【イベントレポート】三菱ケミカルHDの事例に学ぶ ―全社変革を加速する横断プロジェクトのリーダーの役割とやるべき5つのこと―
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
2021年7月16日は、社内の大規模プロジェクトのマネジメントを改善したいとお考えの皆様に向けて
問題解決型ファシリテーションのプロ 園部氏に、実際の伴走支援で活用しているフォーマットもご紹介いただきながら、全社を巻き込んで着実にプロジェクトを推進させていくコツを語っていただきました。
「全社横断プロジェクトの会議が情報共有で終わってしまい、具体的な行動計画が決まらず半年経過してしまった」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。
こうしたお悩みを持つご担当者様は必見です。
当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。
園部 浩司氏
問題解決型ファシリテーションのプロ
NECマネジメントパートナー時代に300人在籍の組織変革プロジェクトリーダーを務め、年間1000本以上の会議をこなし1年間で約2億円の営業利益の改善に導く。その後業務改革推進本部で最年少部長に抜擢。2016年に独立し、「園部牧場」を設立。年間2500人以上のファシリテーターの育成に携わり、数年先まで仕事の依頼が埋まっているトップファシリテーターとしてベンチャーから大手企業まで様々な企業の全社改革を支援。著書に『ゼロから学べる! ファシリテーション超技術』がある。
中村 侑太郎
プロシェアリング本部 ビジネスデベロップメント部 エンタープライズ推進チーム マネジャー
新卒で大手人材紹介会社に入社しメディア媒体の営業を経験後、全社人事に抜擢され北海道・九州地方のエリアマネジャーとして新卒200名以上の採用業務全般を推進。その後当時20名規模のサーキュレーションに入社し製造業向けプロシェアリングコンサル部門の垂直立ち上げに貢献。全社採用責任者を経て現在はマネジャーとしてナショナルクライアント向けコンサルティング部隊を統括。
花園 絵理香
イベント企画・記事編集
新卒で入社した大手製造メーカーにて秘書業務に従事。その後、医療系人材会社にて両手型の営業を担当し全社MVPを獲得、人事部中途採用に抜擢され母集団形成からクロージング面談まで幅広く実務を経験。サーキュレーションでは、プロ人材の経験知見のアセスメント業務とビジュアルに強いコンテンツマーケターとしてオンラインイベントの企画〜運営を推進。
※プロフィール情報は2021/7/16時点のものになります。
Contents
なぜ全社横断型のプロジェクトは進まないのか?
VUCAの時代は全社横断型で進めるプロジェクトが増えている
VUCAの時代を迎えた現在、例えばDXや働き方改革の推進など、全社横断型で進めるプロジェクトは非常に増えている。この傾向はwithコロナにおいて特に顕著で、社内にワーキングチームや分科会を結成して横断的に動こうとしている企業も多いはずだ。
これに伴い、プロジェクトを推進するプロジェクトリーダー、あるいはプロジェクトマネージャーに求められるプロジェクト推進の難易度の高さや負担は倍増していると考えられる。
さらに実際にテレワーク下で特に多い課題感に目を移してみると、「テレワークできないまたは合わない職種である」という根本的な問題以外では、「社内の打ち合わせや意思決定の仕方の改善」をはじめとした会議体に関する項目が上位に位置している。これも、プロジェクト推進においては重要な視点だと言えるだろう。
プロジェクト停滞の根本原因はプロジェクトリーダーのスキル不足
とはいえ、テレワークだけがプロジェクト停滞の原因ではない。より詳細にプロジェクト停滞の原因を紐解くと、実はコロナ以前から推進の障害の原因に大きな変化はないことがわかる。
上記の「推進の障害トップ3」を見てみると、合意形成や進捗状況の可視化、計画・ゴール設定に問題があり、テレワークそのものが原因とは言えないことは容易に推測できる。これらの障害は、プロジェクトを推進するリーダーやマネージャー自身のスキルアップによって、解消可能だ。
三菱ケミカルHDの事例で学ぶ、全社横断型プロジェクト推進のポイント
プロジェクト推進の本質的な課題を解決するにはどうすればいいのか――解決のいとぐちを教えてくれるのが、トップファシリテーターである園部氏だ。著書には『ファシリテーション超技術』がある。
今回は園部氏が携わった数多くの案件の中から、三菱ケミカルHDでの事例をベースに解説いただいた。
わずか1ヶ月の短期間でプロジェクトの体制や進め方を整備
当時三菱ケミカルHDは全社改革を進めようとしており、経営陣もその必要性は感じていた一方、そのためのプロセスに関するノウハウがなかった。これを支援する形で園部氏がジョインしたわけだが、園部氏はわずか1ヶ月という短期間でプロジェクトの推進体制を構築し、進め方を整備したという。
1ヶ月で園部氏が行った支援内容を3つのステップに分けると、以下のような形になる。具体的にどのようなサポートだったのか、一つずつ教えていただいた。
【Step.1ヒアリング】階層別でメンバーから課題を吸い上げる
中村:最初のステップでは、2日間で30名にヒアリングを行ったということですが、気を付けるべきポイントはあるのでしょうか?
