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老舗パンメーカーが「営業スキルの可視化」によって売上伸長を達成!~属人化から脱した営業組織の変化が企業文化にまでつながる効果的手法~

人材開発・人材育成
老舗パンメーカーが「営業スキルの可視化」によって売上伸長を達成!~属人化から脱した営業組織の変化が企業文化にまでつながる効果的手法~

1947年から続く老舗のパンメーカーである第一屋製パン株式会社。生産組織にはカイゼン文化が根付いていたものの営業はノウハウの属人化が課題となっていました。そんな中、プロジェクトを担う副社長の小山一郎さん(以下、小山副社長)が見出したのが、営業ノウハウの可視化に秀でた菊池明光さん(以下、菊池)でした。営業検定実施による「営業スキルの可視化」によって第一屋製パンがどのような変化を遂げたのか、必見です。

Contents

属人化されていた営業ノウハウの体系化のため、スキルを可視化したかった

長年の歴史を通して体系化された生産組織の教育制度が強みの一つ

第一屋製パン株式会社 代表取締役社長 細貝正統様

代表取締役社長 細貝正統さん(以下、細貝社長):当社は1947年に創業し、70年以上の歴史を持つパンメーカーです。当社グループは企業理念として「おいしさに まごころこめて」を掲げ、ここを起点としながらお客様に感動をお届けする企業を目指してきました。

こと生産組織においては、人材が成長するための教育制度が手厚いのが特徴です。ある意味「放っておいてもレベルアップできる」体制を整え、日々製品の生産に力を入れています。

営業メンバーの能力はバラバラ。副社長主導で「営業メンバーの能力の見える化」を目指した

細貝社長:上記に述べた通り、当社は教育の仕組みとして、生産現場にはパン学校やトヨタの生産方式を当社に置き換えたDPSなど、連綿と続くカイゼン文化が会社の仕組みとして根付いていました。しかし、営業にはそういったものが全く存在していない状態で。属人的な力に任せてしまっているという課題感があったため、副社長である小山に「営業部隊に、体系化されたオリジナルの研修制度を作りたい」と相談しました。

第一屋製パン株式会社 取締役副社長 小山一郎様

取締役 副社長 小山一郎さん(以下、小山副社長):私が第一屋製パンに出向してきたのは2020年3月のことです。そのときに営業の現場を見てみると、確かにメンバーの能力がみんなバラバラの状態でした。社長の要望を受けた上で、各々に足りない部分を引き上げるために、まず営業の能力を見える化をしたいと思いました。

研修業者では達成できない課題に直面する中、まさに営業ノウハウの可視化を行っていたのが菊池さんだった

小山副社長:「営業スキルの可視化」をどう実現するか悩んでいたのですが、研修業者に依頼したのでは、ノウハウを教えることはできても能力の把握まではできないだろうと経験則で感じていました。かといって、私も未経験の領域だったので、自分で進めることもできません。

そんなとき、ちょうど人事担当者から紹介してもらったのがサーキュレーションさんでした。早速ご相談して、面談させていただいたのが菊池さんです。すると、菊池さんは私がやりたいと思っていることをそのまま実践していらっしゃるような方だとわかって。いきなりぴったりの人が見つかったので、他社を検討するまでもなく即決しました。

第一屋製パンが抱えていたのは大手IT企業が抱えるのと同じ大きな課題

営業体制強化のプロ人材 菊池 明光氏

菊池:私はリクルート出身で、13年にわたって営業や商品企画、営業組織のマネージャーなどを経験してきました。その後はメディロム社やPHONE APPLI社を経て、2016年に株式会社可視化を創業。「可視化」力を活かして、属人化したノウハウを標準化した営業資料の作成や、営業メンバーの育成などを支援しています。

今回、第一屋製パンさんが抱えていたのは、業歴の長い企業が陥りがちな課題です。パンという業界で長年にわたり確固たる地位を築いてきた中で製品の力が強くなっていたために、営業が弱くなっていたのです。誰もが知るような大手IT企業も、実は同じような課題に直面しています。プロダクトが強いからこそ「営業はとにかく業績を作ればいい」という雑なマネジメントになり、営業が弱くなる。するとクライアントのニーズを汲み取れなくなるので、そのうちプロダクトまで弱体化するという負の循環に陥ります。

