変革期を迎えた有線放送業界で第二位の企業。スタバ・急成長ベンチャーで経験を積んだ人事コンサル中島篤氏が離職率を低下させた、新人事制度とクレドの浸透や抜擢人事とは??
創業から半世紀にわたり、店舗向けBGMサービス(有線放送)を提供してきたキャンシステム株式会社。社内で組織を変革したいという思いが強まる中、新しい人事制度やクレドの浸透のために伴走したのが人事コンサルタントである中島篤さん(以下:中島)です。老舗エンタメ企業がどのような変化を遂げたのか、プロ人材がどのような影響を与えてくれたのか、中島さんと板垣貴之取締役(以下:板垣取締役)に伺いました。
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年齢層が高く、上司の背中を見せて育てるような会社風土。変化の足がかりとして作成したクレドの浸透施策に悩んだのが依頼のきっかけ
店舗課題に対する、自社ツールを用いたソリューション提案を事業のコアとしていたキャンシステム
板垣取締役:当社は店舗向けBGMサービスを主力事業としていますが、今後は防犯カメラサービスに事業の主軸を移していきたい意向があります。ただ、事業のコアとして据えているのは店舗オーナーさんが気づいていない芯の課題にまで踏み込み、各種ツールを用いた提案によって解決することです。
そのために作成したのがクレドで、「店舗運営のコンシェルジュ」に必要な7つの資質が記載されています。お客様を思いやる力、お客様を知る力、相手本位のヒアリング力、失敗を恐れず挑戦する力、主体的に巻き込む力、積極的に伝える力、最後がこだわる力です。これらのクレドを通じて、社員の文化醸成を行っています。
新卒採用の再開をきっかけとして、組織編成や会社風土、育成手法にいたるまで変革したかった
板垣取締役:中島さんに協力いただいたのは3年前からで、次の50年を創るために十数年ぶりに新卒採用を再開したタイミングでした。2017年卒の入社に合わせて、会社に確固たる理念が必要だと感じて生まれたのがクレドです。もともと「快適な店舗環境の創造」という理念があったのですが、それをさらに紐解いて「コンシェルジュになる」という方針を打ち出しました。
また、これまでは「俺の背中を見ろ」という風土が強く、育成は「とにかく現場に行くこと」を主眼に置いていました。社員の年齢層も高く、今の時代に即した人材の育成方法が必要になったいたので、新しい理念で会社の根幹を作り上げ、それを基に育成に取り組めればと思いました。若手に活躍してもらえる体制に変えていこうとしていたのです。クレドの作成は既に終えていたので、そこからどう全社的に浸透させていくのかが中島さんに最初に相談した部分です。
中島:当時、工藤社長に「特に危機感を感じている課題領域は何ですか」と質問をしたときは「全部です」というお答えでしたね。社長とは、組織のあるべき方向性や新陳代謝をどう促していくのかという課題についても深く議論しました。現在の50代後半の上層部メンバーはこれまでの貢献度が高い一方で、今後は40代を中心として会社の次の10年を作っていかなければならない。次世代をどう育てていくのかいう観点で組織を変えていく必要がありました。
選択肢は多い中、得意分野や強み、何より性格的な相性が決定打となり日本進出間もないスターバックスや、急成長後IPOに成功したITベンチャーで人事を経験した中島さんに依頼
板垣取締役:防犯カメラサービスがトップセールスを取れずにいたことを課題として感じていた際にも実務経験のある外部のプロ人材の力を借りた事があったので、プロシェアリングについては一定知識がありました。それとは全く別軸の課題として経営戦略を組織にどう落とし込むかで悩んでいました。
当時は別のコンサルティング会社も利用していましたが、財務系が得意で組織系の支援をしてもらうイメージがありませんでした。そんな中で、プロシェアリング支援会社から中島さんを紹介してもらったのですが、中島さんに依頼した一番の決め手はキャラクターですね。もちろんプロフィールシートを拝見して、課題に対する合理的な考えを持った上で、実態に即したプロセスを描くのが得意という経験がマッチしていると感じた部分もありますが、面談で性格的にも非常に相性が良さそうだと感じたのです。今から振り返ると、組織課題に対する施策はスパンも長く、また深い関わり合いになったので、スキルは当然ですが、長く一緒にやれそうかどうかというキャラクター面を重視して本当に良かったです。
経営者の壁打ち相手として課題の本質的な解決に臨む中島さんが支援を決めた理由は、企業と共に50を100にするエキサイティングさ
課題に合わせた施策の展開、ブランディング、人員のアサインまで、会社に合わせた長期的かつ多角的な支援が得意
中島:私の強みは組織人事全般への幅広い支援です。制度を作ったり採用施策等の打ち手も行いますが、経営者のメンターとして壁打ち相手を務めながら組織の課題を抽出し、問題点に沿った施策、ブランディング、人員のアサインを考えることを最も得意としています。
