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中小・ベンチャー企業の生存戦略には欠かせないSDGs〜国連出身SDGsコンサル・サステナビリティ推進責任者・大手メディアの視点から、企業とSDGsの本質を考える〜

SDGs
中小・ベンチャー企業の生存戦略には欠かせないSDGs〜国連出身SDGsコンサル・サステナビリティ推進責任者・大手メディアの視点から、企業とSDGsの本質を考える〜

世界中で「持続可能な社会」を目指す動きが当たり前になろうとしている昨今、SDGsの取り組みの実行有無が、”企業変革と発展の機会”にも、”レピュテーションリスク”にも、”生存戦略にも繋がる”とも言われています。とはいえ、まだまだ実態が見えづらい中で、企業経営者はSDGsについてどのように考えていけば良いのでしょうか。本記事では2019年10月に行われたパネルディスカッションを基に、中小・ベンチャー企業がSDGsに取り組むメリットや、これからの経営のあり方についてご説明します。

青柳 仁士氏

青柳 仁士氏

一般社団法人SDGsアントレプレナーズ代表理事
国連開発計画(UNDP)、国際協力機構(JICA)、プライウォーターハウスクーパース株式会社(PwC)、Japan Innovation Network等を経て現職。SDGs開始年の2016年に国連職員として日本のSDGs普及の広報官を務める。大手企業を中心にSDGsをきっかけとしたオープンイノベーションの戦略立案・実行を支援。

掛川 家信氏

掛川 家信氏

元リコー環境サステイナビリティーアドバイザー
リコー米州統括会社副社長として、環境経営推進をリード。対外的にも、この面の国際会議や大学などでの講演発表多数。社外の産官学民と協働し、リコーは国際的に環境経営に強い会社と認識させた立役者。世界環境センター理事、米国IT機器業界団体理事なども経験

鵜飼 誠氏

鵜飼 誠氏

朝日新聞社マーケティング部次長
戦略的財務スキルを軸に2009年以降、携帯向けニュース配信事業、電子書籍配信のJV設立、「朝日新聞デジタル」創刊に関わる。2014年10月にはチームでメディアラボ渋谷分室を立ち上げ、年間数十のイベントを開催しながらエンタメ、教育、ITなどのコミュニティーを温めてマーケティングにつなげている。現在、マーケティング部でSDGsのコミュニティ、オウンドメディアの企画・運営を行う。月一で渋谷のラジオで「渋谷のSDGs」パーソナリティーも。直近では新聞連載「小説 火の鳥 大地編」プロジェクトに参加中。

信澤 みなみ

信澤 みなみ

株式会社サーキュレーション ソーシャルデベロップメント推進室 代表
2014年サーキュレーションの創業に参画。成長ベンチャー企業に特化した経営基盤構築、採用人事・広報体制の構築、新規事業創出を担うコンサルタントとして活躍後、人事部の立ち上げ責任者、経済産業省委託事業の責任者として従事。現在は、企業のサスティナビリティ推進支援を行うソーシャルデベロップメント推進室を立ち上げ、企業のSDGs推進支援やNPO/公益法人との連携による社会課題解決事業を推進。

SDGsとは「一線を超えずに人類が進歩を続けるための世界が目指すべき方向性」

青柳:私は日本の政府機関や国際機関で長年SDGsと名の付く前からのグローバル・イシューに関わってきましたが、SDGsの発足以後、世界的にも日本でも関心が強まっていますね、改めて本日はSDGsの基本的な概念から振り返って話を進めたいと思います。

まずSDGsとは?の基本理解から説明をする、元国連開発計画SDGs普及担当広報官の青柳氏

SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されます。この「持続可能」というのは直訳的な「効果が続く」という意味もありますが、本質的には政治や社会、経済、環境の限界線を超えないという意味です。言い換えると、戦争や恐慌、生存不能な環境破壊などを引き起こさないということなんですね。次に、「開発」とは何かというと、人類の進歩。たとえば経済の成長、人口の増加、技術の革新、あるいは文化の興隆といったことです。

つまり、「持続可能な開発目標」とは何かというと、限界線を超えずに、人類が進歩を続けるために、世界が目指すべき方向性ということなんですね。よく「SDGsは野心的なゴールだ」と言われますが、そうではなくて現在の人類の進歩のやり方を続けていると、世界は限界線を超えてしまいますよと。このことに193の全国連加盟国が首脳レベルで合意をしたという事実が、非常に重要です。