園部:ファクトを押さえるのが大事なので、やはり現場の声を聞く必要があります。意識したのは階層ですね。役員、マネジメント層、そして現場の担当者という3層に分けて、それぞれの目線で以前から感じている社内の課題と、コロナ禍で湧き上がってきた課題をヒアリングしました。
ヒアリングをした後はプロジェクトメンバーを集めなければいけないので、この時点では「どんどん共感する」というテクニックを使いました。「そういう課題ありますよね、解決できたらすごくいいですよね」と共感しながら話を聞くことで、プロジェクトが立ち上がったときに興味を持ってもらう仕掛けです。「発言者の意見が入ったプロジェクトが立ち上がる」というストーリーを意識的に作っていくことと、メンバーを巻き込むことを意識したのです。
【Step.2課題特定】最終的には責任者の判断で課題を絞り込む
次の課題特定のステップでは、ニューノーマルな働き方に合わせて改革が必要なテーマを5つにまで絞り込んだ。そしてそれぞれのテーマに対して責任者を決めていったというが、ここはどのように進めたのだろうか。
園部:インタビューを通して上がってきた社内の課題をカテゴライズして大中小の因果関係を全部整理すると、何らかのテーマに落とし込めます。それらの緊急性や重要度は高いのか低いのか、ある程度基準を設けて評価し、「期間や社員の規模を考えるとこのあたりから攻めるべきではないか」とご提案しました。ただ、最終的に決めるのはプロジェクトリーダーや責任者の方々です。そうでないと「やらされ感」につながってしまいます。
スライドに記載されているテーマを見ると、コロナ禍においてはたしかに妥当なテーマが羅列されている。実際に園部氏は、クライアントから「ありきたりなテーマですね」と言われたそうだ。
しかし、園部氏はこのありきたりな内容を、じっくり社員にヒアリングして導き出す意義について以下のように語る。
園部:「脱はんこ」なんて、目新しいことをやるよりも、普段意識できていない課題にしっかり取り組むことが秘訣です。インタビューをしなくても思いつきそうな、当たり前なテーマですよね。しかし私はそこで、「当たり前かどうかが関係あるんですか」とお伝えしました。それよりも「できているかどうか」という目線で見ていただいたほうがいいのではないかと。
【Step.3推進体制構築】自発的に担当を決定してもらえるよう会議を誘導
最後のステップで、いよいよ推進体制を構築していく。
中村:ここでは、各メンバーの責任の範疇まで言語化されていると思いますが、何かポイントはあるのでしょうか。
園部:誰がどのテーマに責任を持って走るのかを会議で決めるのはなかなか難しいので、私が会議を設計しました。ここでは、自分の言葉で「私はこれを担当する」と決定してもらえるように、上手く誘導することを大事にしています。
ただ、自分で選ぶにしてもどういうことをどのくらいやらなければいけないのか、どの程度の難易度なのかがわからないと決めにくいですよね。そのあたりは丁寧に分析したデータや想定される着地点を示して、進行をサポートしました。
プロ人材ではなく企業が自分たちで正解を導き出し、自走することが重要
中村:ここで3つのステップを以下のようにまとめさせていただきました。要するに、正しい「型」を活用しながら、しっかりとプロジェクトに関わるステークホルダーの皆さんを巻き込むことが重要なのでしょうか。
園部:いろいろな型がありどれを使っても良いのですが、大事なのは1つに絞ることです。あとは、やはりメンバー自身が決めるということですね。オーナーやリーダー、メンバーがしっかりベクトルをそろえるために私がプロジェクトチャーターをしっかり作りますし、自分で選ばせるプロセスを丁寧に進めます。
園部氏は再三、プロジェクトに「やらされ感」が出ないようにと配慮し、メンバー自身が決定するプロセスを重視している。これは、企業がきちんと自社の判断で体制を作り上げ、自走できるようになる未来を目指す狙いがあってこそだ。
全社横断型プロジェクトのリーダーがやるべき5つのこととは?
