創業10年を超え、成長した新規事業と既存事業から生じる人事制度の歪みを感じていたIT企業。人事領域のプロ人材だからこそ実現した人事評価制度の見直しとは?
日本で初めてRPA導入支援サービスをスタートしたワークスアイディ。急成長する先進領域のサービスに対して、従来の人事制度がマッチせず、組織内に歪みが発生していました。そこで、外部のプロ人材によるオンリーワンの仕組みづくりを実施。中途入社者の2年以上の在籍率が向上しました。
人事コンサル会社や内製では実現できなかった人事制度再構築の手法と成功のポイントなどについて、代表取締役社長の池邉竜一さん(以下:池邉社長)と、プロ人材の池辺英治さん(以下:池辺)に話をお伺いしました。
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創業期から続けている既存事業と最先端の新規事業の狭間で苦しむIT企業がプロ人材の人事コンサル池辺さんに出会うまで
人材派遣業から始まり、時代の流れに即してRPA導入支援をスタートさせたワークスアイディ
ワークスアイディ株式会社 代表取締役社長 池邉竜一さん
池邉社長: ワークスアイディは20年前に設立した会社で、祖業は人材派遣業です。ただ、昨今は少子高齢化や正社員化の波を受けて派遣希望登録者数は減少傾向です。デジタル化に伴いコア業務やノンコア業務のシェアリングの考え方も変化してきていたことを受け、新たに人以外の力で行う事業も開始しました。それが現在の主力であるRPAの導入支援サービスです。
RPAやIoT、AI、データサイエンスなどを絡めて人に代わるものは成長セグメント、人の力で担う人材派遣業は安定セグメント、という2つの需要で大きく事業を分けています。
創業20年の歴史を持つ成長企業が抱えていたのは、人事制度の歪みによる離職率の上昇という課題
池邉社長:RPA・AI・データサイエンスなどITソリューションの事業領域が急成長している一方で、人材派遣業時代から培ってきた社内の評価制度や報酬の仕組みが劣化してきていました。従来のやり方のままでは、伸びしろのある産業に対してテクノロジーでどんどん攻めていこうという気概も削がれてしまう恐れがあったのです。
しかも、市場においてはエンジニアが枯渇しています。転職市場でもエンジニアの有効求人倍率は8倍以上という状態の中では、昔からの大手企業にありがちな「長く勤めていれば給与が少しずつ上がる」という評価制度のままでは魅力を感じてもらえません。離職率も高くなっていました。
もう一つの問題点は、全社で共通する制度と、各事業部固有の制度を両方持っていたことです。事業の事情に応じて寛容に制度を作っていたものの段々収拾がつかなくなり、会社の歴史的背景を知らない新入社員にとっては非常に複雑でわかりにくいものになっていました。
解決すべきことは複数ありましたが、まずは離職率を下げることを第一のテーマとしていました。
課題解決の方法として人事コンサル会社や社内での対応ではなく、プロシェアリングにした理由
プロシェアリングとの出会いについて語る池邉社長
池邉社長:知人からプロシェアリングというサービスがあることを聞き、プロシェアリングサービス会社のコンサルタントの方の紹介で池辺さんと面談をすることになったのがきっかけです。そのときのヒアリング精度が非常に高かったのが良かったですね。既存事業と新事業をしっかり橋渡しする制度を作りたいこと、それは出来合いのパッケージでは上手くいかないだろうと感じていることなどをお話しました。しっかりと課題整理もしてくれましたよ。
また、内部の人間にはなかなか言えないようなことをはっきりと言ってくれるのも外部を使うメリットだと思いました。
当社の既存の制度は当時の顧問が大手企業のテンプレートをベンチャー企業用に削ったものだったため、形骸化している部分が多々ありました。池辺さんなら大手、外資、ベンチャーそれぞれの企業を経験しているため、ここをバランス良く整えてくれるだろうと思ったんです。
池辺さんに詳しくお話しをきくと、キャリアがマッチしていたことに加えて、最初に提出いただいた資料がフルカスタマイズで制度を作るという思いがこもっていました。出来合のパッケージを導入するわけではないので、しっかり向き合ってくれそうだと感じました。
支援に入ったプロ人材の池辺さんが、新日本製鉄から人事コンサル、ベンチャー経営企画などの多様なキャリアから見出だした、支援で大切にしている3つのこと
ワークスアイディさんの支援に入ったプロ人材の池辺英治さん