SDGsの17のゴールにはそれぞれターゲットがあり、たとえば「2030年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる」など、より具体的に書かれています。ここで気づいていただきたいのは、今、実際に「1.25ドル未満で生活する人々」が世界人口の10人に1人もいるという事実。それぞれのゴールやターゲットは裏返すと、世界の現状や課題が見えてきます。

SDGsの原文は総務省が日本語に訳していますから、Googleで検索すればすぐに出てきます。今日は時間の関係で説明しませんが、先ほどの17ゴール169ターゲットの他にも大事なことがいろいろと書いてあるので、取り組むときに一度は読んでいただく方がいいかと思います。

日本におけるSDGsのフェーズ

高まるESG投資への関心〜サステナビリティへの取り組み有無が投資先・取引先として選ばれるかどうかに影響し始める〜

信澤:実は国連が出しているSDGsの文書の冒頭には、「in larger freedom」と「well-being」を実現するとあり、要は人がより良く生きる、自分の可能性を広げて生きるということを実現するためにこの目標に全世界で取り組みましょう、という壮大な目標であることが書かれています。

とはいえ、壮大な目標を前に、「当事者意識が本当に持てるのか」「企業が取り組む意味はあるのか」という疑問も多く聞こえてきます。核心に迫っていくために、青柳さん、まずは企業に対してSDGsへの取り組みが要請されている理由や背景をお話しいただけますか。

SDGsを前に当事者意識を持って取り組む必要性は?と参加者を代表して問いかける、サーキュレーション ソーシャルデベロップメント推進室 信澤氏

青柳:SDGsが今までのソーシャルなブームとは大きく違う点は、目標として掲げられているだけでなく、実行するための社会構造の変化が進んでいる点です。SDGsやサステナビリティに関して各国で数々の指標や規制ができ、市場のルールも変わってきています。知っているかどうかにかかわらず、ESG投資、つまり環境(Environment)、社会(Social)、企業統制(Governance)を始めとして、企業はそのルールのもとで競争しなければいけない環境になってきています。

また、最近はESG投資、つまり環境(Environment)、社会(Social)、企業統制(Governance)にきちんと取り組む会社を株式市場で評価しようという動きがものすごく進んでいます。主要な格付け機関による評価方法は7種類ほどありますが、共通しているのは評価のあり方です。アンケートやヒアリングも行われますが、外に出しているレポートで評価されたり、そもそも出していないと「開示性が低い」と評価されたりしているので、良い取り組みをしているのに適切に開示できていない企業は注意が必要ですね。ただし、ESG評価は評価サイドの能力向上も課題なので、これからまだまだ変わっていくと思います。

社会構造として、投資先の選定や、入札に参加できるサプライヤーあるいは取引先候補の選定に、SDGs的な評価基準が入り込んできています。しかも、ここ2〜3年でそのスピードがどんどん速くなってきているというのが現状だと思います。

信澤:なるほどですね。サプライヤーや取引先の選定に置いて、例えばどのような点が評価対象になるのでしょうか?

青柳:現状ではESG投資の評価機関によって評価基準がかなり違うので、一概には言えません。あくまで参考までに、大まかな例として挙げれば、製品の製造過程において大量のごみを出したり、大量のエネルギーを使用したりしていないか、あるいは不当に人件費を安くしていないか、そして製品がサステナブルな社会に貢献するものになっているかなどです。

学生やメディアも企業の取り組み状況に注目

信澤:今度はメディアの観点からみるSDGsについてもお聞きしたいです。

鵜飼:私は朝日新聞で「2030 SDGsで変える」というメディアを運営しています。新聞社として、2017年から半年ごとに東京、神奈川を対象としてSDGsの認知度調査を行っています。2019年8月の最新の調査で認知度が初めて20%の壁を超え、27%に達しました。注目すべきは年代の内訳です。認知度が高い年代から、15歳~29歳、30代、そして40代という順番でした。15歳~29歳の約3割は認知しているという結果から、SDGsに関心が高い若年層が増えているという認識が私たちにはあり、企業はSDGsへの取り組みをきちんとやらなければ人材獲得においても生き残れないと感じています。