プロ人材の助けを借りながら、プロジェクト推進体制を整える方法についてお伺いしてきた。この中で、実際に横断型プロジェクトのリーダーまたはマネージャー、オーナーという立場になったメンバーはどのような振る舞い、行動をすべきなのだろうか。
プロジェクトリーダーの役割は横断型プロジェクト特有の課題の解消
まず、横断型プロジェクト推進においてぶつかりやすい課題は、「課題特定」と「運用設計」、そして「運用定着」の3つのフェーズに見いだすことができる。
園部:課題の整理や体制、会議体の設計は、仕事を進める上での土台です。ここがぐずぐずだと、どんなにセンスがあって課題感を持っている人が担当しても上手くいきません
中村:プロジェクトリーダーは、これらの難所を越えていくことが求められるんですね。
全社横断型プロジェクトのリーダーがやるべき5つのこと
ウェビナーでは3つのフェーズから見いだせる5つの課題に対して、「プロジェクトリーダーがやるべき5つのこと」をご紹介した。ここでは、特に「背景を知るためのヒアリング」「レポートラインの定義」そして「会議の文化醸成」の3つについて詳しく解説する。
背景を知るためのヒアリング
ヒアリング時のポイントは事例紹介にもあった通り、ファクトを押さえることやメンバーへの共感を示す聞き方をするといったことだ。さらに園部氏は、ヒアリングのための準備の重要性についても説く。
園部:ファクトを押さえるためには、良い質問をしっかり考えておくことです。場当たり的にインタビューするよりも、何を情報として集めたいのかを意識しましょう。
中村:数名でのワークショップ形式というのは、具体的にどんなことをされるんですか?
園部:限られた時間で多くの方から意見を集めなければいけないので、5人1組のチームを作ってもらい、オンラインで質問を投げます。回答はチャットに返してもらう。すると要素がずらっと上がってくるので、あとはKJ法というやり方でカテゴライズし、整理します。大体8個に絞れるとしたら、その中で一番気になるものを教えてもらい、深めていく。カテゴライズを飛ばすと議論が深まりません。私はそこをリードさせていただきました。
プロジェクトの規模感・レポートラインを明確にする
レポートラインの定義では、プロジェクトそのもののゴールや推進期間を定め、どのようなレポートラインで体制を動かしていくのかを決める。
園部:私が三菱ケミカルHDさんの事例でご提案したのは、「誰かが誰かの1on1をやる」という仕組みです。メールで週次レポートを送るのではなく、週に1回30分程度、誰が誰の1on1をしてフォローするのかという体制を全て作りました。
事務局の中のプロジェクトリーダーの方に対しては、私が1on1を行いましたね。プロジェクトリーダーの方は各分科会の責任者と1on1する。そして責任者はメンバーと……という形で、プロジェクトが途中でスタックしないように、お互いをしっかり支え合って応援する仕組みを組み立てました。
各会議のアジェンダ作成・間延びしない文化醸成
今回は詳細を割愛したが、ToDoの3、4にあたる「オーナー・リーダー・現場と握る」「WBS作成・会議体やタスクの設計」のステップにおいて大きなポイントとなるのは「誰が見てもプロジェクトの内容がはっきりわかる資料や設計図を作ること」だ。
※未公開部分の資料も収録したホワイトペーパーはページ最下部よりDLページにアクセス出来ます。
ご興味ある方はぜひこちらもご覧下さい。
この姿勢は会議体についても同様で、園部氏は会議に際し、分単位の詳細なアジェンダを設計するという。
園部:プロジェクトチャーターができても、仕事を進める上での話し合いは当然続くので、会議はどうしても必要です。週1回1時間程度行うことが多いと思うのですが、その1時間で私が一番大事にしているのが、「方向性を決める」ということです。会議が終わった後で、メンバーが職場で作業に取り掛かれるレベルに会議を仕上げられるかどうかなのです。
ですから私は会議で何を決めるのか、そのためにどんな議論が必要なのかまで、1時間の会議を綿密に設計します。そうでないとパワハラギリギリのラインで強引に進めることになってしまいますし、メンバーが疲弊してプロジェクトの優先度を下げられてしまいます。
私の場合は大体1ヶ月先までのアジェンダをイメージして、そこから逆算します。
緻密なアジェンダのほかにもう一点大事なのが、会議に参加するメンバーの予定を半年先まで押さえることだと園部氏は語る。
園部:メンバー調整ほど不毛なことはありませんから、先にプロジェクトに対して週に1回の会議を設計して、先約優先というルールにしてもらいます。「本業優先」ではありません。そして、絶対に時間通り始まり、時間通り終わるというルールを守ると、会議がピリッとします。
会議は生命線ですから、分刻みでやることを決めて準備を怠らず、メンバーには安心して参加いただくような支援をしています。
目的の言語化と入念な事前準備がプロジェクトの推進の土台となる
最後に、ここまでご紹介したリーダーのToDoについての内容をまとめると、以下のようになる。
中村:横断型プロジェクトには組織や役割の違うメンバーが集うからこそ、目的の言語化や事前準備が非常に重要になるんですね。
園部:そうですね。
大切なのは、園部氏も言及した通りプロジェクト推進の土台となる部分を詳細に作り込むことであり、これはリモートでも対面でも変わらない。地道かつ地味な役回りのようにも思えるかもしれないが、これこそが優れたプロジェクトリーダーがこなすべき役割だと言えるだろう。
横断プロジェクトのリーダーがやるべき5つのことまとめ
今回のウェビナーのポイントを、「すぐに取り組んでいただきたいこと」として以下の3点にまとめた。
今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。横断型プロジェクトの運用方法にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。