを今度はデザイン思考で検証し、ロジカル思考で現実のものにしていくのです。

アート思考を生かす創造的組織開発

こうしたアート思考を生かすための組織開発のためには、具体的に5つのステップが必要だという。

[Step.1]パーパスの再定義

松井:1つ目がパーパスの再定義ですね。最近はパーパス経営という言葉もありますが、重要なのはパーパスを設定し、どのように浸透させるかだと伺っています。

柴田:最近カルチャーを形作るコアとしてパーパスの見直しを行う企業が多いのですが、今回ご紹介した事例のように「流行しているから」という理由で表面的なパーパス経営をすると、経営陣だけが盛り上がり、現場は全く感知しなくなってしまいます。
一番大事なパーパスは「自分たちがなぜ存在しているのか」であり、それを全員が理解した上で環境づくりをしないと、方向性がブレてしまいます。新規事業も常にパーパスを確認しながら進める必要があるので、浸透させないと意味がありません。

[Step.2]オーセンティックマネジメント

松井:次のステップはオーセンティックマネジメントですが、これはどういうものですか?

柴田:「オーセンティック」とは「本質的な」という意味で、「オーセンティックマネジメント」は「本心で話をするリーダーシップ」を指します。
今は正解がない時代で、強烈な力を持った指導者が上に立つのは非常に難しい状況です。ですから、わからないことは「わからない」と言い、やれと命令するのではなく一緒に「やろう」と言うようなマネジメントが必要です。そういう立場を作るために重要なのが、信頼関係です。リーダーが正直にチームと接する意識が非常に大事ですね。

[Step.3]Z世代の理解

松井:次がZ世代の理解ということで、新しい視点のように感じます。今は個人のエンパワーメントの時代と言われており、終身雇用も崩れてきました。その中で生まれた若い世代は、デジタルが当たり前の環境で生きてきた存在です。彼ら特有の感性をどう生かすかが、経営としては重要な論点になりそうですね。

柴田:経営層とZ世代とでは、見てきた世界観が真逆とも言えるほど大きく異なります。そういう若者の感性を否定してはいけませんし、共感できないとしても理解は示しましょう。ここでもやはり、わからないものは「わからない」と言っていいと思います。信頼関係を築く上では世代の乖離を意識しすぎず、誠実に向き合うほうが大事です。

[Step.4]心理的安全性の担保

松井:心理的安全性の担保も、新規事業を創出する組織にとっては非常に大事だと伺っています。

柴田:新規事業の立ち上げはなかなか売上にならない、時間のかかる孤独な作業です。意識して心理的安全性のある環境を作らないと担当者は孤立してしまい、精神的に落ち込んでしまいます。
大切なのは「理解」です。新規事業はトライアンドエラーの取り組みであると把握して、担当者を焦らせたり、煽ったりしないようにしながら信頼関係を作っていきましょう。

[Step.5]ひらめき民主主義

松井:最後のステップが「ひらめき民主主義」ということですが、これはどういう意味なのでしょうか?

柴田:新規事業の創出は企業の持続可能性を担保する上で非常に重要な課題なので、経営陣も一緒に全員でアイデアを出すのが大事だということです。事業が失敗したときに個人の責任が問われないよう、共創しましょう。メンバーみんなで「ひらめく」わけです。それが持続可能な新規事業創出の環境だと思います。

アート思考で創る新規事業まとめ

今回のウェビナーのポイントをまとめると以下のようになる。

今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。アート思考で創る新規事業にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。

【無料ホワイトペーパー】
アート思考で創る新規事業 ―トヨタ等の新規事業を開発したプロが実践例で語る、VUCA時代を生き抜く創造的組織へのロードマップと人材の鍛え方とは?―
本ホワイトペーパーは、2022年8月30日に開催したウェビナー資料のダイジェスト版となります。新規事業を連続的に立ち上げたいが、上手なサイクルを回せないと悩む新規事業担当者の方に向けて、新規事業を生み出す前の上位概念、アート思考で創る創造的組織についてご紹介しております。