信澤:学生からも見られているんですね。「2030 SDGsで変える」では、どのような取り上げ方をし、どのようなムーブメントを起こそうとされているのでしょうか。

鵜飼:現在は「伝える」というところからもう一歩先に進み、共に考え共につくるような取り組みを目指しています。地球規模の問題である環境、経済、災害、働き方の問題と並行して、身近な取り組みでも「ひょっとしたら世界につながっているかもしれないよね」というものを掘り出して伝えています。そうすることによってSDGsにつながる第一歩が身近にあることを感じられるようになり、問題の解決に真剣に取り組む方々への共感も生まれるんじゃないかと。そうした考えから、新聞やWebメディアでSDGsに特化した企画・運営を行っています。

信澤:SDGsは世界的に取り組むものという前提で発信し、考えるきっかけを与えていこうという動きが進んでいるんですね。

企業がSDGsへの取り組みを求められる理由

リコーはなぜ早期からサステナビリティへの取り組みを始めたのか

信澤:一方で、企業のみなさんの中には、メディアからの情報を得て認知はしているけれど、そこから自分たちが何にどう取り組めばよいかわからない、という方もいらっしゃるのではないかと思います。リコーで長年SDGsに取り組まれてきた掛川さんにお聞きしたいのですが、リコーさんでは「環境経営」というキーワードで、SDGsが盛り上がる相当前の1998年頃から先進的に取り組まれていましたよね。どのような背景から取り組みが始まったのでしょうか。

掛川:もともと私どもには、企業として社会に新しい価値を提供し、社会の変革や持続的な発展に寄与できるような責任を果たしていこうという考え方があります。ですが過去には、海外の先進企業に比べるとサステナビリティに対する日本企業の経営陣の温度がまだ低いという時期もありました。

こうした危機感から、これから先の2050年までを見据えたビジョンを大学の先生に協力いただきながら描いてみることにしたんです。2050年には世界の人口は90億から100億人になっていることが予想されますから、発展途上国を中心にこのまま経済発展を続け、大量のエネルギーや食糧を消費していくとなるとサステナブルではありません。まさに一線を超えてしまい、エネルギーや食糧をめぐって国と国とが壁をつくる可能性があるんですね。

我々企業は、大手500社(Global 500)ほどを集めただけで世界の主要国の国家予算総額をオーバーするレベルの経済力を持っています。* そんな我々だからこそ、今までのビジネスモデルではなく、社会を変えていけるような技術、ビジネスのやり方を模索していかないと、これから先企業が社会から歓迎されない。そうした考えのもと、2006年に「環境負荷を2050年までに8分の1にする」という目標を立てました。当時は夢物語と言われましたが、今やゼロ・エミッションです。         *https://fortune.com/global500/

信澤:なるほど。事業戦略としてどうとらえるか、というところを早くからやっていらっしゃったと。

掛川:はい。取り組みを始める際は、主に欧州の先進事例も見ながら、2050年のあるべき将来を見据えて我々はこれから何をしなければいけないのかというところに立ち返りました(バックキャスティング)。省エネ、省資源やリサイクルができるような設計をあらかじめしておく、製品を回収してリサイクルの体制を整える、など。結果的にそれが、企業価値や社員の働きがいにもつながっています。

主要顧客からの要請で取り組みを開始するケースも

青柳:BtoBにおいては、顧客の意識の変化が取り組みの背景となるケースも多いです。私が支援させていただいたとある大手メーカーさんの場合、SDGs導入の背景には売上のかなりの部分を占めるSDGsやESG投資に積極的な大手自動車メーカーさんの動きがありました。たとえば「うちはSDGsに取り組むので、ちゃんとやっていない企業とは取り引きしません」とか、あるいは「サプライヤーを選定する際に差をつけます」となったらまずいぞ、とサプライヤーは考えるわけです。

取引先として選ばれる観点でのSDGsへの取り組みの重要性を説明する青柳氏

特に上場企業の間ではこうした背景からSDGsの認知度が上がっている部分があり、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の調査によると、2018年は上場企業の8割超、2019年はなんと96.7%もの企業がSDGsを認知しているという結果が出ています。

世界トップクラスの機関投資家GPIFもSDGs/ESGの観点で投資判断をするようになった

信澤:今まさにESG投資が進んで日本の金融市場が変わってきていますが、その背景にGPIFの存在も関わっていると思いますので、もう少しGPIFについて補足していただけますか。

