【イベントレポート】SaaS開発のベンダーコントロール入門 ―製造業の新規事業に学ぶ、非IT企業が外部ベンダーへのWEBサービス外注を成功させる3つのポイント―
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
2022/07/05回では、ベンダーとのコミュニケーションに難航したり、うまくコントロールできずに悩まれている皆様に向けて、HRtech企業のCOOとしてご活躍されている 三角氏に、新規事業グロースを成功させたお話を交え、ベンダーコントロールのノウハウを語っていただきました。
「ベンダーとのコミュニケーション方法がわからず正しく要望を伝えられない」
「慣れないWEBサービスの開発スケジュールが遅延/コントロールできず困っている」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。
当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。
三角 勇紀氏
シングラー株式会社 COO
大学卒業後、インターネット広告代理店にて勤務。システム部のリーダーとして開発やBIツール導入、技術戦略立案などに従事。その後システム開発をメインとした新規ビジネスの立ち上げ、外注先ディレクションや人材採用などを経験。フリーランスのエンジニアを経て現在はHRtech企業のCOOとして会社経営に携わりながら企業のDX推進やデジタル新規事業立ち上げを支援。
村田 拓紀
株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部
FLEXY部マネジャー
中古車のマーケットプレイスシェア首位の企業にて拠点責任者、営業戦略策定、メンバーの採用から育成まで幅広く従事。IT企業を経てサーキュレーションに参画。現在はIT戦略における中期ロードマップ策定、IT企画人材育成に向けた技術顧問活用プロジェクトなどDX推進に舵を切る多くの企業を支援。
酒井 あすか
イベント企画・記事編集
新卒で大手人材紹介会社に入社し、中途採用における両面マッチング型の法人・個人営業、グループ会社・地銀とのアライアンス連携業務に従事。丸の内エリアに本社を構える企業への採用支援、100名単位のグループ会社社員に対して営業企画、地銀への人材紹介事業レクチャーに携わる。サーキュレーションではプロ人材の経験知見のアセスメント業務とオンラインイベントの企画〜運営を推進。
※プロフィール情報は2022/07/05時点のものになります。
Contents
IT人材や開発ノウハウの不足が外注マネジメントを困難にする
IT人材の不足が叫ばれるようになって久しく、2020年時点では約40.8%の企業が大幅な人材不足を感じていると回答している。3年前に比べると、数値は16.1%増加。IT関係のプロダクトを開発しようと思うのなら、外部企業との連携は避けては通れない状態だ。
実際、開発工程を内製化できている企業は少数派で、18.1%程度にとどまる。
特に全社的にDX推進を行うのであれば、SIer、サプライヤー、コンサルティング会社、スタートアップ企業など、さまざまなパートナー企業との共創も求められる。
一方、社内にIT人材が不足しており開発ノウハウもない非IT企業の場合、外注マネジメントを行うハードルは非常に高くなってしまうのが現実だ。
製造業界のSaaS開発の事例に学ぶ、外部ベンダーコントロール改革ロードマップ
今回は講師の三角氏が実際に手掛けた事例を交えながら、非IT企業がどのように外部ベンダーをコントロールすべきなのか、ポイントについて伺っていった。
適切なベンダーコントロールで開発効率を2倍に向上
今回ご紹介いただいたのは、老舗の製造企業の事例だ。売上規模は5000億円以上、従業員数は1万人。新規事業として製造業マッチングクラウドサービスをローンチまではしたものの、社内にデジタルの知見のある人材が不足しており、プロダクトが停滞している状態だった。
ここに三角氏が参画し、適切なベンダーコントロールを実施。開発効率は約2倍にまで向上し、顧客満足度も高いレベルで維持しているという。
村田:もともと三角さんは開発部隊のサポートで参画されたそうですが、その後役割が拡大したそうですね。
三角:開発にフォーカスを当てるにしても、開発にどんな要素が必要なのか、顧客はどのような人なのかなどについては、ビジネスサイド――経営の上層部と戦略的に進めていく必要がありました。その結果、開発にとどまらず役割が拡大していった状況です。
外注マネジメント体制の変革ストーリーとは
実際に三角氏が行った外注マネジメント体制の改革ストーリーは、以下のような4ステップに分けられる。現状把握・課題整理、ベンダーコントロール、開発体制の再構築、プロジェクト運用。ここまでを約6ヶ月間、PMのアドバイザーとして週2日支援することで達成したという。
[Step.1]現状把握・課題整理
村田:まずは現状把握と課題整理から始めたそうですが、最初に重要だったのはどのような部分ですか?
三角:意思決定者に「こんなことをやりたい」という夢物語も大きな市場もあったのですが、一番目先のターゲットが誰なのかわかっていなかったため、そこをきちんと押さえていきました。というのも、プロダクトを開発する上では「最終的に押さえるべき部分」と「やらなくてもいい部分」を見極めないと、立ち戻る場所がなくなってしまうからです。
[Step.2]ベンダーコントロール
村田:次にベンダーコントロールのステップに入ります。課題としては、ベンダーが言われたことを言われた通りに実装をして負債を積み上げていたそうですが、これはどういう状況だったのでしょうか?
