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事業承継を見据えた生き残り戦略がなかった印刷会社。企業再生のプロによる差別化戦略とは?

マーケティング戦略
事業承継を見据えた生き残り戦略がなかった印刷会社。企業再生のプロによる差別化戦略とは?

※本インタビュー後、2021年に株式会社セリコへの社名変更と代表取締役社長 芹沢正幸氏への事業承継を果たされ、芹沢良幸氏は会長に就任されています。以降、本文中では当時の社名、役職、表現を採用させていただいています。

3代目社長として事業承継を考えていた芹沢印刷工業の芹沢良幸代表取締役社長(以下:芹沢社長)。自分の代で従来の経営スタイルを変革するために5年以上前からスーパーマーケットに対する付加価値の提供方法を模索していましたが、実践の仕方がわからず悩み続けていました。これを解決したのが、数多の企業再生を手掛けてきた重田博氏(以下:重田)。経営のプロが印刷会社に「売れるチラシづくり」の推進を提案した理由と支援内容を伺いました。

Contents

5年以上抱えていた事業変革への課題。解決の糸口として頼ったのがプロシェアリングだった

芹沢印刷工業株式会社 芹沢良幸代表取締役社長

父が創業した印刷会社を継承。スーパーや薬局をメインクライアントとしてチラシ制作を手掛けてきた

芹沢社長:芹沢印刷工業は父が1966年に群馬で創業した印刷会社で、私は3代目です。長年、スーパーや薬局のチラシ制作・印刷をメイン事業として手掛けてきました。従業員は本社に65名ほど、中国に大連DTPという子会社がありデザイナーが29名所属しています。

父は私が高校2年生のときに病気で亡くなったので、以来経営は母が担っていました。私自身は大学卒業後に東京の中堅印刷会社に就職し、営業マンとして3年間修行をしてから家業を継いだ形です。すでに創業50年を越え、今は息子への事業継承を考えています。

原稿を綺麗に印刷するだけの事業モデルには限界を感じ、息子に承継するにあたり5年以上前から新たなスタイルを模索

芹沢社長:これまでは、顧客から上がってくる原稿をチラシなどの形で印刷するだけでした。原稿がもらえない限りは何もできない事業だったんです。業界全体が縮小していく中で現状が続けば、いずれ会社を継承する息子の代で間違いなく厳しい状況に追い込まれます。どうにかこのスタイルを脱却する方法は無いものかと、5年ほど前から悩み続けていました。

当社は20年ほど前からずっとスーパーマーケットのチラシ印刷の仕事を手掛けていたので、この分野で何とか他社との差別化が図れればと考えていたところ、集客できるチラシ、もしくは効果的な販売促進計画を作れるようになればお客様から評価されそうだという考えに至りました。でも、どのように必要な知識を仕入れたらいいのかはさっぱりわからなくて。スーパーを定年退職した人を採用して教えを請うのはどうだろうと思いつきはしたのですが、タイミング良く優秀な人材を見つけることはできませんでした。

難しい悩みに対して希望を託したプロシェアリング。「適任者がいる」と紹介されたのが重田氏だった

芹沢社長:たまたま足利銀行の行員さんに私の悩みを伝えてみたところ、プロシェアリングがいいかもしれないとサーキュレーションさんをご紹介いただいたのが今回のご依頼のきっかけです。担当コンサルタントの土井さんも親身に私の話を聞いてくれて、信頼できそうな方でした。そしてすぐに「適任者がいますよ」と1万名以上の登録プロ人材の中から探し出した重田さんとの面談を組んでくれました。私の要望に対して、針の穴を通すようなピンポイントの提案でしたね。