第一屋製パンさんは、そこに対していち早く手を打つという意思決定をされたわけですが、経営者自身が舵取りをしたことが、大きな成功ポイントだったのだと考えています。

当初の想定を超えた枠組みで支援を進めながら、精度の高い営業検定を作成

1on1を通して洗い出された課題のレポート内容を見た時点で、「この人に任せて安心だ」と感じた

菊池:支援は週1回、濃密にやらせていただきました。最初のステップとしてはまず13名の営業、そして5名のマーケター、合計18名のメンバーと1on1をするところからスタートしました。

その上で私から見た第一屋製パンの課題を洗い出し、レポーティング。内容としては、エンドユーザーとクライアントのニーズが把握できないために「当たる」商品を作れていないこと、その結果として値引きが横行してしまうという負のループがあるということを提示しました。

営業本部 営業企画部 副部長 本田太さん(以下、本田):1週間くらいかけて一気にやってもらいましたね。

小山副社長:レポートを見て、短期間でよくここまで把握できるものだと感心しました。この時点で菊池さんにお任せして安心だと思いましたし、お願いして良かったと思ったほどです。

営業だけではなくマーケティング視点も含めた支援をしてもらえたのは期待以上

菊池:レポーティングの後にやるべきタスクを全て洗いだし、それらを並行して進めていきました。営業のあるべき姿の可視化、営業資料の見直し、そして営業検定実施に向けての準備などですね。

本田:営業面とマーケティング面に大きく分けて並走した感じですよね。

菊池:特に製造業は、営業とマーケティングは切っても切れない関係ですから。

細貝社長:パン業界自体はマーケティングが雑な企業が多いですし、それは当社も同様でした。どうにかしなければいけないという問題意識はあったものの、当初菊池さんにお願いしようとは思っていなかったんですよ。

小山副社長:想定していなかったところまでやっていただいた形ですね。

菊池:そうですね。マーケティングに対してはやはりニーズを汲み取って商品企画を行うために、「顧客を知り、パンを知る」というコンセプト提案をさせていただきました。

営業サイドにもマーケティングの要素を入れていきました。例えば先ほど述べたように今回は営業資料を刷新しましたが、冒頭はまず消費者の口コミ分析から入るようにしました。ユーザーはパンを「生地」や「クリーム」といったカテゴリごとに認知しているので、それらをきちんと選り分け、生地、クリーム、それぞれの口コミを選別。その内容を営業シナリオに昇華していきました。

マーケティングとセールス要素を合体させることでクライアントにもわかりやすく説明できるようになりますし、これを突き詰めていくと店頭ポップの提案にまでつながります。営業が一気通貫の提案ができるようにと考案していきました。

営業検定の設問項目を1ヶ月かけて作成。トップセールスマンを交え現場の実感を伴った内容に

菊池:今回のメインである営業検定は、まず「正しい営業の姿」の可視化をするために、検定の設問項目を作ってくれるメンバーのアサインから始めました。設問の設定を営業任せにしてしまうとざっくりしてしまうので、作り方そのものを私がお伝えし、いずれは自走できるようにと配慮していましたね。

項目作成にあたって大事なのは、会社として営業活動のゴールイメージをしっかり持ってもらうことです。例えば「テンポよくハキハキと商談を進められる」「アジェンダを示して適切な時間配分で商談を進行している」「商談時に合意形成を取れている」といった項目が出てきましたが、「どうなったら合意形成が取れているということにするのか」というレベルまで、現場の生々しい実感で決めなければいけません。