池辺:もともとは新日本製鉄の人事労務部に勤めており、その後外資系の人事コンサルティング会社(マーサー・ジャパン)で人事変革の案件などを数多く担当しました。ベンチャー企業で経営企画業務と人事制度構築を経験した後に独立し、現在は幅広い業界で人事制度設計、導入、定着支援を行っています。
支援の際に大切にしていることは3つです。1つは、お客様固有の課題にしっかり向き合った制度設計をすること。2つ目は運用を前提とした設計を行い、運用時に発生した問題に対してフォローと微修正を行うこと。3つ目は、企業様と一緒に考えるということです。いずれは企業様が自分たちで制度をマネジメントしていくことになりますから、設計と運用まで一緒に考えることで主体的な活用ができるようにしています。また、インプット面では専門誌や知人からの情報等で最新のトレンドも押さえるようにしています。
現場の声も吸い上げながら、根気強くオンリーワンの制度を構築したプロセス
「従業員の定着率を7割にあげる」というゴール設定
池邉社長:先程申し上げたようにまずは離職率を下げることを第一のテーマとしていたので、課題に対して定量的な改善ポイントを最初から持っていたことは、池辺さんとプロジェクトを進める上で有利に働いたのではないでしょうか。プロ人材側も、漠然と「良い人事制度を作ってくれ」と言われても困ると思いますから。
明確な目標とゴールイメージについて語る池邉社長
池辺:社長のおっしゃるとおり、人事制度の仕事はプロジェクト自体の目的や目標がふわっとした曖昧なものになりがちです。その中でワークスアイディさんの場合は、現状3年間の定着率が4割のところを7割まで上げたい、特にエンジニア派遣業についてはある一定年数以上在籍してほしいという具体的なゴールイメージがありました。この定量的な目標をクリアできるような評価、給与、等級の仕組みを作っていこうということで合意しましたね。
さらに会社全体として統一感のある仕組みにしたいということ、さまざまな雇用区分をカバーできるようにしたいという要望も伺っていたのですが、事業間の収益モデルや処遇、評価、報酬水準などが思った以上に異なっており、雇用区分も非常に複雑でした。当初の想定よりも大幅に工数が必要になると予想できたので、まずは成長中のエンジニア派遣事業部門に絞って支援することになりました。
オーダーメイドスーツを作るように、きめ細かなヒアリングをした詳細設計
池邉社長:これは詳細設計を行うためのヒアリング時のエピソードですが、非常に面倒臭い打ち合わせが延々続いたんです。何を整えて考えるべきなのか、細かな点までヒアリングをされました。それに対して「良い塩梅にやってほしい」と伝えたところ、「細かいことを決めてくれないとこちらも作れません!」と言われて。企業をちやほやするスタンスではないのだと実感しました。出来合のパッケージを導入するわけではないので、実際、ヒアリング段階は大変でしたが、一度基本データをインプットしてしまえば後工程は楽でしたね。オーダーメイドスーツを作るような感じでした。
プロジェクトにおける細かいすり合わせの重要性を語る池辺英治さん
池辺:きちんとポイントを押さえながら進めないと、後から「違うよ」と言われるのもなかなか厳しいものがありますからね。おっしゃっていただいたオーダーメイドも、企業の組織課題に実務経験もあるプロ人材が入って行くプロシェアリングだから実現できる事だと思います。
業種によって違う課題感を捉えながら進めるようにしました。例えば私が以前携わっていたような重厚長大産業はいかに事業や人材を安定させるのかが大方針となりますが、IT業界の場合は人材の流動が大前提です。その中でいかに長く留まり入社5年未満の方により一層活躍してもらうか、という部分に重点を置いて設計しました。
現場のミドルマネジメントを巻き込み、運用のオンボーディングまでフォローアップ
池辺:稼働頻度は週に1回で、まずは現状分析から開始。社長や各部署のマネージャー、若手社員に至るまでキーパーソンの方々に改めて課題について伺い、データ分析も行った上で基本方針を決定、概要設計に入りました。方向性の同意が取れたら詳細設計です。人事制度の場合は等級、評価、給与の仕組み3つをワンセットにして構築していきます。
完成した制度は導入プランとして従業員向けに説明会を行いました。この段階までで完了するケースと、しっかりフォローアップをするケースの2パターンがあるのですが、今回はフォローアップまで携わりました。実際に運用し始めると思ったような目標設定がされていなかったり、評価の付け方を誤ったりすることがあるため、適切に運用されるようガイドしたり、必要に応じて制度を微修正したりするためのステージですね。