面談では重田さんが非常に紳士的な印象の方だったので、まずは一度ご依頼して話を聞いてみようと思いました。

支援は12戦全勝。百戦錬磨の企業再生のプロが重要視する差別化戦略における逆転の発想

重田:私は大手総合商社勤務を経てイトーヨーカドーに入社し、店長や商品部部長職を務めました。退職後はスーパーやドラッグストアなどへのコンサルティング業務、さらには大手スーパーの副社長や飲食チェーンの代表取締役なども歴任しています。現在は企業の再生・再興・再建をミッションとして通算12社を支援していて、全てにおいて成果を出しています。

企業を支援する上で重要視しているのは、『葉隠』にある「水増されば船高し」という言葉です。困難に遭うほど人は成長するという格言のようなものが、そのまま私のスタイルになっています。難しい課題があるほうが仕事としてやりがいがありますし、それが改善されていくにつれて従業員の方々の目も輝いていく。それを見るのが一番の生きがいですね。

今回の芹沢印刷工業さんの案件では、まず芹沢社長ご自身が「チラシか販売促進計画で現状を打破し、一段階上の柱を立てたい」という思いを持っていたのが印象的でした。スーパーマーケット業界は縮小傾向にあり、どちらかと言えばチラシは打たずに売上を伸ばしたいという風潮が強くなっています。私は反対にチラシこそが一番頼りになる存在だと認識していましたから、そこに新たなアプローチを加えるという考えに共感し、お受けすることにしました。

総合マーケティングカンパニーを目指した差別化戦略で重要だったのは企画の提案ではなくソリューションの提供だった

座学と実店舗に赴いた実地研修を繰り返し、スーパーの基本四原則や売り方、商品の売価戦略などを徹底的にリーダー陣に教えた

芹沢社長:重田さんは1年間、月に2回の稼働で座学と実店舗への実地研修をしていただきました。

重田:私の中で芹沢印刷工業さんのゴールイメージは「総合マーケティングカンパニー」です。スーパーの販促費を全て委ねてもらえるくらいの存在になることを目指して支援を進めていきました。

その中で芹沢印刷工業さんはスーパーマーケット業界とのお付き合いはあるものの、スーパーが実際にどのようなオペレーションをしているのかといった仕組みまでは知らないようでした。ですからまずは座学でスーパーについて学ぶべきだと思ったんです。1回あたり5時間ほどかけました。

内容としてはスーパーが事業成長していくために必要な基本の四原則を教えるところからスタートしました。「接客」「クリンリネス」「欠品防止」「鮮度アップ」です。これはイトーヨーカドーグループでも採用されていた手法を、私がわかりやすくまとめたものです。

お客さんとすれ違ったときに挨拶ができないとか、商品が汚いということは当然あってはなりませんし、中でも品切れは最悪です。すき焼きを作りたくて春菊を買いにきたのに欠品していたら「役に立たないスーパーだ」ということになりますよね。たかが品切れでは済まないのです。

鮮度も例えば精肉で言えばD+3ではなくD+1にしたほうが結果として売上は伸びる。スーパーはこういったことに地道な取り組みが必要な業界なのだと説明していきました。

さらに現場でどのような競争が行われているのかを体験してもらうために、社員5名と一緒にマルエツやヤオコーなど計6店舗を訪れました。現場感覚は早めに持ってもらったほうがいいだろうと、支援が開始して一ヶ月後には実地研修をスタートしています。

芹沢社長:ほかにもどういう風に品揃えをして陳列すべきとか、どんな商品を安くするべきなのか、マーケティングはどうすべきなのかといった、スーパーマーケット経営に大事な基本をしっかり教えてくれました。全てが知らないことだらけでしたね。すぐに「重田さんにお願いして間違いなかった」と思いましたよ。

数回の講義で、「企画提案よりもチラシというソリューション提案に舵を切るべきだ」と納得でき、自信も湧いてきた

芹沢社長:最初は年間の販売促進計画という提案ができることに主眼を置いていたのですが、講義を2、3回受けた段階で「商品が売れる、集客ができるチラシを作るほうがお客様に喜ばれるようだぞ」と方向性が見えてきました。それに、講義で教わるスーパーの知識を理解していければ、絶対に売れるチラシは作れると自信も生まれてきたんです。