小山副社長:営業検定の作成については本田に加え、優秀な営業マン2名をアサインしました。

本田:トップセールスマンと呼ばれる人たちが何をしているのかを、どんどん抽出して項目化していきました。実際に検定を実施することよりも、作成段階のほうが大変でしたね。何度も項目を作り直したので、1ヶ月ほどかかりました。最初は検定で級を決める想定だったのですが、それでは弱点が明確にならないということで、レーダーチャート式にしたりもして……。

ここを菊池さんが一緒に取り組んでくれて、良いものが出来上がったからこそ、検定自体も成功したのだと思います。

細貝社長:検定はまだ2回目ができていないので、営業の年中行事として毎年回していくのが課題ですね。

本田:営業検定も含めて、一連のノウハウをうちの文化にしたいですね。そうすれば、1年ごとに営業の実力も上がっていくと思います。

菊池:仕組みから文化へ、ですね。

営業検定や研修でレベルが底上げ、新商品の売上に好影響を与えた

自社に存在する「本当に優秀な営業マン」から「次世代の幹部候補」まで如実にあぶり出された

細貝社長:営業検定によって、これまでは営業の実力を営業の数字だけで見ていましたが、本当の営業スキルとしての実力としてあぶり出されました。ベテランだと思っていた人が実際はイマイチな営業フレーズを使っていたり、逆に素晴らしい営業をする若手が出てきたり……。本当に丸裸にされました。

また、検定ではロールプレイをするのですが、そのときに受検者の相手役をしてくれたメンバーが非常に優秀で、センスを感じたことをよく小山とも話しています。

菊池:まさに次世代の営業本部長という感じの方ですよね。

本田:営業検定を通して、次の課題も浮き彫りになりました。今回の検定はオンラインで行ったのですが、例えばZoom商談での画面共有など、IT知識が必要になる部分では年配の営業マンに不利な部分があったようです。そのあたりの能力を身に付けていってもらうことが、これからの課題なのかなと。できない人には「ちゃんとやれるようにしてくださいね」とも言えるようになったこと自体も、良かった点です。

菊池:指導がしやすくなったということですよね。また、これまでは「ベテラン営業だから実力があるだろう」という想定だけで、特定の人が良いクライアントを担当することがあったのも問題でした。結果として、業績を下げているケースがあったからです。この点は、営業スキルの可視化によって実力がわかったことで、本当に優秀な営業を攻めるべきクライアントにあてがうことができるようになっています。

営業とマーケティングのコミュニケーションが大きく変わり、将来的な展望まで見えるようになった

小山副社長:検定はもちろん、同時並行で行っていた研修などの成果によって、営業活動も明らかに変わりました。定量的な数値として見えているわけではないのですが、1000万円単位で売上が上がっているのではないでしょうか。

本田:特に新商品は数字がしっかり上がっていますよね。マーケティング側も、営業に対する「この商品を売っていきましょう」というアナウンスの仕方が上手くなっていますし、受け取る営業側からは「徹底して売るぞ」という執念を感じます。営業とマーケティング、両方が変わっているのだと思います。

小山副社長:営業のやりたいことが、お客さんだけではなく社内にも伝わるようにもなってきました。もう一段レベルが上がれば、営業が市場から吸い上げた意見を商品に落とし込めるところまでいけると思います。

営業が抱える大きな課題に果敢に挑んだことが今後の経営にもつながる

前列左:第一屋製パン株式会社 取締役副社長 小山一郎様
中央:第一屋製パン株式会社 代表取締役社長 細貝正統様
右:第一屋製パン株式会社 営業本部 営業企画部 副部長 本田 太氏
後列左:株式会社サーキュレーション コンサルタント 野口 隼冬
右:営業体制強化のプロ人材 菊池 明光氏

プロジェクト最大の成功ポイントは経営者自身が意思を持ってプロ人材を活用したこと

菊池:今回は、そもそも経営者が課題感を持ってプロジェクトを立ち上げてくれたことが成功のポイントだと言いましたが、社長自身が検定の場に何度も足を運んで参加してくださっていたのもかなり効果があったと思います。普通の経営者なら出ても1回、1割も満たない参加率でしょう。それでもすごいんです。この点、細貝社長は7割くらい参加してくれていました。経営の意思として検定をやろうと推進してくださったということです。こういう動きがないと、私がいくら頑張っても全く上手くいきません。意思を持ってプロ人材を使い、会社の変革をすることが本当に大事です。