青柳:GPIFはいわゆる日本の年金の運用をしている機関で、2018年度末で約159兆と莫大な残高を保有している世界最大の規模を誇る投資機関です。世界第2位のノルウェーの年金基金の残高が日本円にして40兆円くらいなので、いかに大きな金額かがわかると思います。

日本のESG投資が進んだ最大の要因は、このGPIFがPRI(Principles for Responsible Investment、責任投資原則)という2006年にコフィ・アナン国連事務総長が立ち上げた国連のプログラムに2015年に署名したことが大きいと思います。このPRIというのは、簡単に言えば、投資家に対して「私はE・S・Gにきちんと取り組む会社にしか投資しません」という誓約書にサインさせるというプログラムで、個人投資家、機関投資家の両方が対象となっています。ESG投資は今やSDGsの大きな推進力になっているわけですが、SDGsとESGはもともと別々の歴史を持つ潮流でした。ESGやSDGsの成立過程をちゃんとフォローしてきた人からするとやや強引なやり方という感はあると思いますが、この2つの概念を一体のものとして繋げたのはGPIFのリーダーシップによる功績と言えると思います。

GPIFがPRIに署名したことにより、上場企業がESG投資への配慮が進んだ

この世界トップの運用金額を有するGPIFがPRIに署名したことで、GPIFに関わる投資家たちの投資基準も変わっていく。上場企業がESGを意識しだすきっかけにもなっていると言えるかもしれません。

SDGsへの取り組みは「生存戦略」

信澤:GPIFがPRIにサインしたことをきっかけに、上場企業をはじめとしてESG、SDGsの取り組みをやらなければという流れになり、お付き合いする取引先の選定も始まっているということですね。

掛川:GPIFは最後の巨人であって、欧州やアメリカではとうの昔にこういったことをやっていました。だから、国内事業を展開している人にとっては「嵐が来たぞ」みたいな話になっていますが、グローバルに事業を展開している企業にとっては「やっと来たか」という感覚です。

トヨタさんや私たちなどのグローバルに展開している企業は、まず会社がどういう行動規範を持っているかをチェックされ、さらに「じゃあサプライヤーに対してはどうなんですか」と問われます。つまり、サプライヤーコードオブコンダクト(取引行動規範)が要求されるんです。

我々の業界ですと電子情報技術産業協会のサプライヤーさんにお願いする行動規範があるんですけど、アメリカは一歩進んでいて、サプライヤーさんの取り組みの過程をどう検証しているかということまで要求されます。*それに応えるためにはキャパ的サプライヤー数をむやみに増やせません。 認定サプライヤーに選ばれるために、サプライヤー企業がSDGsの取り組みを強化するのは、やっぱり生存戦略というわけです。

信澤:なるほど。日本の製造業界には中小企業さんもかなりの数ありますし、大企業だけでなく中小企業にも関係してきますね。

*参考:

リコーの場合:

https://www.ricoh.com/-/Media/Ricoh/Sites/com/sustainability/databook/pdf/esg_databook.pdf#page=30 

IBMの場合:

https://www.ibm.com/ibm/environment/supply/principles.shtml

どのように取り組みを発信していくべきなのか

優れた企業のSDGsレポートを参考にするのも手

信澤:先ほど、格付け機関がヒアリング調査に来てくれないというお話がありました。そんな中、各社どのように情報を出しているのでしょうか。具体例がありましたらお願いします。

青柳:格付け機関によって評価方法が違うので、これが絶対というものはないんですが、いい会社のマネをしてはどうかと。たとえば、東洋経済新報社が発表している「CSR企業ランキング」で1位のNTTドコモさんのSDGsのCSRレポートや、日立さんの統合報告書、トヨタ自動車さんのサステナビリティ・レポートなどは秀逸で、ウェブ上で無料で入手でき、一読の価値があります。これらのレポートはものすごく隙がないのですが、そこまでの余裕がないという会社さんは、それぞれの格付け機関が業界基準などさまざまな情報を公開しているので、それを参考に対策することもできます。単純に評価を高めるためにやるのは本末転倒ですが。