支援は本質的な課題に対してどうお互いの価値観を共有し、どう会社の形に合わせて施策を発信・運用するのかという部分を大切にしているので、短期間で何かをぱっと改善するのではなく、できるだけ長期的に伴走する形が望ましいと思っています。キャンシステムさんでは、私自身も多くの気づきを得ながら3年間取り組ませていただけました。
支援を決めた背景にあったのは、自分の持っているノウハウを遺憾なく発揮できてるという打算と、現状に甘んじない企業の本気度の高さへの共感
中島:キャンシステムさんに協力したいと思ったポイントとしては、打算的な部分と、思いの部分があります。打算としては、自分が持っているノウハウとキャンシステムさんが求めているキャリアがフィットしたことです。お互いが持っているものを競い合って100を105にするよりも、50を100にする方がエキサイティングですし、可能性も広がります。大きい成果も出しやすいですしね。何をどう組み合わせて提案すればどんな結果が出るのかというパターンもある程度見えていました。
思いの部分としては、板垣さんや工藤社長をはじめとしたメンバーが、本気で組織をどうにかしたいと思っていると感じた点が大きいです。キャンシステムさんは今のままでも売上は年間数十億あり、社員も数百名、そして50年続いている会社です。明日潰れるような状態ではありませんから、同じ条件なら現状維持を選ぶ企業も世の中には多いはずです。それでも変革への本気度が高かったので、私も本気で提案して関わらせてもらおうと思いました。
現場のキープレイヤーにクレドの浸透を促し、抜擢人事の後押しも行った手腕
経営陣が作った人事評価制度やクレドの現場浸透のカギは、ポジティブワードを引き出しながら共感値を高めること
板垣取締役:中島さんにはまずは全国規模の会議の場で、クレドの意味や他社事例を共有してもらいました。
中島:これは支援に入ってわりとすぐの段階ですね。そもそもクレドと言われても従業員はピンときませんし、専門家の間ですら定義が必ずしもイコールになっているわけでもありません。そこで、まずはクレドとはこういうものだという説明をしっかりしたわけです。
難しかったのは、私自身がクレドを作成するプロセスを見ていなかったので、現場のキープレイヤーにどう腹落ちしているのかが読めない中での説明となったことです。現場の幹部からしてみたら「社長たちが勝手に作ったものだ」という認識かもしれなかった。どう転んでも良い形で浸透策を考えるのは、若干工数がかかりました。実際にキープレイヤーに話を聞いてみると全員が腹落ちしているわけではなさそうだったので、そこからは共感値を高め、ポジティブワードを引き出す方向にシフトしましたね。人は否定しようと思えばどんなことも否定できてしまいますから。
板垣取締役:実際はクレドではなく評価制度の説明会という形だったので、フィードバック方法や部下との面談の仕方、定性的な目標の立て方、コミュニケーションの取り方などの説明部分も多大に支援いただきました。
中島:役員研修や合宿もやりましたね。稼働頻度は最初こそ週に1回の対応でしたが、しばらくすると間に合わなくなってしまったので定例ではなくなりました。2年目からは地方支店巡業も行いました。一週間かけて全国を回ったりもしましたよ。
組織の意思決定スピードを早めるために社長と二人三脚で進めた抜擢人事では、幹部層との1on1からミドルマネジメント層の戦力を丁寧に把握し社長判断の妥当性を客観的意見で強化
中島:新陳代謝を促す組織再編のために、抜擢人事と配置変更も行いました。インセンティブを細かく設定したり、営業制度や歩合の見直しも行いました。どんな給与制度でどう評価されたら社員がより前向きに働けるのか、現状の組織体制におけるボトルネックは何なのかといった視点で、没ネタも含めるとかなりの数の施策を提案しましたよ。
組織の再編成においては、誰がどんなことが得意で、やりたい仕事とやるべき仕事、そしてできる仕事は何なのかを洗い出し、上層部を最適な形にスリム化しました。これは、現場からの声も含めた意識の共有や、意思決定のスピードを速めるためでもあります。私自身は次長・課長レイヤーの戦力を把握しながら、人員配置の絵を描きました。
私から施策に対するレビューを出すことも非常に多かったです。案件によっては社長や役員たちと1on1を行い、個人に対してのみ見せるレビューなども書きましたね。これは外部人材が参画する醍醐味の一つかもしれません。特に抜擢人事に関しては社長の壁打ち相手として頻繁に相談の場を設けさせていただきました。社長が抜擢したい人材がいたときに、旧来の体制と照らし合わせてその判断が合っているかどうかといったことです。私から見たときにどう思うかという意見も求められました。その場合は私自身の経験に基づいてその人を抜擢する理由や組織に起こり得る可能性を提示し、背中を押す役割を担いました。
組織デザインのノウハウと運用方法を社内に着実に蓄積
評価と報酬を適切に紐づけたことで、USEN-NEXT GROUPとの統合という企業の大きなターニングポイントを迎えても離職率は低下