三角:システムを開発するにあたっては要件定義をする必要があります。そこをビジネスサイドのメンバーが策定してベンダーに伝えるのですが、ベンダーが言われた通りに作る――例えるなら、森を見ずに木を植えるような活動をしてしまっていました。蓋を開けると、植えてはいけない場所に木を植えている状態になっている。これを「負債」と呼んでいます。
村田:ここを改善するために具体的に何をしたのでしょうか?
三角:重要なのは森、つまり全体設計を明確にして全員が意識することです。そのためにコミュニケーション頻度を増やし、「木の植え方」の部分にまでベンダーさんに入ってもらうようにしました。自分たちがしたいと思っていることがエンジニアの世界から見て矛盾していないか、そもそも機能として合致しているのかなどを話し合うのです。
より細かいコミュニケーションのループを回すために、スクラム形式でプロジェクトを回せるメンバーもアサインしました。
[Step.3]開発体制の構築
村田:3つ目のステップでは、開発体制を再構築されたそうですね。ここでは、「ベンダーはビジネスを成功させるための重要なパートナーである」という認識を形成したと伺っています。
三角:そうですね。「ベンダーがよしなにやってくれるだろう」と思ってそのまま渡した結果、自分たちの想定とは全く違うものが出来上がってしまう状況があって。これに対して、ベンダーはビジネスを一緒に進めていくパートナーであると認識してもらい、その上で実際にビジネス側に入ってもらう仕組みとしてコミュニケーションを増やしていきました。
従来、ベンダー側はソースコードを書いて実装してローンチするルーティンの繰り返しになりがちだったが、事業背景を理解してもらうために定例会に参加してもらうなど、外部ベンダーを巻き込みながらチームビルディングを行ったという。
[Step.4]プロジェクト運用
村田:最後のステップがプロジェクト運用です。事例では開発リーダーの方に営業経験がなかったため顧客ヒアリングが上手くできなかったそうですが、リーダーがセールスと開発の連携役としてコミュニケーションに集中できるよう補佐されたと伺っています。
三角:顧客への提案や上司への説得材料、予算など、営業の基礎的な仕組みを営業側からしっかりインストールしてもらうようコミュニケーションを取りました。チームが顧客のニーズを正しくできるような体制を築いていく形です。
非IT企業のためのSaaS開発ベンダーコントロールを成功させる3つのポイント
以上のステップの中で登場する大きな課題は、総じて「ビジネスサイドと開発サイドの目線が合わなくなる」「ビジネスサイドが正しい顧客ニーズを把握しているとは限らない」という点に集約される。
これらを解消してベンダーコントロールを成功させるポイントについて、より具体的に3つ伺った。
[Point.1]スクラムマスター
第一のポイントは、スクラムマスターと呼ばれる役割の設定だ。スクラムマスターとは、いわゆるアジャイル形式の開発の一つであるスクラム――小さなチームで細かにPDCAを回す開発手法を推進する立場を指す。
三角:一番重要なのは、スクラムを実行する意図を正しく理解している人のアサインです。意図とは、「小さな改善を繰り返し、当初の計画から変化している部分をキャッチアップする」こと。調整役というよりは実行役に近く、スクラムを運用してプロジェクトを前に進められる人を置くべきですね。
実際にスクラムマスターが取り組むのは、毎日の朝会やスプリント単位の振り返り、カンバンボードによるタスク管理などだ。
[Point.2]戦略へのフィードバック
もう一つのポイントが、戦略へのフィードバックだ。開発要件と企業の戦略が連動しているという共通認識を、プロジェクトチームで持つことが大切になる。
村田:これは社内請負を解消するために必要だそうですが、具体的には何をすればいいのでしょうか?
三角:社内請負になりがちな理由は、顧客の背景を理解せずに言われたことをそのままやったり、開発を実装すること自体がモチベーションになったりしがちだからです。
しかし、実際はPMが顧客の背景にあるニーズをきちんと抽象化し、それが一般的なマーケットにフィットしているかどうかを判断しなければなりません。明確になったターゲットが従来の戦略と異なるのなら、どんな方向に進むべきなのかを検討することになります。
[Point.3]チームビルディング
最後のポイントはチームビルディングだ。社内外の文化を融合し、目標達成に向けて能力を最大化させる必要があるという。
村田:文化の融合は難易度が高いと思います。ベンダーコントロールの取り組みとしてはどんなことをすればいいのでしょうか?
三角:大切なのはビジネス背景の言語化です。言葉で説明するのではなく、文字に落とし込む必要がありますね。それによってビジネスサイドが何を考えているのかを明確にし、プロジェクトチームが立ち戻れる場所を作りましょう。
すると、ベンダー側からも「この要望はこういう意図で合っているのか」「もっと別の機能を付けなくていいのか」といったコミュニケーションが生まれてきます。ベンダー側から上がってきた意見によってビジネスサイドが新しい気付きを得られる相乗効果もありますね。
SaaS開発のベンダーコントロール入門まとめ
今回のウェビナーのポイントをまとめると以下のようになる。
また、今回のウェビナーを受けてDX推進者、新規事業責任者の方にすぐに取り組んでいただきたいのが、以下の3つの要素だ。
今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。SaaS開発のベンダーコントロール入門にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。