進め方のステップを整理すると次のとおりです。初めの1年間は設計と導入でした。具体的には、ヒアリング〜現状分析で3カ月、設計で7カ月、導入準備として評価者研修と従業員向け説明会に2カ月でした。2年目は運用のフォローアップ。評価結果の調整方法や昇給管理方法等の運用面を中心にフォローアップしました。3年目は微修正の段階です。ワークスアイディさんが、より自社にフィットした制度にしていくための、等級と評価の微修正をご支援しました。
なお、稼働日数は、2年目で半減させ、3年目でさらに減らしました。
体制としては、社長と取締役がプロジェクトの大きな方向性を決定し、事業部長とマネージャーがリーダーとして、私と共にプロジェクト全体のマネジメントや詳細設計を行う体制でした。3年目の微修正の段階に入ると、事業部長とマネージャーが主体的にプロジェクトをマネジメントし、私はチェックやアドバイスに徹していた感じです。
プロジェクトの体制について語る池邉社長
池邉社長:システム開発に例えるとフルスクラッチのようなプロジェクトでした。当社からはメインのカウンターパートを2名置いたのですが、過去を無視した制度を作っても定着しないと思い、会社のこれまでの歩みを熟知している取締役とエンジニア派遣の事業部長を選びました。作り変えるべきところは作り変えるとしても、過去と現在から飛躍しすぎないように押し留めてもらう必要もあると感じていたのです。過去も大事にしつつ未来も見据えなければならないので、そこの優先順位付けは私がしていました。
制度を運用する事務局の人材の育成が鍵
人事評価制度の運用における評価者となる現場のリーダー育成の重要性について語る池辺英治さん
池辺:最初にお話した運用の重要性が関係しています。今後5年、10年経過して再び大きな制度変更をするタイミングでは外部の専門家を利用しても良いと思うのですが、当面は自分たちで改善をしながら、会社に馴染んだ制度にしていくことが大切です。制度全体の運用を担う事務局となる事業部長とマネージャー、そして実際に制度を利用する評価者が、いかに制度をツールとして意味のある形で扱っていけるかということですね。
今回の案件では、かなり良い形に着地できたと思っています。詳細設計の段階では評価者に関わってもらい、現場の意見を吸い上げた仕組みになるよう工夫しました。制度は評価者が責任を持って運用していくものだということを深く理解してもらうため、導入段階では現場のユニットリーダーに対して評価者訓練も行っています。その上で事務局からも改善すべき点があればどんどん意見を言ってほしいという旨も伝えていただいたことで、各メンバーの当事者意識がぐっと高まったはずです。
実際に運用開始してからは改善部分について話し合う場を事務局が作ったのですが、これも適切に機能していたと思います。評価をした後は評価者ミーティングも行い、修正をかけて次年度に反映させるという動きを実践しています。
定量的な成果とともに作り上げたメンバーの意識改革が一番の資産
当初のゴールの離職率の低下も満足のいく数値が出せた
人事評価制度の成果としての離職率低下について振り返る池邉社長
池邉社長:具体的数字は企業秘密ですが、当初感じていた離職率に関する課題に対してもかなり満足のいく数値が出ています。現在はいかに制度を自分たちのものとして運用していくのかという定着のフェーズです。
定性面では、自分たちの納得のいく制度が出来上がったと感じています。これは池辺さんが急かさず、根気強く時間をかけて携わってくれたおかげです。例えば「これは1ヶ月かけて考えてください」といったように、自分たちで会議をしてじっくり検討する期間を設けてくれたことで、制度に対する納得感が高まりました。時間をかける、という事は費用面からすると一見悪に見えるかもしれないですが、今回のケースはここが成功のポイントでしたね。
「自分たちがこの人事制度を運用するんだ」というミドルマネジメントの当事者意識
評価者となるミドルマネジメントの当事者意識の重要性について語る池辺英治さん
池辺:特に事業部長とマネージャーが主体的に取り組み、「自分たちが決めてやっていく」という姿勢を見せてくれたのが非常に良かったと思っています。強い思いを持って引っ張っていくメンバーがいないと、どんなに良い制度を作ってもあっという間に形骸化してしまうからです。ユニットリーダーたちの意識も徐々に「自分たちでこの制度を運用するんだ」という方向に変わっていくのを感じました。ワークスアイディさんにとってはそれが一番の財産なのではないでしょうか。