板垣取締役:中島さんに支援いただいている間にUSEN-NEXT GROUPとの統合という大きな動きがあり、そのタイミングで退職した人も当然いたのですが、実際の離職率は低下していますね。
中島:コア層が歯を食いしばって残ってくれていた結果だと思います。私も過去にいた企業でM&Aを経験しており、その時にもそうでしたが、通常会社の統合や売却が起きると離職率はグンと上がります。優秀な人材もどんどん他社に抜かれてしまいます。そういった現象が起きず、コアプレイヤーが残っているのは珍しいことです。会社への共感値が高くないと残ってもらえないフェーズにおいて、クレドを作って社員のマインドをグリップできていたこと、評価と報酬を適切に紐付けたことで離職率や新人の内定受託率・昇格率などが改善できていること、そして今後自分たちがやるべきことが見えていたことが大きいと思います。
「自分たちで評価制度を運用できる」。メンバー主体で評価の浸透施策を考えたからこその成果
板垣取締役:組織を作り上げようとしたときにどんなアプローチをすればいいのか、方法論を知れたことも資産ですね。これは、どういう形で評価を浸透させていくのかを考える際に、まずは自分たちの考えを盛り込んだ草案を作った上で中島さんに手直ししてもらっていたことが大きいです。今後は自分たちで評価制度を回していけると思います。
また、役員たちが会議の場で必ずクレドを読むようになったのが個人的にうれしかったですね。本当の意味で社内に制度を浸透させるには、まずは上層部の人間から実践しなければ全社的な動きにはなりませんから。
中島:上の人間がやってみせないと下がやるわけはないということですよね。
私自身の学びについては、「磨きがかかった」という表現になると思います。今までもさまざまな経営者、経営陣をサポートしてきましたが、その手法が間違いではなかったと確認できましたし、新しい施策も試させてもらえました。武器の切れ味が鋭くなったという意味で、今回の案件を担当させていただけてよかったと思います。現在はグループに制度を横展開しようとしている段階ですが、それもキャンシステムさんでの支援が評価された結果だと受け止めています。
キャンシステムでの成功実績を、USEN-NEXT GROUP全体に展開していくという次のミッションに発展
板垣取締役:2018年に弊社はUSEN-NEXT GROUPの傘下に入ることが決まったのですが、中島さんが弊社の将来を見据えて組織をデザインしたり、未来の実現のために必要だった新人事制度の浸透などをしてくださったりした功績が認められ、現在はUSEN-NEXT GROUP全体の仕事をしていただく運びとなりました。
中島さんは今後グループでのお仕事がメインになりますが、相談はこれからもしていくと思います。引き続きよろしくお願いします。
冒頭から言っているように、今回は中島さんだからお願いしたわけですが、人を軸にした案件の進め方はさすがだと感じましたね。過去の豊富な経験やキャラクター性も相まって、非常に相談しやすかったです。助かりました。
社員の会社に対する信頼度も試されるような施策を実行するフェーズにおいて、不安要素を遠慮なく相談できる相性の良いプロ人材と出会えたことも、キャンシステムさんの大きな資産になっていると感じました。
本日はお忙しい中、ありがとうございました!
クレドや評価制度の浸透、次世代に向けた組織再編案件におけるまとめ
- 新卒採用の再開に際して全社的な風土・制度の改革を行うためクレドや人事制度の構築を行なった。その浸透のために本質的課題の解決を得意とする人事領域のプロ人材をアサイン。浸透施策と組織再編を進めた。
課題・概要
- クレドと評価制度浸透のために全国の支店を一緒に回った
- 評価と報酬を適切に紐づけたことで昇格率が上がり、営業もKPIなどが見える化しやすくなった
- 意思決定を早めるために役員の配置や階層を見直しスリム化。ボトムアップでの意見も通りやすくなり、報酬を成果に応じ適切に配分できるようになった
支援内容
- グループ統合という大きな動きがあっても離職率を低下させることができ優秀社員の離脱も防げた
- クレドや評価制度を会社の上層部から現場に至るまでしっかりと浸透させることができた上、今後、組織の再編や制度変更があっても対応できるだけのノウハウを社内に蓄積できた
成果
- 会社としての新たな方針や制度を抵抗感なく現場のプレイヤーに腹落ちさせるには、経験知識共に豊富な外部人材による客観的な説明やレクチャーで納得感を高めることが有効打となる
- プロ人材との1on1を社長含め役員陣が行うことで社内ではなかなか意見しづらい、相談しづらい内容もハレーションを生むことなく進行しやすくなる
- 会社の抜本的な改革を行う長期的な案件においては、社長の本気度は当然だが、プロ人材との性格的な相性や言いたいことを言える関係性も非常に重要
支援のポイント
企画編集:新井みゆ
写真撮影:樋口隆宏 (TOKYO TRAIN)
取材協力企業:キャンシステム株式会社
※ 本記事はサーキュレーションのプロシェアリングサービスにおけるプロジェクト成功事例です。