重田:販売促進計画を作っても、スーパーの担当者はきちんと見ないんです。年末年始が過ぎれば次は節分、ひな祭りとパターンが決まっていて、年間52週の中で何をすればいいのかはわざわざ聞かなくてもわかるからです。

それよりも実際に売れるチラシというソリューションを作ってもらったほうが、業績に直結します。そういう提案をしたほうがいいという点は、かなりはっきりとお話しました。というのも、スーパーのチラシを制作するときはスーパーからこんな商品を載せたいという要望をもらうのですが、それが戦略として間違っていることがあるんですよ。

例えば冬は鍋シーズンですが、野菜コーナーにあるえのき茸なんかをわざわざ安くする必要はありません。安くしなくても売れるからです。にもかかわらず、チラシに載せて安く売り出し、利益を失ってしまうスーパーがあります。スーパーの現場で働いている人も、何が一番売れる品目なのかいまちいピンときていないんです。でもデータを見ていれば、冬ならえのき茸、夏場なら茗荷といったように儲けを出してくれる商品が分かってきます。そこを理解して、向こうがチラシに安くしたえのき茸を入れてきたらこちらから「これは安くしないほうが儲かりますよ」と指摘できるようになることが大きなポイントになります。チラシというソリューションの提案をすることで、結果として販売の企画の提案をするということなるんです。

重田さんを講師としたセミナーを通して、チラシ改善が必要なスーパーに対する働き掛けも実施

重田:芹沢印刷工業さん主催で、私が講師を務めるスーパー向けのセミナーも2回ほど実施しました。全国スーパーマーケット協会経由で参加者を募集し、それぞれ6社程度に参加してもらっています。そこで芹沢印刷工業さんにレクチャーしたようなスーパー経営の四原則など基礎の部分と、実際にチラシを拝見し変更すべき点をお伝えしました。

芹沢社長:実際にセミナーを通して3社と商談継続中です。

成果として残ったのは、御用聞き営業から、コンサルティング営業に生まれ変わった営業担当という人的資産

芹沢社長:重田先生の支援を通して即変わったのは営業の仕方です。これまではスーパーの担当者の方に挨拶をして名刺交換をしたら、「うちは速く、安く、綺麗に作れます」という下請けのような営業トークしかできなかったんです。それが今では、スーパーの経営の仕組みも理解できているので「うちなら売上を10%上げるチラシを作れますよ」というコンサルティングに近いトークができています。営業自身も、堂々とした雰囲気で営業先に向かっていますよ。

重田:まだスーパーのコンサルティングをするところまでは至っていませんが、営業先に対して他社のマーケットプライスを調査した資料を提示できるレベルにまでなりました。スーパーの商品は青果からお酒まで多種多様な部門別の100アイテムが基本になるのですが、営業先の競合店でこの100アイテムがいくらで売られているのか、自分たちの足で全て調べたのです。

当然営業先は「こんなに良い資料を作ってくれたのか」とグッと心を掴まれます。100品目のトータル価格を見たときに自社が1万5000円で他社が1万2000円だったら勝つための対策が必要ですし、データをもとに何を安くすればいいのかもわかります。その上で「こういうチラシにしたほうが良いですよ」と提案をするわけです。社長も社員も一緒になってこういった提案に取り組み、実際に成果が生まれています。

そういう意味では芹沢印刷工業さんは非常に素早く前向きに行動をしている点がいいですね。真摯に企業改革を進めようとしています。

今後は高価な印刷機ではなく、知識の有無こそが企業の価値を高めていく時代

芹沢社長:ご支援いただいた1年間で、これまで全く知らなかったスーパーマーケットの基礎知識を教えていただいてありがとうございました。本当に大満足です。今後も支援は継続していただく予定ですから、勉強は続けながら実践に結び付けられればと思っています。どうぞよろしくお願いします。