掛川:格付け機関は多いので、全てに対応するのは大変です。そこで、どこに対応するのかを決めてしまうのも1つの手だと思いますね。“Rate Raters”*といった評価機関を評価する機関もありますので、それを見ながら最も影響力のある機関に決めるのも良いと思います。

https://sustainability.com/rate-the-raters/

昔はこうした投資家向けの情報発信というのは環境部門に任されがちでしたが、格付け機関の調査員はいろいろな企業を評価して目が肥えているので、生産部門に関する質問であれば生産部門の人が回答するなど、組織全体で対応しなければいけません。

SDGsには組織全体で対応する必要性を説明する、リコーOB掛川氏

信澤:サステナビリティに関して、メディアではどのような企業が取り上げられるのでしょうか。注目されている事例などはありますか。

鵜飼:環境などの話にマーケティング的に刺さる面白さを加えたり、ストーリーとして考えたりすることが必要なのかなと思います。たとえば、日本環境設計さんが衣料品回収を店頭で行うBRING(旧FUKU-FUKU)の仕組みをインパクトを持って拡散させるために行ったGO!デロリアン走行プロジェクトは伝わる力を持っていました。同社は使われなくなった衣類の、綿はバイオエタノールに、ポリエステルは原子成分まで分解してまた同じポリエステルにリサイクルする技術を持っています。持っているだけでは社会は変わりませんが、エンタメをフックに消費者の心に訴えかけ、参加型の循環社会を意識する体験として提供することで仲間を増やしました。

どんな形で伝わるようにするかっていう工夫は企業の中でも必要で、私たちもそういうところに注目しています。「これを取り上げたらみんなに今まで伝わらなかったことが自分ごととして伝わるかもしれない」と思ったら、メディアは飛びつくんじゃないかなと思います。

これから始める際のファーストステップとは

まずはSDGsと経営戦略の統合が第一条件

信澤:ここからは、実際に企業が取り組む上でどんなことを考え始めればいいのか、伺っていければと思います。青柳さんは外部プロ人材としていろいろな企業の支援に入られていると思いますが、取り組みがうまくいっている企業とはどのような企業なのでしょうか。

青柳:重要なポイントは、次の時代を担う期待感をその企業さんが持ってもらえるかどうかです。というのは、SDGsが盛り上がっている背景には、間違いなくGoogleなどを始めとするスタートアップブームがあります。プロシェアリングもそうですが、AirbnbとかUberとか、次の時代はこういうビジネスモデルが来るんじゃないかという期待感がお金や顧客を集め、一気に有名化してくっていうのが現代の特徴なんですね。

SDGsというのは、まさに次はどういう時代になるのか、どういう世界になるのかというのを描いているものなんです。自社の方向性なり製品なり生産プロセスなりが、外部の優秀な人材、顧客、株主などからの期待感を集められるかどうかっていうところでSDGsは使い勝手がいいというか、うまく使っている企業さんは使っているなという気がします。

信澤:すごくわかりやすいですね。実際に取り組みを進める際には、まずどのようなステップを踏むのでしょうか。

青柳:まずは経営の統合です。SDGsを経営戦略に取り込んでいかない限りはやっぱり進んでいかないので、それは第一条件として必要です。

信澤:SDGsの取り組みは、すぐに利益につながる部分が見えにくいと思うのですが、どんなところをメリットとらえて経営に取り込んでいけばいいんでしょうか。

掛川:一般的に、環境技術工場などに投資するにあたって、同様の理由からCFOの承認が得にくいという状況がありました。そうした時には、外部がいかに省エネ製品を欲して評価してくれているかを体感してもらうというのが私の戦略でした。

たとえば、アメリカの環境保護局(EPA)に協力して開発された画像機器ののエネルギースタープログラムで、年間優秀パートナー賞に選ばれた際は、ワシントンD.C.で開かれる表彰式にトップにも来てもらいました。EPA長官をはじめ、現地で「すばらしい」と言われると、トップもこんなに省エネへの関心が高まっているのかと目からウロコが落ち、理解が得やすくなります。

また、先進企業の同じ立場の人は何を考えて投資を決めているのかというのをレポート*について紹介するというのも効果的です。

*参考文献:CFOs and Sustainability (私が理事を拝命していた世界環境センターの事例レポート)http://www.wec.org/cfos-sustainability-new-wec-corporate-eco-forum-report

SDGsの経営への統合について、経営陣の理解の得方を説明する、リコーOB掛川様)