池邉社長:意識の変化は私も強く感じています。池辺さんは私たち企業側の当事者意識を引き出すのが非常に上手いですね。
評価制度をプロ人材と一緒に自分たちで作ったという事実も資産です。既存のパッケージを当てはめただけでは、やらされた感がありますから。プロジェクトの最後の方は、メンバーからの文句は全く出ませんでしたよ。
池辺:評価される側の目線でいる限りは、現状の制度に不満を抱き続けることになります。評価することの難しさや制度の限界を評価者自身が理解するのは大切なことです。その中でどう折り合いをつけて最大限良いものを作り、上手く運用していくのかという方向にみなさんの意識が成長したのでは、と思います。
人事制度の全社展開を通して事業発展を続けてほしい
池邉社長:池辺さんという優秀な方に出会えたことで、非常に良い制度ができました。外部の優れた人材がこれだけ内部のメンバーと一緒に熱く考えてくれるのだという経験ができたのはとても良かったです。
ただ、優秀な方は忙しくてすぐに稼働が埋まってしまうので、池辺さんみたいな方がいたらすぐに出会える環境が欲しいですね(笑)
ワークスアイディさんに導入した評価制度の全社展開ついて語る池辺英治さん
池辺:支援に入っていても、自主的にやっていく心意気を持つ会社さんは少ないと感じます。最初はやる気があっても事務局のモチベーションが低かったりして、久しぶりに訪問すると上手く運用できていない…というケースも多いです。一方でワークスアイディさんは、面談時からあわよくばコンサルティングのノウハウを吸収して、自分たちの事業にしていこうというくらいの熱量がありました。当事者としてメインで活躍してくれた事業部長やマネージャーも、その思いのままプロジェクトを推進してくれたおかげで成功したのだと思います。
ちょうど先日最後のミーティングを行ったのですが、エンジニア派遣事業部門で培った経験と制度を今後どう社内の他部門に活かしていくのか、事務局として活躍された事業部長とマネージャーが全うすべき役割は何なのかといったことをお話しました。今回の経験がきっかけとなり、他部門の制度改革、さらには、ワークスアイディさんの事業発展につながればうれしいです。
人事領域のプロとの二人三脚で、オンリーワンの制度を自分たちで作れるコントロールセンターができたのですね。今後も成長して行っても、自分たちで乗り越えていける体制ができたのは心強いですね。
ダブルいけべ様、本日はありがとございました!
(左)ワークスアイディ株式会社の代表取締役社長 池邉竜一さん(右)プロ人材の池辺英治さん
実態とそぐわない人事評価制度の再構築案件におけるまとめ
課題・概要
成長事業と既存事業の間に人事制度の歪みが生じているという課題に対し、外資系人事コンサル・ベンチャー〜大企業での人事労務経験のあるプロ人材がアサインされ、エンジニア部門の制度を見直しへ
支援内容
- 現状分析→制度設計→導入準備→運用フォロー→制度微修正。約3年かけ、新制度の運用・微修正までフォロー
- 事業部長とマネージャーをコントロールセンターにすべく専門家が教育、評価者に訓練を実施するなど階層別に指導。再び人事制度で課題が生じた際には自分たちで対応できる体制を社内に構築。
成果
- 当初課題となっていた離職率・定着率は改善され、当事者意識を持って制度運用していくミドルマネジメントを育てられた
- 今回作ったエンジニア向けの制度を活かして、社内の他部門に展開していくことが次の課題
支援のポイント
- 成長企業、特にIT業界では変化のスピードが早いので、その度に外部のコンサルティングや雇用をしていては費用面での負担も大きくタイムリーな対応が難しいこともある。
- そこで人事領域のプロ人材を業務委託でアサインする「プロシェアリング」は、有効な手段となった
- プロ人材と一緒にプロジェクトを成功させるには、彼らを使いこなすことも重要で、その際に企業側には自分たちで次回以降は自走できるようになる、という覚悟が必要
- プロ人材も、企業が自分たちで自走し成長できる支援をするために、彼らの課題に寄り添い、自身の分身をその企業に作って行く姿勢が求められる
企画編集:新井みゆ
写真撮影:樋口 隆宏(TOKYOTRAIN)
取材企業:ワークスアイディ株式会社
※ 本記事はサーキュレーションのプロシェアリングサービスにおけるプロジェクト成功事例です。