また、会社の殻を破りたいシーンにおいてプロシェアリングは良い方法だと実感しました。売上が右肩上がりの会社なら現状の手法でいいと思うのですが、多くの会社は苦戦していますよね。印刷業界にも昔は大きな印刷機さえ購入すれば売上が伸びる時代がありました。実際、6億円の印刷機を買ったら2年で売上が2倍になったこともあります。機械が人気を集めていたんです。

でも今は、知識が評価される時代です。知識があるからこそ信頼されることができますし、社員に夢を語ることもできます。それが定着率にもつながるのではと思いますね。今は私が主導して、重田さんから教わった内容をほかの社員にもどんどん教育しています。

重田:みなさん真面目ですよ。私の講義を受けてから社員の方々が実際に自ら現地に赴いたりもしていて、私と改めて実地に行くときに「こういう商品があるんですよ」と話してくれます。非常に前向きに動いてくれるのでうれしいです。縮小傾向にある業界から新たな一歩を踏み出せている印象ですから、ぜひこの勢いのまま成長してください。

今回の案件もそうなのですが、サーキュレーションさんは銀行や信用金庫とのネットワークを持っていますから、困っている企業があればどんどん教えてほしいです。実際、私が顧問として入ることで再生できる企業はもっとたくさんあるはずです。それはプロシェアリングというサービスが社会に貢献できる一番のポイントでもありますから、どんどんプロ人材と企業をつなぐ機会づくりをしてくれればと思います。

5年間もの歳月を悩み続けていた芹沢社長が求める知識を的確に授け、企業が進むべき方向性まで示した重田さん。「変わりたい」という強い思いが行動にも現れ、着実な経営スタイル改善に結実したのだと感じました。

本日はお忙しい中、ありがとうございました!

印刷会社の企業再生案件におけるまとめ

課題・概要

会社を息子に引き継ぐ前に、競合他社との差別化を図るためにも現状の事業スタイルから脱却したいと考えていた。5年前からスーパーに対する売れるチラシづくりや販促のコンサルティングをアイディアとして思いついてはいたものの、知識の仕入れ方や実行に移す方法がわからなかった。適した人材も見つからずにいる中、重田さんがアサインされた

支援内容

  • 社長を含めた5名の社員に対して、売れる売り場づくりやPOSデータの見方など、スーパー経営の基本について講義を実施
  • 実際に現場を見て回り、講座で学んだことを実地研修
  • 重田さんが講師となり、芹沢印刷工業主催のスーパー向けセミナーを数回実施し新規顧客を開拓

成果

  • 4代目の息子に承継するにあたり印刷機ではなく知識で勝負する「総合マーケティングカンパニーになる」という方向性が見えた
  • 顧客に対して単純にチラシ制作のコストや速さをアピールする御用聞きスタイルから、「売上が伸びるチラシ制作をしませんか?」という付加価値を提供するマーケティング提案に自社の強みを変えることができた
  • 営業担当たちも、自分たちにスーパーの経営に関する知見が付いたという自信から積極的な提案活動ができるようになった

支援のポイント

  • 次の世代が継ぐにあたり、魅力的な会社であることは重要だが現状脱却の実現は思うようにいかないもの
  • そんな時には、同じように経営経験があり企業再生の経験も豊富に持つ敏腕経営者のアドバイスが背中を押してくれる
  • 経営目線を持った新たな提案を行うことで、新たな価値提供をするためには、長年その業界の現場と経営に携わったプロ人材の知見をインプットしてもらうことが非常に有効
  • 特にレガシーで縮小傾向にある業界は知識を身に付け勝負していかないと勝てない。社長自身に知識があれば社員に夢を語れるようになるので、社員にも良い影響が広がる。

企画編集:新井みゆ

写真撮影:樋口隆宏(TOKYO TRAIN)

取材協力:芹沢印刷工業株式会社

※ 本記事はサーキュレーションのプロシェアリングサービスにおけるプロジェクト成功事例です。

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