明日からできることとは

信澤:最後に、具体的に明日から何を取り組めばいいのかというところをお伺いしていきたいと思います。中小企業や製造業ではない企業も含め、どのような取り組みをしていくべきなのでしょうか。

青柳:社会全体で構造を変えていかなければいけないよねというのがSDGsであり、きちんと共感して取り組んでいる企業や消費者は世界で見ると結構多いんですよ。そこを理解してきちんとやっていくかどうかが重要で、表面的な取り組みでは顧客も投資家も従業員すら騙されません。自社が世界全体の共感の輪の中にちゃんと入っているのか、世間を見ながら自社の商品や活動をとらえ直していくことが重要だと思いますね。

鵜飼:メディアだけでなく、顧客の目が肥えてきているというのを私たちもひしひしと感じています。だから自社がどうあるべきかもそうですし、組織としてどうあるか、従業員がどうあるかっていうところにまで目を向ける必要があると。

SDGsってグローバルな言葉だし、地球ごとですよね。それに取り組むって、ものすごく厳しい道なんですよ。なので、地球ごとと自分ごとが重なる部分を見つけ、ご自身あるいは周りの方と取り組みをしていくと。そうすれば、組織として裏表のない状態でSDGsの取り組みを表現する基盤ができるんじゃないかと考えています。

掛川:リコーの経験からすると、環境に良いことをしているのに気づいていないだけの企業もあるように感じます。環境視点、サステナビリティ視点、社会視点から見つめ直し、たとえ小さな部品であっても社会貢献につながっていることに気づけると、モチベーションが上がって良い仕事ができるようになりますし、サステナビリティへの取り組みにも力が入ります。ですから、そういう視点で1回振り返ってみることをおすすめします。

その時に、外部の知恵を借りるというのは1つの方法ですよね。当たり前だと思っていた自社技術でも「こういうところに応用したら、こんな良いことがあるんじゃないか」というような話が出てきたりします。

明日からできることについてディスカッションする登壇者

信澤:社会から言われているからやる、ではなく、自社の社会的存在意義をどう持ちたいかを見直す、まさに自身のあり方を問うていくのですね。

本日のセッションを通じて、SDGsには具体的にこれをやったら正解と言えるものがなく、言い換えると、オープンクエスチョンで、会社ごとにこの10年先、もっと言うと30年先の社会を考え、自分たちがどうありたいか、そのために今何をしていくかを考えることが求められているということがわかりました。

まずは自社の事業の社会的存在意義を改めて考えていく。その次のステップとして、どんなことに取り組んでいけるのかという今後のアクションを考えてみると。そうした足元の利益や現在の延長線上ではなく、長期ビジョンを見据えた上で今を捉え直すことが必要だと感じました。

また、持続可能な経営を実現することは、持続可能な社員の幸せを実現することにも繋がっていきますよね。そういった意味でも、企業が自社のあり方を見直していくことが、顧客や取引先そして社員からも選ばれ続ける会社であり続けることにも繋がるのだろうと感じます。

忘れてはいけないのは、原点はSDGsに取り組むことが目標ではなく、我々の世界を変革させる・一人ひとりがより良い状態で生きれる世界をつくるための目標であるということ。

一社一社、そして私たち一人ひとりが自分ごととして考え、取り組むことで、持続可能な社会とその先にある人類の幸福の実現に繋げていきたいですね。

本日はありがとうございました。

まとめ:業界・企業規模を問わず、SDGsへの取り組みは、企業の生存戦略であり、持続可能な経営と社会の実現には欠かせないものである

パネリストのみなさんにはSDGsを取り巻く状況から、これから取り組むにあたってどのようなアクションを起こしていけばよいのかといったことまでを具体例とともにお話しいただきました。

トヨタのような大企業の例も挙がりましたが、SDGsへの取り組みが求められるのは決して大企業だけではなく、大企業のサプライチェーンに含まれる数多くの中小企業、そしてもちろん製造業以外の企業も例外ではありません。

スタートアップであっても優れた取り組みは注目されますし、逆に実績ある大企業であっても取り組みが遅れれば取引先として選ばれないという可能性もあります。SDGsへの対応はまさに「生存戦略」として欠かせないことであり、あらゆる企業が着実に取り組みを進めていくことが求められています。

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