本田:今回、私が菊池さんと一緒にプロジェクトを推進させていただく中では、毎回毎秒、「さすがプロだな」と思わされ通しでした。自分たちがなんとなくわかっているようで曖昧な部分を、資料や言葉を通して明確に表現してくれるところは、やはりすごいです。

菊池:私に質問される人は少しかわいそうなんですけどね(笑)。ちょっと曖昧なことを言うと「それってどういうことですか?」と聞かれますから。

本田:質問することによって相手に気付かせる技術なのだと、途中で感じました。

普通の支援ではPMやアドバイザー、コンサルタント的な立ち位置として入ることが多いのですが、今回はメンタリングやコーチングに近かったのかなと思います。この使い分けは面白いですし、「プロ人材と企業にはこういう関わり方もあるのだ」と、自分としても新しい発見ができました。

営業の今後の働きが、競合他社と差別化を図る多様な商品展開の鍵となる

細貝社長:今後の会社としての展望について少し言及すると、まず、パン業界というのは競合が多く激戦を続けてはいます。一方で、「パン屋」としてはいろいろな生き方があると思うんですよね。パンというメインプロダクトはしっかり展開しつつ、クッキーやクラッカー、ビスケット、ケーキなどの製品も含めて、販売の幅を広げていきたいです。

小山副社長:営業が市場のニーズを吸い上げられるようになれば、今社長が言ったような、パン以外の仕事も作れるようになるはずです。大手競合他社のビジネスモデルを踏襲していたのではなかなか生き残るのが難しくなりますから、いかに異なる戦略を打ち出していけるかにかかっていると思いますね。

社長が持っていた営業組織への危機感をきっかけにスタートした今回のプロジェクト。インタビューさせていただいた皆さんの会話を通して、プロ人材と企業との間に、強固な信頼関係が構築されていることが伺えました。企業としてプロ人材に何を期待するのか、そして自分たちがその中でどのような動きをするのか。この意識があったからこそ、相乗効果で大きな成果が生まれたのではないでしょうか。

本日はお忙しい中、ありがとうございました!

営業組織強化案件におけるまとめ

課題・概要

カイゼン活動が文化になっている生産組織のように営業も課題解決型営業を目指していたが、実際は業務が属人的で営業活動が可視化できておらず、取引先の御用聞き状態だった。そこでアサインされたのが、営業ノウハウの可視化を得意とする菊池さんだった

支援内容

  • 営業とマーケティングメンバーへの1on1
  • 現状の課題の整理とタスクの洗い出し
  • 一気通貫の提案ができる営業資料の作成
  • 営業スキル検定の企画・施策実施・ブラッシュアップ
  • 営業検定の内容を材料とした研修の実施

成果

  • 営業スキル検定の実施と各営業のスキルの可視化に成功
  • 営業の課題が明確化し、改善に取り組むことで新商品の売上伸長に貢献
  • 社歴でなんとなく見定めていた営業スキルが数値化され、次期幹部候補の発掘につながった
  • 営業が市場ニーズを吸い上げることで、感覚値ではなく消費者に寄り添う商品開発フローへと変化

支援のポイント

  • 日本の老舗メーカーは生産体制が整っている一方で、営業組織が弱くなりがち。プロダクトの強さだけに頼るのではなく、営業組織を強化し、市場のニーズを社内に循環させることで社会に必要とされ続けるメーカーになれる。そのためには、多くの経験を持つ営業の外部プロ人材の知見を借りて営業スキルの見える化し、勇気を持って、年功序列から成果型組織への変革をすることが必要である

企画編集:花園絵梨香

写真撮影:樋口隆宏(TOKYO TRAIN)

取材協力:第一屋製パン株式会社

※ 本記事はサーキュレーションのプロシェアリングサービスにおけるプロジェクト成功事例です。

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